経験豊富な私が恋のキューピットを出来ない訳がない

三毛猫ジョーラ

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第1話 美少女は最初の一歩を踏み出した

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「フラウちゃん! 聞いて聞いて!」

 行きつけの食堂『鶏の巣』を出た私に何者かが背後から抱きついた。
余りの勢いに晩御飯用に買ったローストチキンサンドを落としそうになった。

「ちょっとルルディア……その爆乳これ見よがしに押し付けないでくれる?」

 耳に届いた甘ったるい声と背中に押し当てられた柔らかな感触で、私はその何者かが誰だがすぐに分かった。私の反応が予想を大きく下回ったのか、彼女は「ゴメン」と小さく呟きながらゆっくり半歩後退りをした。まったく面倒くさい性格だなと思いながら振り返ると、しゅんとした顔のルルディアが立っていた。

「別に怒ってないから。で、どうしたの?」

 私がそう言うとルルディアの表情はパアッと一気に明るくなった。彼女は私の手を引いておっきな胸でそれを挟み込んだ。

「そう!あのね!聞いて聞いて! ついにカロッタくんをパーティーに誘ったの!」

「へぇ。よかったじゃん」

「ちょっともぉフラウちゃん。反応薄いんですけど。私めっちゃ勇気出して頑張ったんだから!」

「はいはい。ルルディアちゃん偉いでちゅねー。頑張った頑張った」

 私は胸に埋もれた手を引っこ抜いてから彼女の頭を軽く撫でてやった。彼女は「えへへ」と笑いながら、その大きな瞳の目尻を下げる。


 私の目の前に立つ美しき魔法使い、ルルディアは小憎らしいほど可愛らしい。透き通るような白い肌にくりくりお目目。そして細い体に似つかわしくない、立派に実るたわわなお胸。街を歩けば誰もが振り返り、すれ違う男達の視線を磁石みたいに引き寄せていく。誇張なしにルルディアはいつだってキラキラと輝くお姫様のようだ。

 ただ唯一、我々その他一般の女子達にとっての救いは、彼女の恋愛偏差値は恐ろしいほど低いのだ。

 彼女と私は列記とした冒険者。私が攻撃主体の黒魔法を使い、ルルディアは主に治癒やバフを行う白魔法を使う。彼女とは魔法学園の同期で、卒業してから共に冒険者となり二人でパーティーを組んだ。二人でラビリンスを攻略しながら二年の歳月をかけ、ようやく最近Cランクとなった。

 ちなみに私達のパーティーは特に男子禁制という訳ではない。本当はゴリゴリ戦闘系のアタッカーが欲しいのだけど、如何せんルルディアが男に対する免疫が無さ過ぎるのだ。

 もちろん彼女がモテない訳がない。その圧倒的な可愛さに逆に男達は気後れしてしまう程だ。パーティーメンバーの募集をしてもなかなか人が集まらない。たまに勇気ある男が来るとなぜかルルディアは挙動不審になってしまう。新メンバーのテストを兼ねて森へ入れば、ルルディアはずっと私の背中に隠れているのだ。

「フラウちゃん彼が怪我したらどうしよ!?」

「いや、怪我したらルルが治してあげなよ」

「でも私、まだ直接触れないと治せないし……」

「いいじゃない。ベタベタ触りなよ」

「フ、フラウちゃん!そんなふしだらな!」

「なんでそうなるのよ。あなたはヒーラーなんだから。ほら、早くバフもかけてあげて」

「それならここからでも。身体強化アクシス

 ルルディアが小さな白い杖を振ると前方にいた戦士くんの体が輝いた。彼は拳を握りながら笑顔でこちらに振り向いた。

「ありがとう! 力が湧いて来るよ!」

 そんな彼の視線から逃げるようにルルディアはさっと私の後ろに隠れる。仕方がないので私が代わりに微笑み返す。

「いいえ~。これくらいお安い御用よ」

 もちろん彼は苦笑いを浮かべるしかない。そして結局戦士くんは最後までルルディアと会話することさえなかった。せっかく勇気を振り絞った彼は絶望のうちに帰路に着いただろう。


 そんなルルディアがさっきから頬を赤らめながら語っているカロッタという戦士。実は彼と私は幼馴染だ。こいつもまた「超」と「ド級」が付くくらいの恋愛音痴。いや、恋愛音痴というよりだいぶ色々拗らせている感じだろうか。

 昔っからカロッタは頭も良いし剣も大得意。そしてお世辞抜きで顔も良い。町中の女の子の憧れだったし、私も過去に一度は恋した事もあった。性格も明るいし男子からも好かれる。だがなぜか女の子の前に立つと急にそっけない態度を取ってしまう。

 冒険者となったカロッタはより精悍さを増し、まさに見た目は王国一番と言っていいだろう。そんな彼と幼馴染ということもあって、私はよく告白の橋渡しをお願いされていた。カロッタを呼び出し、いつもこっそり物陰から事の成り行きを見守っていた。

「カロッタさん! これよかったら受け取ってください!」

「あ~今日バレンタインかぁ。うちの姉ちゃんチョコ好きだからもらっとくわ~」


 ……なんだこいつ。

 かっこつけてるのか? クールを気取っているのか? 対女子への反応がとにかく塩っ辛いのだ。その癖いつも「あ~彼女が欲し~」などとほざいていた。

 ……マジで、なんなんこいつ。バッカジャネーノ。

 たまに冒険者ギルドですれ違うけど私は極力絡まないようにした。


「私……カロッタくんのことが好きかもしれない……」

 ルルディアが私にそんなことを言ってきたのが一年前。

「そうなんだ。じゃあ付き合っちゃえば? あいつたぶん彼女いないよ?」

「そ、そうなの!? 告白しちゃおうかな……」

「うん、そうしなー。じゃあ私が呼び出してあげるよ」

「えっ! いきなり!? ムリムリムリムリ!」

「大丈夫だよ。ルルの告白断るような馬鹿はいないって」

 と口には出してみたがカロッタなら断ってしまうこともあり得る。でもソロの冒険者としてすでに彼はBランク。さすがにあの阿呆も精神的に成長しているだろう。私はそんな杞憂を鼻で笑い飛ばすことにした。きっとルルディアにかかればカロッタだってイチコロだろう。


 ところがルルディアはその後も、なにかと理由をつけては告白を引き伸ばしていた。いくら私が後押ししようが梃子でも動かない。

「やっぱり私じゃ無理じゃない……?」

 ここまで来ると一周回って嫌味としか思えない。さすがに私も呆れて放置していたが、どうやら一年経ってようやく一歩踏み出したようだ。

「とりあえずよかったじゃん。それで? パーティーに入ってくれるって?」

「ううん。まずはラビリンス探索の臨時メンバーとして依頼書を貼っておいたの。カロッタくんご指名で!」

「…………そっかそっか。依頼受けてくれるといいねー」

 私の言葉にルルディアはピンク色に染まった頬を押さえ、くねくねしながら嬉しそうに大きく頷いた。


 
―――――――――――――――――――――――
 設定はかなりゆるいです。この世界にもバレンタインデーがあるみたいです。


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