檸檬色に染まる泉

鈴懸 嶺

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プレゼント

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 世間がクリスマスということを失念していた私は”軽いデート”を想像していた。

 でも私以上にクリスマスになんか全く興味がなさそうな維澄さんが、なんと私にクリスマスプレゼントを渡したいという。

 想定外すぎるサプライズでのっけから精神的に動揺させれてしまい、私は喜びのあまり号泣。

 その後はそれだけに留まらず……

 ようやく泣きやんだところで下級生から突然告白。

 プチ(ブチじゃない)キレした勢いで益川杏奈へ維澄さんの片思いをカミングアウト。

 維澄さんは、私が下級生の女子に告白されたことで不安MAXの果てに私の手を両手で握りしめる始末。



 まだショッピングモールに来てから1時間も経っていないのにこんなサプライズまみれの状況に放り込まれて私は疲労のあまりぐったりしてしまった。

 しかし維澄さんが不安な顔をしながらも、すぐに私のプレゼントを選びたいと提案してきた。維澄さんなりの不安解消なのだろうか。

 その言葉で私は疲れていた心が一気に回復して、俄然プレゼント選びのモチベーションが湧いて来たのは言うまでもない。

 そこは、まだまだ若い女子高生。




 維澄さんが私にプレゼントくれると言うなら……

 私だって当然貰いっ放しという訳にはいかない。

 よくよく考えると好きな人にクリスマスプレゼントを用意していない時点で”終わってる”とも言われかねない……人によっては破局だよね、これ。

 でも維澄さん曰く”ただの友達だから”なわけだから……

 つきあってもいないわけだから破局もなにもないけどさ……なによこれ、頭くる!

「ど、どうしたの檸檬?ブツブツと」

 思わずそんな想像してひとりブツブツと文句が口から洩れてしまったようだ。

「維澄さんの”ただの友達宣言”想い出してたの」

「あれは……私とってはすごくプラスの意味合いなんだけど」

「知ってるよ。」

 知ってるけどさ。でもね。

 ”好き!!”という強烈な思いがある私からすれば、文句の一つもでてしまうの。

 まあ、これ以上維澄さんを困らせても折角のクリスマスデート、勿体ない。

 ここは話題をポジティブな方へ向けていこう。


 私は維澄さんがプレゼントをくれると言ってくれてからあるアイデアが頭に浮かんでいた。それは”維澄さんとペアのアクセサリーをお互いがプレゼントすればいい”というアイデア。

 人の目を気にする維澄さんが私とペアのアクセサリー持つことにきっと抵抗するであろうことは想像できたけど、絶対押し切ってやろうと心に決めていた。

「維澄さん?私ブレスレットがいい」

「え?……ああ、そうなの?」

「ダメですか?」

「いや、ダメな訳ないじゃないよ?私は檸檬が欲しいものが一番だと思ってるから」

「じゃあ、なんで今ちょっと戸惑ったんですか?」

「だって、アクセサリーをプレゼントするってちょっと意味深じゃない?」

 ほら、またこの人ときたら距離とってくる。

「私は意味深にしたいんですけど?」

 とまた私は不貞腐れて言い返してしまった

「だ、だから問題とは言ってないでしょ?ちょっとビックリしただけ」

「それくらいでビックリしないでよ?私が同じものプレゼントしてペアブレスレットにするつもりなんだから」

 よ~し!言ってやった!

「え!?そ、それはさすがに……」

 そんな困った顔しても、ちょっと嬉しそうなのを私は見逃さない。

「そんな嬉しい顔してるくせに」

「う、嬉しい顔なんてしてないわよ!」

「え~!嬉しくないの?」

「いや……その、まあプレゼントもらえるのは嬉しいけど」

「やった!じゃあ決まりだ」

 ちょっと強引すぎたけど、別に維澄さんだって迷惑には思っていないはずだからこれくらいは全然許される。

 …… …… ……

「檸檬?どれがいい?」

「いや、ちょっとこの店のラインナップは高級すぎじゃないですか?」

「そう?」

「そうって……」

 維澄さんってドラッグストアーで働いてるけど、昔はスーパーモデルになりかけた人だからね。ワンチャン使えきれないほどの蓄えあったりするのか?

