リエラの素材回収所

霧ちゃん→霧聖羅

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二年目 見習い期間 ~魔法具工房~

幕間 報告会の後で

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 報告会が終わり、セリスを残して全員が部屋から出て行くと、やっとホッと一息つくことが出来た。
遠出をしたわけでもないのに、なんだか酷く疲れた。

「お疲れさまでした。肩でもお揉みしましょうか?」

 報告会の間に冷めてしまったもののかわりに、淹れたての茶を執務机に置きながら、セリスが小さく首を傾げる。
この気配り上手な従妹が私の元にやってきてから、既に六年――いや、もう七年か――になる。
あの頃はまだ、去年のリエラと同じ年だったのに、もう十九歳か。
時間の流れとは、思っている以上に早いものらしい。

「いや、いい。」

 彼女の申し出に首を横に振り、淹れたてのお茶に口をつける。
自分で思っていたよりも、私は緊張していたらしい。
あっという間に中身は空になってしまった。
空になったカップを眺めていると、すぐにお替りがそこに注がれる。
いつもながら、ありがたい事だ。
礼の言葉を伝えると、彼女からは微笑が返ってきた。
私の様子から追加は必要なさそうだと判断したらしく、セリスは応接セットの上に残された茶器をのんびりと集めながら口を開く。

「アスラーダ様が、余所から指導員を招こうと仰ったときにはどうなるものかと思いましたけれど……。」
「うむ。」

 去年の年末。
リエラが里帰りする直前になって、兄上はその話を切り出した。
彼曰く私達は、『教え方がなってない。』のだそうだ。
その内容に心当たりがないかと言うと、ありすぎて困るほどで、余所の人間を入れることに最初は反対していたセリスも、最終的には黙り込んでしまった。
そういえば、セリスが感情的になって何かに反対したのは、あの時が初めてか。
普段は従順な彼女が感情をむき出しにしたのは初めてのことで、兄も私も驚いたものだ。セリスが反対してきた理由も、余所者を嫌うグラムナードの民の性質から、外の町から指導員を招くことによって兄や私の立場が悪くなるのを危惧してのものだったから、その意見も無下にできなかった。
最終的に、妥協案を出して人選を兄に一任したのだが……。

「お二人とも町にも馴染んできているようですし、問題はなさそうでまずは一安心と言ったところでしょうか。」
「それは重畳。」
「スフェーンさんはグラムナードでは十分『子供』扱いされる年齢なので、本人の人当たりの良さもあって、反発は少なかったようです。」

 彼の方に対するは、予想通りといったところか。
問題は、もう一人の方なのだが。

「――ラエル殿は?」
「ラエルさんは……

 私の問いに、セリスは返答に詰まる。
答えにくい、と言うよりは可笑しさをこらえているようなその表情に首を傾げていると、彼女は何とか表情を取り繕いながら話し始めた。

「ラエルさんは、思った以上に上手く町の人達と付き合っているみたいです。なんというか……小人族って、成人していても幼く見えるものですから……。」
「成程。」

 ラエル殿本人は既に100歳を超えているらしいのだが、見た目は丸耳族の子供のようにも見える。
子供の様な見た目のラエル殿が幼く見えるという理由で受け入れられてるという事は、余所者でも子供だったら気にならないという事か。
昨年末に孤児を引き取りに出かけて行く者達を見送った時にも思ったのだが、大人だろうが子供だろうが、余所者は余所者なんじゃないのだろうか?
謎すぎる。

「指導員の二人が受け入れられて、一安心と言ったところか。」

 納得できない部分はあるものの、ここはそう言うものだという事で押し通すことにして、最後に一番大事な事を尋ねた。

「それで、兄上の方はどうかね?」
「アスラーダ様は……叔母様の事もありますし、なかなか難しいみたいです。」
「叔母上か……。」

 完全に余所者の指導員の二人組よりも、グラムナードに戻ってきて七年にもなる兄の方が民に受け入れられていないというのはどうしたものか。
将来的には、この地の領主になる者に民の支持がないというのはいただけない。

「私も兄上も、グラムナードの民と接するようになった時期は同じなのに……。」
「アスラーダ様が叔母様の元で育てられた、と言うのが今でも尾を引いてるみたいで……。」

 期せずして、セリスと私のため息が重なる。
なんというか、兄を育てた叔母は、グラムナードの嫌われ者。
イニティ王国が大陸統一に乗り出した時に、恭順する意思がなかったグラムナードがその支配下に(表向きは)入る事になった原因だ。
自分の為にグラムナードを売った女だと、イニティ王国が大陸を統一して百年経った今でも『売女』と呼ばれ、忌み嫌われている。

 そんな彼女に育てられた兄の置かれた立場と言うのは、実に頭が痛いものだ。
なにせ、将来的には父の跡を継いでこの町の領主にならなくてはいけない。
それなのに人望がないというのは絶望的だ。
このグラムナードでは領主よりも錬金術師の方が立場が上なのに、対外的にはそうではないというのもまた面倒な話なのだが。

「ここ半年くらいでしょうか? 週末にはずっとリエラちゃんの部屋に居るみたいで、中町を歩く機会が減っているのも一因じゃないかと思います。」
「リエラと?」
「ええ。いっその事、リエラちゃんと結婚でもして下さったらもう少し立場が良くなるんじゃないかと思うんですけれど。」
「ふむ……。」

 次代の錬金術師候補として育てているリエラと兄が縁を結ぶというのは、良い手かもしれない。
勿論、本人たちにその気があればの話にはなるのだが。

「せめてアスタール様が旅に出られる前に、アスラーダ様のお立場が安定してくださるといいのですけれど……。」

 頬に手をあて、物憂げにため息を吐きながら口にされたその台詞に、丁度、口に含んだところだった茶を吹き出しかける。
そんな私の背をさすりながら、セリスは何でもない事のように言葉を繋ぐ。

「大丈夫ですよ。アスタール様がどこにいらしても、何をなさっていても、全ての人に後ろ指をさせれるようなことになったとしたって、セリスはいつでも味方ですから。」

 そう言って、いたずらっぽく微笑む彼女には、どうやら私の秘密の計画はバレバレなようだ。

「君には敵わないな……。」
「ふふ。私はアスタール様の一番になる事はありませんけれど、理解者の一人にはなることが出来ると思っていますから。」

 誇らしげに胸を張る彼女から口元を隠すために、カップを口にする。
長話をしていたせいですっかり冷めていたそれは、なんだかさっき口にした時よりも美味しい様な気がした。
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