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王子からの婚約破棄と引き換えに自由と愛を手に入れたので、今後は幸せに暮らします。

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 私は王子の婚約者として城に迎え入れられたのだが…私を追って来た義妹のせいで、王子から婚約破棄を言い渡されてしまった。


「お前は、せっかく世話をしてくれる彼女を虐めて居るそうだな?血が繋がってないからとは言え、よくそんな酷い事が出来るものだ!」

「私が、彼女を虐めて…それは何かの間違いです。」

「とぼけないでよ!私が出した食事も下げろと言うし、私が用意したドレスも着ないし…余程私が嫌いなのね。」

「それは、あなたが─」

「彼女のせいにするんじゃない!反省もせず、彼女を咎めるとは…やはりお前は悪女だ。さっさと城から出て行け─!」



 お城を、出て行け…?

 と言う事は…私は、晴れて自由の身と言う事─?
 
 王子の言葉に、私は心にかかった黒い霧が晴れて行くのを感じた。



「分かりました、王子の仰る通りにします─。」
 
 そして城を出た私は…自分の家には帰らず、幼馴染の営む農場でお世話になる事に─。



「美しい自然と大好きな動物に囲まれ、本当に幸せ…。それに誰にも監視されないし、ずっと勉強してなくていい…自由な暮らしって最高ね!」

 そう言ってはしゃぐ私の頭を、幼馴染は優しく撫でてくれた。



「ここでは、自分の好きな様に暮らしてくれて構わないからな。」

「…ありがとう。あなたのお言葉に甘えさせて貰うわ!」

 そう言って微笑む私を、幼馴染は優しい眼差しで見て居た─。



 しかし、それから一ヶ月程経った頃…私を訪ねて来る者が─。

 それは、私を捨てた王子だった。



「頼む…もう一度、城に戻って来てくれないか?それで、俺の婚約者に─」

「あの子はどうしたのです?義妹を、新たな婚約者に迎えたのではないのですか?」

「あいつは…城での厳しい暮らしが我慢できないと、兵の一人を誘惑し城を脱走してしまった。しかも、城の宝も何点か持ち逃げしてしまって…。それで俺は、王である父にあんな女を選んだ事の責任を取れと言われて─。」



 やはり、そんな事だろうと思ったわ。

 自由奔放なあの子に、お城の厳しい生活は無理でしょうね…。



「それで、お前を連れ帰れば少しは父の怒りも収まるんじゃないかと思って…。」

「嫌です。私はもうお城に戻りません。私はあそこであなたにふさわしい相手になる様にと、何時間も勉強させられ…常に誰かに見張られ、自分の自由になる時間など全く無かった。なのに、あなたは義妹と遊んでばかりで…そんなの余りに理不尽だわ!そもそもそうやって勉強漬けで監視が付いて居るのに、どうやってあの子を虐める事が出来るのです?」

「でも、あいつがそう言って─」

「私があの子の出した食事を食べなかったのは、ゴミが入って居たからです。そしてドレスを着なかったのは、汚されて居たから…。むしろ、私があの子に虐められて居たんですよ!」

「そ、そんな…。それについては謝るから、とにかく俺と来い─!」

 王子が私に手を伸ばしてきたが…その手は私に届く事は無く、彼はその場で尻もちをついた。



「何だ!?何かが俺を突き飛ばして─」

「妖精ですよ。あなたの様な心の持ち主には、全く見えないでしょうがね。私があなたの相手に選ばれたのは、私が妖精に愛されし娘だから─。でも、妖精達もあのお城での生活は嫌だったみたい。この自然の中の方が、余程良いそうよ?だから、私はもうお城には帰りません。」

「ひ、人が下手に出て居れば─!」

 怒った王子が腰の剣に手を掛けたが…その瞬間、彼の頭上から藁が降って来て…彼はその中に埋もれてしまった。



「な、何をする!?」

「あぁ、申し訳ありません。まさか、王子がこんな所にお見えになるとは思わず─。」

 そう言って感情の籠らない謝罪をしたのは、私の幼馴染だった。



「いいからこれを退けろ!それに、さっきから臭くて堪らないんだか…一体何だ?」

「それは…王子が牛の糞の上に尻もちをつかれたからです。ここはあなたにふさわしくありません、どうぞお城にお戻り下さい。」

 彼の言葉に、慌てて自分のお尻を確認した王子は…真っ青な顔になり、藁塗れのまま逃げ帰って行った。

 そしてそれを見た私と幼馴染は、声を出して笑い…そんな私達を見た妖精達も、声を上げ笑った。



 こんなふうにお腹の底から笑ったのって…私も妖精達も、本当に久しぶりだわ─。



 するとそんな私に、幼馴染はこう言った。

「俺はこれからも、君や妖精達とずっと一緒に居たい。だから、どうか城には戻らないでくれ。」

「私も、あなたと一緒に居たいわ。お城には絶対戻らない…あなたと妖精と、この先も共にここで暮らして行きたいの─。」

 そして、私と幼馴染は婚約する事を決めた。



 農場での暮らしは大変な事もあるけれど…でも、それ以上に彼と妖精達と過ごす日々は幸せで…私は、ここに残って本当に良かったと思って居るわ。



 その後…城の宝を奪い逃げて居た義妹は捕まり、罰を受ける事になった。

 今頃は暗く狭い牢の中で、不自由な日々を送って居るでしょう。



 そして私を連れ帰る事が出来なかった王子は…次期国王の座を弟に譲り、城の片隅にある小屋で一生を送る事になった。



 妖精から嫌われた彼は王族にとって忌むべき存在とされ、そんな厳しい罰を受ける事になったそうだが…でもそれも仕方ない事ね─。
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