「あ、これとかどう?」

 維澄さんはトップのステンレス部分が薄い黄色のレザーブレスレッドを指差してそう言った。

「ああ、レモン色だ!……凄く綺麗!」

 一目ぼれするほど綺麗に輝くレモン色。

 なにより維澄さんが私の名前を意識したチョイスをしてくれたのが嬉しかった。

「これがいい!」

 私は即答した。嬉しすぎる……

「だったら維澄さんのは同じデザインのエメラルドグリーンがいいね」

「グリーン?なんで?」

「維澄さんだから泉のイメージ。泉ってこんな色じゃないですか?」

「う~ん……良く分からないけど、でもとっても素敵な色ね」

 維澄さんも目を輝かせて、嬉しい顔をしてくれた。


「ああ~でもちょっと高すぎだね、維澄さん」

 金額を見ると、1つ20,000円とある。

 アルバイトしているとはいえ20,000円の出費は辛いし、そもそも今日の手もちがない。

「いいわよ?私が払うから」

「それじゃあ、私からのプレゼントにならないでしょ?」

「まあそうだけど……」

「じゃあ3,000円だけ払って」

「す、少ないでしょ?それだと」

 さすがに二人分トータル40,000円の買い物で3,000円は恥ずかしいのだが……

 それでも背に腹は代えられない。高校生の私は維澄さんの申し出に乗るしか手はないが……それでも最大限の見栄を張ってなんとか5,000円を維澄さんに渡して商談成立。


「お客様、クリスマス期間中、サービスで文字入れできますがどうされますか?」

 品のいい女性定員が笑顔で提案してきた。

 私と維澄さんは同時にお互いの顔を見た。

 維澄さんはかなり動揺している。まあそうだろうな、この人の場合。

 でも私はここまできたら攻めきるしかない。

「是非お願いします!」

「ちょっ!檸檬!」

「いいじゃないですか?人に見せるもんじゃないし」

「でも……」

 私は維澄さんの抵抗を退け女性定員の目の前のポジションを占拠して強引に話を進めてしまった。

「エメラルドグリーンの方は”frome REMON”、薄黄色の方は”frome IZUMI”でお願いします。レモンはLじゃなくてRで」

 ほとんど維澄さんのお金で買うのに随分勝手な真似をしたと思うが、それでもそうしたいという私の想いを押しとどめることはできなかった。

 それでも維澄さんのちょっと不満げな顔をみて罪悪感が芽生えてしまった

「ごめんなさい。維澄さん、いやでしたか?」

「いやというか……はずかしいというか」

「もしかして、使わないとか思ってます?」

「使うわよ!絶対。檸檬からのプレゼントだもの」

 顔は不貞腐れてるのに……なんでそんな言葉を発するのだろうこの人は?

 私はまた心乱されこめかみが脈打つほどに頭に血が上って赤面してしまった。



「では、納期が1週間程かかりますので……」

「え?今日貰えないの?」

「そうですね。文字入れのお時間を頂戴しますので……」

 そ、そうか……一週間か。

「ちょっとお付けになってみましょうか?」

 ガッカリしすぎていた私を見かねて、店員はショーケースから2本のブレスレッドを出してくれた。

 私は早速自分の腕につけて見る。

 綺麗だ。ホント素敵。

 私は思わずニヤニヤと笑みがこぼれてしまった。

 ふと見上げると維澄さんは私がニヤける顔を笑顔で見つめていてくれた。

「ほら、はやく維澄さんもつけてみてよ」


 私は照れ臭くなって維澄さんにもそう促した。

 維澄さんはいつもロングスリーブを着ているので、少し手首の裾をまくりながら綺麗なエメラルドグリーンのブレスレットを左手に付けた。

「まあ、綺麗」

 私より店員が反応した。

 ほら、この人の見栄え普通じゃないからブレスレット一つでいきなり完成度上げすぎなんだよ。

 そして私も見とれてしまった。

 ああ、ホントに綺麗な人。今更だけど。

 十分高価なアクセサリーだと思うが、それでも維澄さんがつけると何百倍、いや何万倍にも価値が上がってしまう気がした。このブレスレッドが一千万円と言われても信じてしまうと思う。


 維澄さんも嬉しそうに自分の腕をくるくると動かしながらブレスレットを見つめていた。

 私は美しすぎる維澄さんの手首を”ガン見”してニヤニヤしていると……

 そのニヤけた私の顔の色が一気に蒼白に変わってしまった。

 え?

 何?

 なんと、維澄さんの美しすぎる左手の手首には……

 真っすぐに引かれた傷の跡があったのだ。
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