リエラの素材回収所

霧ちゃん→霧聖羅

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二年目 錬金術師のお仕事

獣の氏族 下

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 リエラの案内役の男性は、輝影族が三人と光猫族が三人の、合計六人。
彼らが先に立って案内してくれるんだけど、これが中々うざったい。

「放牧場を見ながら来たんだから、獣舎の方から案内しようか?」
「あ、はい。お願いします」

 この、何かを話すたびにリエラの顔を覗き込むの、やめてくれないかな……。
なんか、落ち着かないんだけど。
その後も彼らは、代わる代わる自分たちの育てている動物について教えてくれた。
ヤギにも、何種類かあるらしい。
色ヤギは属性魔力を多く含んだ草を食べて育つと、毛や皮にはその属性を帯びるようになる。
乳ヤギは子供が居なくても、油分豊富な甘い乳を一年中出すんだって。
ただ、乳ヤギの乳はそのまま飲むのには適していなくて、チーズやバターなんかの加工品ように使われるそうだ。

「そうだ、乳搾りをしてみる?」
「――! それは、ぜひ!!」

 乳ヤギから乳を搾るところを身を乗り出して見ていたせいか、そう尋ねられて、思わず即答。
だって、なんだかおもしろそうだ。
やらせてもらえるんだったら、ぜひともやりたい。
リエラの勢いに驚いたのか、目をパチクリしていた輝影族のお兄さん……名前なんだっけ?
一気に六人の紹介をされたから、申し訳ない事に覚えきれてないんだよね。
る……る?

「ルッツだよ、リエラ様。じゃあ、すぐに用意する」
「あ、はい。お願いします」

 この人誰だっけ? って思ったのが顔に出てたのか、彼は苦笑しながら名乗りなおしてくれた。
ルッツさん、ルッツさん。
坊主頭寸前レベルで髪の短い輝影族さんは、ルッツさん。
彼が乳搾りをしている人に交渉しに行くと、すぐに他の五人がやってきて、口頭で乳搾りのコツを教えてくれる。
教えてくれるのはいいんだけど、いちいち耳元で囁いたり、手を取ってエア乳搾りの動きをトレースしなくてもいいよ……。
というか、お触り厳禁と叫びたい。
幸いな事に、ルッツさんが交渉をすぐに終わらせてくれたお陰で、長い時間我慢する羽目にはならなかった。

 それはそれとして、乳搾りというのはなかなか面白い。
縦長な乳首をキュッキュと握って絞るんだけど、指を握る順番を間違えると乳は出てこないんだよ。
上の方を親指と人差し指で握ってから、残りの指を握り込むと乳がビュッと飛び出す。
握り込む力を抜くと、上の方から暖かい乳が落ちてきてまた絞れるようになるんだけど、その繰り返しが楽しい。
夢中で絞っていたリエラは、ふと、周りの空気が変わったことに気が付いてヤギの乳を搾る手を止める。
かしこまった様子で頭を下げているルッツさん達が向いている方向に視線を向けると、アスタールさんがこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。

「――楽しんでいたようで何より」
「はい。――お仕事は終わったんですか?」

 アスタールさんは頷くことで質問に答えると、身をかがめてリエラの頬についたヤギの乳を指先で拭う。

「ヤギ車の用意も出来ているはずだから、工房に戻る」
「はい」

 ちょっぴり名残惜しいけれど、用が済んだのなら仕方がない。
リエラは、ルッツさん達にお礼の言葉を伝えると、アスタールさんと一緒に工房への帰路についた。



 獣の氏族の居住区を出ると、すぐに今日の感想を聞かれてリエラはどう答えたものかと首をひねる。
うーん……ここは正直にそのままの感想で。

「とりあえず、今日は獣舎を一通り案内してもらったんですが、思ったよりも面白かったです」

 掃除をしているところも見せて貰ったんだけど、獣舎の掃除もただキレイにするんじゃだめなんだよね。
せっかく『洗浄』の魔法できれいにしたのに、汚れたワラの山を改めて入れなおしてるのにはびっくりしたよ。
聞いてみたら、自分たちの臭いが全くしない状態になってしまうと自分の居場所としての認識が出来なくなってストレスをため込んでしまうんだって。
だから、床に敷く為のワラに一割程度、掃除前の汚れたワラを混ぜるんだとか。
人間でいうと、毎日違う宿に泊まるようなものなのかと思って聞いたんだよね。
孤児院にいた獣人族の子にも、そういう子がいて、絶対に洗おうとしない手ぬぐいが汚いなぁって思っていたものだけど……。
アレも、獣舎に汚れたワラを混ぜるのと同じ事なのかも。

「楽しめたのならば重畳」
「はい、楽しかったです。でも、案内してくれるのはありがたかったんですけれど、案内役は六人もいらなかったですね」
「私の時と比べれば随分と少ないが、それでも多いというのは納得できるな」
「あの人たちがかわるがわる耳元で囁いてくるのは、ものすごーく気持ち悪かったです」
「――ああ、その気のない方としては迷惑行為でしかないだろう?」

 ――その気ってなんだ、その気って。
って言うか、相槌の内容からすると、確信犯?

「……アスタールさん」
「なにかね?」
「リエラがアスタールさんと一緒に居住区に行ったら、ああいう人たちが出てくるって、もしかして知ってませんでした?」
「確定ではなかったが、想定はしていた。君に本当に婚活男子をあてがってきたのにはがっかりだ」

 いやいや、『コンカツダンシ』ってのが何かは知らないけど、ほぼ確実にそういった人が出てくると思ってたよね?
更に続く言葉に、リエラは形ばかり握っていた手綱を取り落とす。

「とはいえ、他の氏族は獣の氏族ほど必死になる理由もない。残りの四日はもう少しマシなはずだ」
「メ”メ”メ”メ”メ”♪」

 分かりきっている事を説明しているかのようなアスタールさんの口調と、それに続くリエラをあざ笑うかのようなヤギの鳴き声にまた、腹が立つ。

「そんなオプション、聞いてなーい!! もっときちんとした説明を要求します~!!」

 グラムナードの青い空に、リエラの叫び声が響いて吸い込まれていった。



★☆★☆★☆★☆★☆

 いつも読んでくださっている皆様のおかげで、この度、書籍化が決定しました。
詳しくは近況ボードに投稿してありますので、そちらをご参照いただけたら幸いです。
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