57 / 263
二年目 フレトゥムールの昔話
王都からのお客さん
しおりを挟む
アッシェがやってきて半年ほど。
丁度、冬の満月が始まった位の時期に王都からお客様がやってきた。
恰幅が良いおじさんとおばさんで、シスター達曰く『お偉いさん』なんだそうだ。
ちなみに、今回の場合の『恰幅が良い』は、ゲフンゲフンって方向の意味合い。
お客さんが来ている間、私達はそれぞれの部屋でお勉強タイム。
――そんなこと言っても、きちんと勉強してる子なんてほとんどいないけど。
ウチの部屋に居る男の子たちなんか、ずーっとお客さんの事を気にして外を見てばっかりだし。
「それにしてもさ、なにしにきたんだろ?」
「アレだ、視察ってヤツ??」
「王都からワザワザ~?」
「今まで来た事なかったよなぁ。」
「それよりも、養子縁組とかじゃないのか?」
「えー!
だとしたら、誰だろ。」
「あんなでっかい馬車に乗ってくるようなお客さんの養子になったら、きっと旨いもの食い放題だろうなぁ……。」
――それよりも、年末の忙しくなる時期にやって来るなんて物凄い物好き。
孤児院の前に停められたお高そうな馬車を窺いつつ、ぼそぼそと意見を交わす男の子たちの間からチラリとそちらを見ると、私はすぐに興味をなくした。
視察にしろ養子縁組希望にしろ、私には関係ない。
この国では、学校に入学した孤児は養子縁組できないから。
視察だったなら、シスター達や院長様のお仕事だろうからもっと関係ないし。
それよりも目下の問題は、私に任されたアッシェの喋り言葉の矯正。
なんか、語尾を変な風に覚えちゃったみたいだから、どうにか直したい。
――なんとなく、ワザとやってるような気がするから直せる自信がないんだけど……。
「みんな、なんであんなに騒いでるです??」
「んー……。」
ソワソワした様子で馬車を覗き見てる男子達を見て、アッシェは不思議そうに私に尋ねる。
まぁ、気になるのは仕方ない。
仕方ないんだけど……どう説明すればいい?
自分に関係ないと分かっていても、気になって見ちゃってるだけだもん。
「……ナルホドです。」
「?」
「いわゆる野次馬なのです?」
「ああ、そう、それ。」
アッシェは変な子で、たまに、今みたいに私の考えを先読みしたかのような発言をする事がある。
勘が良いのかな……。
私はちょっと鈍いとこがあるから、そういう勘の良さは正直羨ましい。
それに、アッシェはすごく物覚えが良くて、教えた事をすぐに覚えてくれるから頭も良いんだと思う。
「……そんな事ないですー。」
「なにが?」
「ほめてくれたです。」
「……口に出してた?」
「ですー。」
――おかしいなぁ。
頭の中で考えてただけのつもりだったんだけど。
まぁいいか、と一人納得してお勉強に思考を戻す。
アッシェは、記憶を失う前にある程度の教育を受けていたらしくて、計算なんかは問題なくできる。
ただ、文字の読み書きと歴史や地理は全滅だ。
それでもこの半年で、文字の読み書きをマスターしたんだから大したものなんじゃないかな。
孤児院を出なきゃいけなくなる来年末までに、どこまで歴史と地理を習得できるかってところだけど……なんか、その頃には下手な同級生よりも物知りになってそうかも。
むしろ、私が追い抜かされない様にしなくっちゃ。
先生が生徒よりモノを知らないんじゃ恥ずかしいし。
「あ――。」
「出てきた出てきた。」
「帰るのかな?」
暫く歴史についての話をしていたら、男の子達が窓を大きく開いて身を乗り出し始めた。
もうすぐ春が近いとはいえ、まだまだ寒い。
物凄く迷惑だ。
やめてほしい。
寒いのは苦手なのに……。
とはいえ、盛り上がってる男の子たちに文句も言い辛くて膝にかけていた毛布を体に巻き付ける。
――ちょっぴり、ぬっくい。
「もー。
みんな、寒いから窓はしめてほしいです~!」
それを見かねたのか、アッシェが笑いを含んだ声で男の子達に注意してくれた。
男の子達はちょっと文句を言いながらも、窓の前から逃げ出していく。
お客さんが帰って行ったから、もう部屋の外に出ても大丈夫になったし、庭で遊ぶつもりなんだろう。
寒いのに……。
なんで風邪をひかないのか、物凄く不思議。
逃げ出した男の子達を見送ったアッシェが窓を閉めかけて、一瞬動きを止める。
「――閉めない?」
「……ああ、ごめんなさいです。」
早く閉めてほしいなと思いながら声を掛けると、彼女は一瞬、間を開けてから窓を閉めてくれた。
「コンちゃん、ちょっと姫はシスターに話さないといけない事が出来たのです。
お勉強はまたあとでです。」
「え?」
そうして出て行くアッシェの顔がこわばっていたのを、その時の私は気づかなかった。
丁度、冬の満月が始まった位の時期に王都からお客様がやってきた。
恰幅が良いおじさんとおばさんで、シスター達曰く『お偉いさん』なんだそうだ。
ちなみに、今回の場合の『恰幅が良い』は、ゲフンゲフンって方向の意味合い。
お客さんが来ている間、私達はそれぞれの部屋でお勉強タイム。
――そんなこと言っても、きちんと勉強してる子なんてほとんどいないけど。
ウチの部屋に居る男の子たちなんか、ずーっとお客さんの事を気にして外を見てばっかりだし。
「それにしてもさ、なにしにきたんだろ?」
「アレだ、視察ってヤツ??」
「王都からワザワザ~?」
「今まで来た事なかったよなぁ。」
「それよりも、養子縁組とかじゃないのか?」
「えー!
