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二年目 勧誘員現る

不審者現る?

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 なにやら『マタタビで横っ面をひっぱたかれた』かのように立ち尽くすアッシェの姿に不安を覚えて、名前を呼ぶ。

「アッシェ、……アッシェ?」

 一度読んだだけだと反応はなかったけど、何度か呼ぶうちに、やっと私の方へと視線が向いた。

ぱちくり

 瞬いて、警戒した視線を向けるのは、案内することになった男の人。
なんとかかんとかいつもの表情を取り繕う彼女の姿に、不安感が増す。


――記憶を失う前に関係のあった人?
  それとも、また、『夢』で見た……?


 アッシェの場合、どっちの可能性もあるし、どっちの場合でもあんなふうに警戒心を丸出しにする相手となるとちょっと厄介。
後できちんと確認しよう。
『夢』の方だったら、なにが起こる可能性のあるのかもきちんと確認しなくては。
そっちの場合、誰かに何か危険がある場合が多いし。

「……用事があるようなら、方角さえ教えて貰えば自分で向かうんだが。」
「大丈夫。
 アッシェはたまに、今みたいにぼーっとすることがあるだけだから。」
「まぁ、案内してもらえるなら助かる。」

 さすがにアッシェの様子が気になったらしくて男性は一旦、案内を辞退しようとしてものの、ポッシェの微妙なフォローに苦笑しながらも、改めて案内を頼んできた。


――アッシェが警戒する割に、普通の人に見える。


 警戒するのにはそれなりの理由がある筈。
私も注意深く、ポッシェと話している男性の様子を伺う。


――うん、美形。
  あと、少し神経質な感じ。


 取り敢えず、悪い人ではなさそうに見える。
でもそんなことを言ったら、人は見た目じゃないんだとアッシェにまた怒られそう。

「お兄さんは、迷宮都市からきたの?!」
「ああ。
 弟の工房で、弟子を採る事になってな。
 その応募者を募る為に領都を回っている最中なんだ。」
「領都っていうことはここ以外だと、エルドランにラブカ?」
「エルドランにはここに来る直前に寄ってきた。
 後は、領都じゃないが王都にも行く予定だ。」
「うわぁ……随分と広範囲だね。
 大変だぁ……。」

 彼が回る場所の名前を聞いて、ポッシェは大げさに驚いて見せる。
実際、挙げられた場所を回るとしたら、一カ月近くはかかりそうだからポッシェの反応はそんなに大げさでもないかも。
ふと気になってアッシェのを見てみると、彼女はさっきまでの緊張した様子から一転してホッとした表情を浮かべてた。
何で判断したのかは分からないけど、この男の人は警戒の対象から外れたらしい。

「お弟子さんを採るのに、なんで孤児院に行くです?」

 警戒する必要がなくなった途端、アッシェは無邪気さを装ってそう尋ねる。

「去年、初弟子を採ったんだが、それが孤児院出身の娘だったんだ。
 もしかしたら、あの娘以外にも同じように埋もれている才能があるんじゃないかと言う話になったんだ。」

 どうやら彼の弟は、二匹目のにゃんこを狙おう思っているという事らしい。
そんなにうまい話が転がってるはずもないと思うんだけど。

「二匹目のにゃんこは早々見つからないと思うですよ?」

 私が思ったことは、アッシェの口から飛び出した。
直球すぎる。
私の心の声が漏れたのかと思って、ちょっとドッキリ。
心臓に悪い。

「ちなみに、なんの工房なのです?」
「錬金術工房。」
「錬金術工房って言うと……。
 あの、効くのか効かないのか良く分からないお薬がすっごい値段で売られてるアレです?」


――アッシェ、それ、関係者っぽい人に向かって言っちゃダメ。


 心の中で焦りまくる私を横目でチラッと見てから、アッシェは彼を挑発するように見つめる。


――ワザとか。


「ああ、巷にあるのはそういう工房ばかりだな。」

 ところが彼は、肩をすくめるとアッシェの言葉をあっさりと認めた。

「本物の錬金術師は、グラムナードにいる俺の弟だけだからな。」

 更にそう続けると、誇らしげに胸を張る。
その瞬間、『むふん』と言う擬音が背後に見えたような気がして、思わず噴き出してしまった。


――なんだこの人?
  大人のくせに子供みたい。


 ちょっと可愛いと思っちゃったけど、これは断じて浮気ではない。
ないったら、ないんだから!
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