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20話

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「おいっ! ロイっ! 起きろっ!」

「うぅ……」

 この声は師匠?

「気が付いたか! 何があった!?」

「……ん?」

 何で僕は寝ているんだ?

 ──!? そうだ!

 微精霊が何故か大量に集まってきて──

 魔力を吸い取られた?

 それで意識がなくなったのか?

 でも、確か僕は【魔感度】の『魔素還元』を咄嗟に使ったはずだ。

 凄い勢いで無くなる魔力を補充していたはずなんだけど──

 それでも魔力が間に合わなかったのか?

「しっかりしろっ! を登ったのか!?」

 何故、倒れてる僕にそんな事を聞く!?

「し、師匠……僕は童貞のままです。どうやら魔力切れで寝てたようです」

 まだ体が怠いけど、なんとか動ける。

 魔力は一気に枯渇すると死ぬ危険があるって聞いている……『魔素還元』がなかったら死んでたんじゃ……。

 師匠の近くにユラさんも見える。何故か険しい顔をしているが……。

「そうか……意識が無かったから焦ったぞ……」

「……ご心配おかけしました……とりあえず大丈夫そうです」

「無事なら良いんだ。とりあえず──敵意が無いから放っておいたがあの女の説明をしてくれるか?」

 あの女?

 師匠が指差す方向を見ると知らないがいた。

 誰?

「……師匠」

「なんだ?」

「知らない人です……」

「はっ? んなわけねーだろ……俺達が来た時、その女の上に倒れるように一緒に横になってたんだぞ? 『もっとぉ……』とかその女が呟いていたから真昼間から連れ込んで庭でヤルなんて童貞の癖してすげぇなって思ったぐらいなんだが?」

 なんだと……ついに僕は大人の階段を登ったのか?

「仮にそうだとしても全く覚えていません」

「初めての時ってのはがむしゃらだからな……まぁ、責任とってやれよ?」

 師匠の言葉に僕は血の気が引いていく。

 ほ、本当にヤったのか!?

 それならユラさんのこの目付きの理由もわかる。『このケダモノが!』と言わんばかりだ……。

 意識を失ったのは間違いなく魔力枯渇が原因のはずなんだけど……。

 そう思って師匠に弁解しようとすると、黒髪ロングの女性は話しかけてきた。

「初めてだった……あんなの初めてだった」

 ぐはっ……。

 僕は心の中で吐血する。

 これは確定なのか?

 険しい目付きから射殺すような目付きに変わるユラさん。

 師匠がポンっと肩に手を当てる。

「まぁ、なんだ……この子も超がつくぐらいの美人さんだ……幸せにしてやれよ?」

「ご、誤解です。僕は微精霊らしき存在に魔力を根こそぎ取られて意識を失っていたんです!」

 こういうのってさ、好きな人同士でやるもんじゃないの!?

 お互いに初めてで、それが庭でなんか絶対嘘だよね!?

「しかし……状況的に見ても俺もユラもそうとしか思えんしな……」

 状況的にって……僕は会ったの今が初めてなんだよ!?

 って事は意識を失った後に僕が喰われたって事じゃね!?

 なんてこった!?

 そりゃー覚えてないよ!

 僕は絶賛パニック中だ!

 すると、黒髪ロングの女性がまた話しかけてくる。

「魔力欲しい……」

 なんでここで魔力?!

 ん? 魔力?

 まさか──

 この子ってさっきの微精霊?

『鑑定』の大将お願いしやす!

 名前:エレノア

 大量の魔力を得た事によって生まれた無属性精霊。


 ──神はいた!

 というか大将ありがとうございます!

 これで僕は疑いが晴れそうです!

 僕は『感度操作』について誤魔化しながら事情を説明する。

 魔法を使いたかったから練習していたと!

 すると、ユラさんの目は穏やかになっていった。

「つまり、この子はお前の魔力を食い尽くして顕現した精霊なのか?」

「そういう事です!」

 誤解は解けたっ!

