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賢者、新たな地に旅立つ。

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しかし『魔法研究所所属の魔法使い』というのは名ばかりではなかった。
人の手で基礎を作り、削った石を組み上げるより、ずっと丈夫に綺麗に壁が仕上がっていく。
しかも何を思ったのか単なる広いだけの建物は二階建てになり、下は大広間と食堂、共同の便所と浴室、上階に何室かの宿泊室まで作られていった。
「……せめてもの詫びであり。勇者一行は村外れに野営しているとのこと……上階を使われるがよかろうと」
「え。いやいや。それはお断りいたしたく」
申し訳なさそうに出来上がった建物に腕を伸ばして手のひらを向けたカラウセンに頭を下げられ、つい私はつられてしまった。
いや、本当にお断りしたい。
仮にも借りを作りたくはない。
だが私の一存で答えてしまったと気付き、慌ててデューンたちの方を振り返ったが、同意の首振り人形と化している。
「……えぇと。仲間も皆、野営で構わないそうなので、我々ではなく、部下の方たちをしっかり休ませては?」
「ムッ……で、では、せめてミウラトリ・クラミラ・トリウス伯爵令嬢だけでも……彼らを罰する際、こちらにいたというが」
誰だ、口を滑らせたのは。
私たちの誰も、彼女をたった1人でこの男の前に放り出すなど、生贄を差し出すような真似をするはずがないだろう。
それはラダも確かにそうで、嫌悪に満ちた目付きで反論した。
「悪いけど、あの子はアタシと一緒。あんたらみたいな色情魔のただ中に置いていくわけなんかないでしょう?」
「しっ…色情魔などっ……」
「あんたの仲間がナニしようとしたのか、もう忘れたの?たとえあんたが紳士的に振舞おうと、他の奴らのことなんか信用できるわけないでしょうが!なんだったらあんたの部下のメイでもその宿泊室に寝泊まりさせてみれば?伯爵に顔向けできないカラダにされるってわかってるから、わざわざ一人寝させないんでしょう?!」
「ウグッ……」
ラダに鋭く指摘され、カラウセンはふたたび黙り込んだ。
「ああ……なるほど……」
「確かにミウよりは魔力操作や魔法が上手いとはいえ、所詮は少女だからな……純粋に力でねじ伏せればいいと思うバカはどこにでもいる。しかも奴にしてみれば、メイラトリ・クラリカ・トリウスは上司の大切な娘だ。どういう感情を抱こうと、飢えた兵たちの慰み物にはするまいさ」
デューンがボソッと私に私見を述べる。
私もそうだろうと思う。
むしろそれをやったとしたら男として軽蔑するだけでなく、何だったらあまり得意ではない・・・・・・・・・攻撃魔法で制裁するかもしれない。
まあ私がそんなことを考えていても、実行に移すことはないだろう。
少なくとも魔法使いたちは『自分たちは少女の貞操を差し出すような鬼畜ではない』という顔をしているし、一瞬それこそ好色そうな表情を浮かべてミウの妹に視線をやった者もいるが、ほとんどの兵はこの村にいる者にとって自分たちが『国軍の兵』ではなく『平時に色情を押さえられなかった下郎』と見られ、その権威が地に落ちたことを実感して顔を青褪めさせた。


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