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二年目 見習い期間

ラエル師の魔力指導

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 ラエル師の元に行くと、アッシェもエリザちゃんもポッシェも全員がもう揃ってしまってた。
謝りつつ中に入ると、アッシェがこっそりと手を合わせて頭を下げる。
きっと、声を掛けていかなくてゴメン、ってとこかな。
私の方が先に終わって部屋に戻ってたから、彼女はわざわざ私の部屋に寄らずにここに来たんだよね。
謝る事ないのに。
遅れちゃったのは、私の自業自得だもん。
好奇心に負けて、革袋の中身を確認なんてしちゃってたのがどう考えても悪い。
私の方こそゴメンと身振りで謝罪をし返しながら、その隣の椅子に腰かける。
こういう時に、一番に反応しそうなポッシェはおでこに手をあてて目を閉じたまま動かない。


――アレは、何か悩んでるかんじかな?


 もう既に何かが始まってる雰囲気だから、私は口を閉ざしたまま部屋の中をグルリと見まわす。
殆ど正方形に近いこの部屋は、完全に教室として使う予定みたい。
このフロアは先生方の私室エリアなのかと思ってたんだけど……。
でも、扉を入ってすぐ右手の壁には基礎学校でも使われていた大きな黒板の姿。
こんなのが置かれてるのに、私室って事はないよね。
そうはいっても、黒板があるのとは反対側の壁に小さめの扉がある。
そっちから先は私室なのかも。
ちなみに私達が今座ってるのは折り畳み式の椅子なんだけど、頑張ればノートを置ける程度のメモ台つき。
それがあったお陰で、持ってきたノートが無駄にならなくてちょっとホッとした。

 ところで、私が入ってきた時からラエル師はエリザちゃんの額に手をあてて目をつぶったままなんだけど、何をしてるんだろう?
エリザちゃんはその状態で、なんだか思い悩んでいるような難しい表情。

「――そのまま、暫く自分で感じ取る努力をしておいて。」

 暫くしてエリザちゃんのおでこから手を放したラエル師はそう囁きかけて、アッシェの方へと移動する。

「さて、次は君の番なんだけど……。
 そのバンダナは邪魔だから外すように。」
「う。」
「なんでそんなものを着けているのかという事情について、大体は想像がつくけどね。」

 ため息交じりに、腰に手をあて首を傾げる。
同じ容姿の子供が同じ仕草をしたら、きっとすごくかわいいんじゃないかと思うんだけど、ラエル師がやると妙な迫力を感じちゃう。
やっぱり、表情?
いや、目力ってヤツかな?
今は私が相手じゃないからこうやって余裕で見てられるけど、これ、自分にやられたら震えあがってると思う。
怖いよ、ラエル師。

 矢面に立たされてる訳でもない私がガクブルしてるのに、アッシェはバンダナを取ろうとはしないで、視線を逸らす。
意味ありげに逸らされた先に視線を向けたラエル師は、「ああ」と小さく呟いた。
その視線が向けられたのは、難しい顔のまま固まってるエリザちゃん。
どうやらアッシェは、彼女の前でもバンダナを取るつもりはないらしい。
むしろ、ラエル師は良いのかなって思わないでもないんだけど、彼女なりの判定基準があるんだろう。
アッシェの視線からそれを察知したらしいラエル師は、ポッシェとエリザちゃんの前に移動して、大きな音を立てて手を叩くと、二人にこの部屋から出て行くようにと促した。

「ポッシェ君と、エリザ君はこの後は部屋に戻って魔導具に触れながら、魔力を感じ取る訓練をしておいで。」
「え?」
「ふえ!?」

 驚く二人に質問をする間を置かずに、彼は続ける。

「今、二人が感じた違和感の正体が『他者の魔力』の感覚になる。
 それがどんなものか、君たち二人はすでに十分すぎる程体験したはずだ。」

 どんだけ、何をやったのかは私には分からないんだけど、言われた二人は無言で頷く。

「あ、はい……?」
「ならば、次にする事は……?」
「えーっと?
 他人、……の魔力が分かっても、うーんと……自分のが分からないとなにもできない、……かも?」

 ポッシェの返答があやふやなのは当然だよね。
むしろ、良く咄嗟にそれっぽい答えが返せたんじゃないかな。
エリザちゃんはその隣でアワアワ言ってるだけだけど、多分、同じ立場になったら私もエリザちゃんと同じ状態になってそう。

「正解だよ。
 だから次の段階は、自分の魔力を見つける事になる。」

 そこで一旦、言葉を切ると、二人の頭に今のやりとりが理解できるまでの時間を置く。

「さて、本来、自分の魔力を見つけるまでに、大概の人は多くの時間を費やさないといけない。
 それは何故か?」
「ふぇ?!」

 突然、質問の矛先が自分に向かってきて、エリザちゃんは驚きの声を上げる。

「あ、えと……その?
 魔法が使えない、から、ですか……?」
「半分は正解。
 答えは、『魔力を使う機会がないから』だよ。」
「え……その、魔法が使えないと、魔力を使う機会ってないのでは……??」

 私もそう思う。
だけど、その方法ってのは思っていたよりも身近に転がってたんだよ。

「一番簡単な方法は、『魔導具を使用する』という事。
 属性判定をしたよね?
 あの時に、何かが抜けて行くような感覚がなかったかな?」

 ラエル師が口にしたその問いに、部屋の中にいた全員がちょっと間の抜けた声を上げた。
確かに、あの時『なにか』は分からないけど、『なにか』が自分の中から出てく感じがあったよ。


――そっか、アレが魔力。


 アレがそうなら、割とイケるかもしれない。
ラエル師の話に耳を傾けながら、私は両手をギュッと握りしめた。
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