リエラの素材回収所

霧ちゃん→霧聖羅

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二年目 フレトゥムールの昔話

アッシェ

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 海辺の村に流れ着いたという女の子が私達の住むフレトゥムールの町へとやって来たのは、ポッシェと私が10歳になった年の事。
なんでもその村から北西に、うっすらと見える島からは極々稀に目が三つある三つ目族死体が流れつくことがあるらしい。
あ、イニティ王国のある大陸には三つ目族なんてのは存在しないから、きっと遠目に見える島から流れてきてるんじゃないかって言う予想がされてるだけで、本当にそこから流れてきてるのかは分からないんだけどね。

 今回もそのお仲間死人だと思ったら、触れてびっくり!
生きていた。
慌てたその村の住人は、フレトゥムール領を治める領主様に助けを求めんだって。
その子は命は無事だったものの、記憶を全部失くしてしまったらしい。
島の情報が得られるんじゃないかって期待していた人たちはがっかりしたそうだけど、記憶をなくしたって言う子はちょっと可哀そう。
そんな風に思いながらも、私はどこか自分には関係のない遠いお話だって思ってた。
でも、私が暮らしているのは孤児院。
親のいない子供たちが暮らす家だ。
当然のようにその子がやってきたのは、彼女が記憶をなくしたって話を聞いた翌日の事だった。

「色々と噂は聞いていると思うけれど、今日からここで一緒に暮らす事になった子よ。
 みんな、仲良くしてあげてね。」

 院長先生に連れてこられたその子は、真っ直ぐな長い黒髪に紫色の目が綺麗な色白な女の子。
人懐こい笑みを浮かべて、ペコリと頭を下げる動きがとても綺麗。
だから、


――お姫様みたい。


 って言うのが、私の第一印象。
多分、そう感じたのは立ち姿がすごくきれいだったからって言うのもあると思う。

「うわぁ……。
 きれいな子だねぇ。」

 思わず見惚れかけた時、隣に居たポッシェが思わずって言う感じでそう呟く。
びっくりしてそっちを見ると、目に映るのは鼻の下が伸びた熊耳の姿。
一瞬、驚いて思考が止まったあと、思いっきり足を踏みつけた。

「え?
 コンカッセ、どうしたの?」

 でも、頑丈な熊耳には私程度の踏み込みじゃ足りなかったらしい。
奴は平然とした顔で、不思議そうに私の顔を覗き込む。

「……知らない。」

 暫くの間、私の様子を首を傾げつつみていたポッシェも、新しくやってきたお仲間の周りを囲んで一生懸命話しかける子達の輪に加わりに行ってしまった。
囲んでる子が男の子ばっかりなのは、やっぱり可愛い女の子だからなのかな。
そんな風に彼等を見ながら、なんだか、いつの間にかポッシェの中で私が一番じゃなくなったみたいで、ものすごく寂しい気持ちになった。





 ちなみに彼女は暫くの間、名前がなかった。
記憶と一緒に失くしちゃってたのもあったけど、彼女自身が与えられる名前を受け入れなかったせいだ。

「じゃあ、『アッシェ』は?」

 ポッシェのお母さんはもう一人の子供を産み落とすことなく一緒に亡くなっちゃったらしい。
『アッシェ』って言うのは、一緒に産まれるはずだったその子に付けられるはずだった名前。
その名前をポッシェが提案したのは、物凄く意外だったし、彼女がその提案に興味を示したのにも驚いた。

「その内、自分でこれだって言う名前を考えれば……」

 思わずそんな提案をしかけたのは、物凄くもやもやした気持ちになったせい。

「よかりはべりね」

 それなのに、彼女はその名前を受け入れた。

「なん……で?」
「優しき気持ちよりの提案なれば。」

 びっくりして、思わず責める様な言い方をしてしまった私に、彼女は嬉しそうにポッシェを評して微笑んだ。
そこは同意するけど、今まで提案された名前はダメだったのに?

「ポッシェ、他意のある提案にはべるや?」
「ん?」

 キョトンとするポッシェに、彼女は楽しそうに笑い返す。
そりゃあ、ポッシェは彼女に対して変な下心なんてないに決まってる。

「優しき子にはべりね。」

 クスクスと笑いながら、私の耳元に口を寄せて彼女が囁く。

「妬心に狂ふ姿も美しかりはべりよ。」
「な、ななななな?」

 ボッと音がしそうな勢いで、顔が赤くなるのを感じる。
やきもちなんか、焼いてるけど……!
思わず、熱くなった頬を押さえてしゃがみ込んだ私と視線を合わせて、彼女は真面目な表情で頼み込んできた。

「仲良かりしたまへ。
 姫は、二人と共に在りたいにはべり。」

 仲良くしてほしいなんて言われても、ポッシェの事をとられちゃいそうで不安で仕方がない。
私は耳を塞いで首を大きく横に振った。





 そんな感じで彼女と距離を置きたかったのに、私がアッシェのお世話役になったのは、おそらく年齢が同じくらいだろうと判断されたのと、ただ単純に彼女の喋り言葉が随分と昔の宮中言葉に近くって、それをなんとか理解できるのが私だけだったと言うだけの理由。
理解できると言っても、『なんとか』ってつく程度の理解力だから、彼女と普通にやり取りが出来るようになるまでは結構大変だった。
最初の内は一人称が『姫』だったし、遠くの島の本物のお姫様だったりしたのかもしれない。
行けもしない島だから、もしも本当にそうだったとしてもどうしようもないけど。
まぁ、だからこそ彼女は孤児院に入れられたんだろう。
彼女が孤児院にきて半年もすると、そんな喋り言葉もなんとか現代風というか周りの事普通に話せる範囲のモノになった。
私、頑張ったよ。

「コンちゃん、あそこに咲いているお花、なんて名前なのです??」
「ああ、あれはマレッタ。」

 語尾にほぼ必ず『です』が付くようになってしまったのは、きっとご愛敬ってやつだと思いたい。

「ひ……アッシェは、コンちゃんと仲良くなれてほんとに良かったです。」

 一人称は『姫』から『アッシェ』に変わった。
これは、どうしても『アッシェ』と言うのが自分の名前と言う認識がしづらいかららしい。
子供っぽく聞こえちゃうけど、そこは仕方ないのかな。
本当の名前は思い出せなくても他にある訳だから……。

 取り敢えず、最初の内はポッシェの事もあってちょっと思うところがあったけど、今となってはアッシェと私は親友同士だ。
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