 僕はやりきったんだ!

 それにまだ僕は童貞なんだ!


「ねぇ……魔力欲しい……お願いします……あの気持ち良い魔力を下さい……」

 この人……僕の足をさっきから掴んで離れない!

 裸だから目のやり場に困るんですけど!?

 しかも、胸も大きいし、スタイルも抜群だし!

 上目遣い最高なんですけど!?

「いや……魔力が上手く練れないんです……」

 心とは裏腹に僕は紳士的な態度で話す。

 決して内心を悟られてはいけない。ユラさんにバレたら母さん達にも伝わるかもしれないから。

 それに『魔素還元』を使っているのだけど、機能していないのか、さっきから魔力はあんまり回復していない。

 魔素が無い?


「お願いします、お願いします、お願いします」

 なおも懇願し続けられる。

 どうしようもないんだけど……──!?

 げっ、フィアとレラ!?

 後知らない人達がいる──



 ◆



 ロイの奴め、大人になったと思ったが違ったようだ。

 まぁ、わかっていたけどな。ユラもわかっていたようだが、本当に間違いが起こっていないのか確証がなかったしな。

 この辺りの魔素が極端に薄くなっている。まるで教会集団魔法の聖域結界みたいな錯覚を起こす。

 これがあの精霊の力なのか?

 とりあえず、知らんぷりすりゃー良いだろ──

 そう思っているとフィアとレラの姿が見えた。

 よく見るとエレン、リリア達もいる。

 急激に膨れ上がる殺気──

 拙い──

「ロイっ! 死にたくなければ──本気で防御体制を取れっ!」

「え? 何でですか? ちゃんと話せば皆わかって──おわっ!?」

 ロイが話している最中に槍がロイの心臓目掛けて放たれたので俺が間に入って防ぐ。

っ! 正気に戻れっ! ユラなんとかしろっ! リリアはフィア達を守れっ!」

「無理ね……この辺りは魔法の効果が薄いわ。隊長やシャーリー様がいない時にこんな事になるなんて……とりあえず私達でなんとかするしかないわ!」

 拙い、非常に拙い──

 確かに今のユラだと魔素が薄いせいで魔法を放っても拡散して効果が薄い。

 まさか、ここでエレンが暴走するとは……ロイが女の子を襲ったと思ってのか!?

 エレンは実質今の『聖天』では1番強い。傷付けずに無力化するのは無理だ。

 今もロイの急所に向けて槍を放ち続けている。

 なんとかしなければ──

「えっ?! ええ!? これどういう状況!? ロイきゅんが女の子を屈服させた!? エレン、攻撃止まないと隊長に怒られるよ~」

 うっさいぞリリアっ!

 こちとら話してる暇なんかねぇんだよ!

 そんな気の抜けた掛け声で正気に戻るかボケっ!

 しかも、さっきの精霊の女いねぇしっ!

 俺が防ぎ続けるしかねぇな──

 二日酔いで本調子じゃねぇのについてねぇ……。



 ◆



 非常に拙い。

 今も夫ゾルが本気で攻撃を防いでいるからお互いに無傷だけど──このままだと誰かが怪我をしてしまうわ。

 ──エレンは盗賊に捕まっていた過去がある。

 その時の心因的な原因で暴走する事が昔に度々あった。ここ数年は無かったから治ったものだと思ってましたが治ってなかったんですね……。

 この魔素が薄い中で魔法を放っても威力は半減してしまうでしょう。

 私に出来る事は少ない。せめて、効果は少ないですが街に被害が出ないように結界を張るぐらい。

 リリアも2人の守りで気が抜けない以上は隊長やシャーリー様が戻るまで粘るしかない。

 ゾル──貴方は今の『聖天』で最高の盾使い。

 例え二日酔いであってもその事実は変わらない。死ぬ気で守って下さい。

 任せましたよ──
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