だとしたら、誰だろ。」
「あんなでっかい馬車に乗ってくるようなお客さんの養子になったら、きっと旨いもの食い放題だろうなぁ……。」
――それよりも、年末の忙しくなる時期にやって来るなんて物凄い物好き。
孤児院の前に停められたお高そうな馬車を窺いつつ、ぼそぼそと意見を交わす男の子たちの間からチラリとそちらを見ると、私はすぐに興味をなくした。
視察にしろ養子縁組希望にしろ、私には関係ない。
この国では、学校に入学した孤児は養子縁組できないから。
視察だったなら、シスター達や院長様のお仕事だろうからもっと関係ないし。
それよりも目下の問題は、私に任されたアッシェの喋り言葉の矯正。
なんか、語尾を変な風に覚えちゃったみたいだから、どうにか直したい。
――なんとなく、ワザとやってるような気がするから直せる自信がないんだけど……。
「みんな、なんであんなに騒いでるです??」
「んー……。」
ソワソワした様子で馬車を覗き見てる男子達を見て、アッシェは不思議そうに私に尋ねる。
まぁ、気になるのは仕方ない。
仕方ないんだけど……どう説明すればいい?
自分に関係ないと分かっていても、気になって見ちゃってるだけだもん。
「……ナルホドです。」
「?」
「いわゆる野次馬なのです?」
「ああ、そう、それ。」
アッシェは変な子で、たまに、今みたいに私の考えを先読みしたかのような発言をする事がある。
勘が良いのかな……。
私はちょっと鈍いとこがあるから、そういう勘の良さは正直羨ましい。
それに、アッシェはすごく物覚えが良くて、教えた事をすぐに覚えてくれるから頭も良いんだと思う。
「……そんな事ないですー。」
「なにが?」
「ほめてくれたです。」
「……口に出してた?」
「ですー。」
――おかしいなぁ。
頭の中で考えてただけのつもりだったんだけど。
まぁいいか、と一人納得してお勉強に思考を戻す。
アッシェは、記憶を失う前にある程度の教育を受けていたらしくて、計算なんかは問題なくできる。
ただ、文字の読み書きと歴史や地理は全滅だ。
それでもこの半年で、文字の読み書きをマスターしたんだから大したものなんじゃないかな。
孤児院を出なきゃいけなくなる来年末までに、どこまで歴史と地理を習得できるかってところだけど……なんか、その頃には下手な同級生よりも物知りになってそうかも。
むしろ、私が追い抜かされない様にしなくっちゃ。
先生が生徒よりモノを知らないんじゃ恥ずかしいし。
「あ――。」
「出てきた出てきた。」
「帰るのかな?」
暫く歴史についての話をしていたら、男の子達が窓を大きく開いて身を乗り出し始めた。
もうすぐ春が近いとはいえ、まだまだ寒い。
物凄く迷惑だ。
やめてほしい。
寒いのは苦手なのに……。
とはいえ、盛り上がってる男の子たちに文句も言い辛くて膝にかけていた毛布を体に巻き付ける。
――ちょっぴり、ぬっくい。
「もー。
みんな、寒いから窓はしめてほしいです~!」
それを見かねたのか、アッシェが笑いを含んだ声で男の子達に注意してくれた。
男の子達はちょっと文句を言いながらも、窓の前から逃げ出していく。
お客さんが帰って行ったから、もう部屋の外に出ても大丈夫になったし、庭で遊ぶつもりなんだろう。
寒いのに……。
なんで風邪をひかないのか、物凄く不思議。
逃げ出した男の子達を見送ったアッシェが窓を閉めかけて、一瞬動きを止める。
「――閉めない?」
「……ああ、ごめんなさいです。」
早く閉めてほしいなと思いながら声を掛けると、彼女は一瞬、間を開けてから窓を閉めてくれた。
「コンちゃん、ちょっと姫はシスターに話さないといけない事が出来たのです。
お勉強はまたあとでです。」
「え?」
そうして出て行くアッシェの顔がこわばっていたのを、その時の私は気づかなかった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。