経験豊富な私が恋のキューピットを出来ない訳がない

三毛猫ジョーラ

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第2話 鈍感な二人

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 現在、私は途方に暮れている。なぜならカロッタが倒れ、今にも死にそうな勢いだからだ。私の横ではルルディアがおろおろしながらピョンピョンと跳ね回っている。ではこの状況を説明するために、少し時を遡ろう。


 この日、私とルルディアはサリンガ迷宮というラビリンスへ向かっていた。この迷宮は大きな巻貝のような形をしており、巨大な洞窟をぐるぐると進むと中央にスライムベアーというボスがいる。途中にいくつかトラップはあるが、ほぼ一本道なので迷うことはない。出て来る敵もスライム系やナメクジ系のモンスターばかりでたいして強くない。いわゆる初心者向けのラビリンスだ。
 
「カロッタくん来てくれるかなぁ?」

「さぁ、どうだろね」

 朝からそわそわしっぱなしのルルディアがまた同じことを聞いてきた。今日の彼女は随分と可愛らしい格好をしている。普段は二人共、黒を基調とした戦闘服を着ているが、本日のルルディアは白とピンクのふわっとしたドレスのような物をお召しになっている。一見するとどっかのパーティーに出るような出で立ちだ。おまけに妙に荷物が多い。たぶん手作りのランチを作ってきたのだろう。完全に気分はピクニックだ。

 でも彼女がここまでやる事自体が珍しい。本当にこれで恋愛音痴が治るのならば、是非カロッタには今日の探索に来てもらわないと困る。

「あれ?なんか人がいっぱい集まってるよ」

「ほんとだ。なんだろね?」

 サリンガ迷宮の入り口付近に着くと、なにやら人だかりができていた。よく見ると新人冒険者達に取り囲まれたカロッタだった。やはりBランクともなればそれなりに知名度は高い。しかもカロッタは顔も良いときてる。キャアキャアと黄色い声援を受けながらカロッタは握手攻めにあっていた。

「おー!フラウ!遅かったな!」

 私達に気づいたカロッタがぶんぶんと手を振った。それを見たルルディアがささっと私の後ろに隠れた。まあこれはいつものことだから良しとしよう。

「じゃあ、新人諸君!冒険は青春だ!がんばるんだぞ!」

 カロッタはニカっと笑うと私達の方へと駆け寄ってきた。おまえはいつから熱血教官になったんだよ……。

「よぉフラウ。久し振りだな。今日は依頼してくれてありがとうな」

 若干暑苦しい笑顔のカロッタ。一方ルルディアはまだ私の後ろでもじもじとしている。

「依頼を出したのはルルディアだから。ほら、挨拶しなよ」

「お、おはようございます。今日は来てくれてありがとうございます」

 ひょこっと顔だけを出してルルディアが挨拶をする。

「あー君もいたのか!全然見えなかったぞ。今日はよろしくな!」

「ひゃい!よ、よろしくです!」

「じゃあとりあえず中に入ろうか」

 三人並んで入り口を目指すが、結局ルルディアは私の左側に身を隠すようにして歩き出した。でも背の高いカロッタからは丸見えでしかない。

「今日はどういうフォーメーションで行くんだ?」

「カロッタはタンクとアタックメインね。そんで私が遠距離攻撃。ルルディアが後方支援ね。迷宮に入ったらカロッタにバフかけてあげて」

 ルルディアは無言でこくこくと頷いた。

「これくらいの迷宮、バフなんて必要ないぞ」

 やはり出たか。デリカシーのない発言。私はカロッタの横っ腹を軽く小突いた。

「いいからかけてもらって!(小声)」

「お、おう。わかった」


 迷宮内へと入るとじめっとした空気が肌に触れた。壁や天井のあちこちに小さなグリーンスライムがへばりついている。たまに上から落っこちてきたスライムが服などに入ると最悪だ。

飛び火フォティア

 私はとりあえず目の届く範囲の天井を焼き尽くした。ジュッという音があちこちから聞こえスライム達が蒸発していく。

「おっ!いい魔法使うようになったじゃないか、フラウ」

「どーも。じゃあルル、バフかけてあげて」

「うん。カ、カロッタさん。どんなバフがいいですか?」

「うーんそうだなぁ。じゃあ速度上昇でもつけてもらうか」

「わかりました!じゃあ、いきます!」

 意を決したルルディアがカロッタの前に歩み寄る。すっーっと息を吸って上目遣いで杖を構えた。よく見れば彼女の服はかなり胸元が開いていた。これは結構カロッタにも効果があるのではないか――と思ったら彼奴《きゃつ》は目をつぶってやがった。

「はぁ……」

 私は思わず首を横に振ったが、ルルディアは特に気にした様子もなかった。どうやら彼女も特にお色気を意識していたわけではないらしい。共に朴念仁の二人。これは本当に先が思いやられる……。



  
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