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賢者、魔王と再会する。

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村は朽ちて久しいというほどには見えず、とにかく誰かいないかと手分けして家々を見て回った。

だが──

「……いないな」
「うん、いない」
「でも家の中は綺麗よね?」
「何か……まるでこの村総出でどっかに行っちゃったみたい…だね」
私たちが再び集まったのは、村の中央部分である。
共同井戸があり、祭りで使うのかやはり共同のかまどが備え付けられ、皆仲良く暮らしていた様が見て取れる。
「とりあえず、どこかの家を借りましょうか」
「そうだね……王様にもここに誰か調査の人を寄こしてもらった方がいい、かも……」
そう言いながらケヴィンはさっさと伝言鳥に報告と依頼を吹き込み、空へと飛ばした。
デューンは荷馬車ごと、やはり共同らしい厩にシュンゲルを連れていく。
「小さな村なだけあって、やはり宿屋はないようですね」
「あ!でもパトリック賢者様、あの大きい家って、村長さんの家ではないですか?」
「そうですね……やはり、あの家をお借りするしかないでしょうねぇ」
女性であるラダとミウ、男である私やケヴィン、デューンと分かれて家を借りるべきかもしれないが、まだ完全に村どころか周辺を回ってもいないため、安全を確認できるまでは一緒にいた方がいいだろう。
それが皆で出した結論で、もし村の者たちの行方がわかったら何らかの弁償をしようということで、私たちはとにかく落ち着くこととした。


頼りない造りとはいえ屋根も壁もあり、安全もある程度確保されるというのは心に余裕が生まれる。
一応は交代で見張りをしたが、その心労は比べるまでもなく軽い。
疲労感も少なく夜明けを迎えたが、私のそばで寝るウルも静かで、獣の唸り声も聞こえてこなかった。
「……何か、すっごく寝たねぇ~」
日が昇り朝もやの匂いが残る中、私たち男どもは身支度とともに周囲の様子を探るために、広場の井戸で顔を洗う。

──やはり生き物の気配はない。

少なくとも人のような大きな気配を感じることはなく、私もケヴィンもデューンもそれぞれが油断なく周囲を見回す。
が、やはり怪しいところはない。
「しかし、魔物の気配もないとは……」
「そうか……俺には普通の生き物の気配がない、としかわからんが……」
「デューンは実戦になれば、見えてなくても撃破できるのにねぇ」
「うむ……戦いの際は殺気というかその……こちらに挑む気配がわかるからかもしれん。うまく言えないが……」
ケヴィンがキョトンとするが、デューンも自分の感覚をどう表現していいのかと首を傾げる。
まあ、私も何故自分が魔力を操れるのか説明しろと問われても、「わかるからやるのだ」と答えるのと似ているだろうか。
だがそうやって喋りながらも四方八方に何かしら動くモノが感知できぬかと気配を探るが、すっかり日が昇りきる頃に、ラダとミウが保存食を持ってやってきた。


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