リエラの素材回収所

霧ちゃん→霧聖羅

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二年目 錬金術師のお仕事

ラエルさんのお仕事

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 午後からのラエルさんとのお仕事は、思いのほか面白そうだ。
何が面白そうなのかって?
ラエルさんが言うには、『言葉』に対するイメージによって具現化する現象魔法の効果が変わるらしい。

「この、言葉のイメージというのが厄介でね――」

 ラエルさんはそう言ってため息を吐く。
彼は結構、このお仕事で苦労しているらしい。
なにせ、このお仕事に関してのアスタールさんからの注文がやたらと厳しいらしいのだ。

「リエラ君が魔法を覚えるのに使った『生活魔法大全』を僕も見たけれど、アレだって、学ぶ人間によって効果にかなりの差が表れる」
「??」
「――そうだね。外に出て試してみようか」

 彼に促されて向かったのは、毎朝、体力づくりをしている工房の裏の鍛錬場。


「『生活魔法大全』の文言は、一説目が必ず『我求む』だね?」
「はい」
「僕のイメージだと、『我』って言う一人称は『偉そう』。君はどう感じる?」
「言われてみると、確かに偉そうな一人称ですね」

 言葉のイメージなんて考えもしなかったなと思いつつ、相槌を打つ。
言われてみると、確かに普通の人庶民が使う一人称じゃないよね。
お貴族様とか、王様とか?
人の上に立つ立場の人が使いそう。

「続く要望も『求む』も、命令の類だから同じイメージだ」
「ああ、『求め』ればかなう訳ですし、そうかも」
「僕の属性は『地』と『風』だから、『微風』の呪文を使って見せるよ」

 そう言ってラエルさんは、『微風』の呪文を唱え始める。

「『我求む そは、柔らかき風 求めに従いこの身を包め』」

 彼の詠唱が終わると、広い鍛錬場いっぱいに柔らかな風が渦を巻く。
足元は固く踏みしめられているとはいえ、むき出しの土だ。
表層の砂が風で舞い上がり、思わず二人で咳き込む。

「『風よ止まれ』」

 咳き込みながらもラエルさんがそう告げると、風はピタリと止んで、舞い上がっていた砂も床に落ち始める。
それでもいまだに細かい砂が舞い続けているものだから、たまらず二人で鍛錬場を飛び出した。

「ひ……ひどい目にあった……!」
「外だと普通に風が吹いてるから、せめて広いところでと思ったんだけれども無駄だったね……」

 鍛錬場の外に出て少し落ち着くと、互いの口から愚痴がこぼれる。
ラエルさん本人も言っている通り、外でやればもう少しましだったかも。
ふと、視線を感じてラエルさんの方を見ると、彼は妙に楽し気な笑みを浮かべている。

「ふ……。埃まみれでひどい恰好……!」

 そう言って噴きだす本人も、土ぼこりで真っ白け。

「全く。誰がこんなにしたんですか」
「ぷ……は、あはははははは」

 ケラケラと楽しそうに笑い転げる姿に、最初は膨れて見せたリエラもなんだかおかしくなってきて、いつの間にか一緒になって爆笑してた。
いつもの事ながら、他の人が笑ってると引きずられちゃう。
それにしても、ラエルさんってばいつもクールを気取ってるから、こんなに笑い上戸だなんて思わなかったなぁ……。


 笑いの発作が落ち着いたところで、まじめな顔を取り繕ったラエルさんが話の続きを始める。

「さっきやってみせたように、人のイメージによって同じ文言でも起きる現象が変わってくるというのは理解してもらえたかな?」
「そうですね……。あんなに変わるとは思わなかったです」
「リエラ君は、きちんと本の内容を読み込んでから実行するタイプだね」
「あー……。まあ、そうかも?」
「そういうタイプは、あの罠にはまりやすい」
「罠?」

 そんなのあったっけ?? と思いながら、本の内容を思い返す。
うーん? 確かあの本って、魔法の名前→どんな現象が起こるかの図解付きの説明→呪文の順番で書かれていた記憶がある。
そのどこに罠なんて、危なそうなものがあるんだろう??
首をかしげて悩むリエラに、ラエルさんは優しく諭すように答えを明かす。

「答えは、あの本の『全て』」
「えええ?」
「君は、内容を読み込んだ上で実行するタイプだったから、より顕著に効果がでたけれどね」
「はあ……」
「各魔法の説明が行われているページの頭に、大きな文字で魔法の名前が書いてあるよね」
「はい」
「最初の罠はソレだよ」
「……なるほど」

 言われてみると確かにそうだ。
誰でも、本を開いて真っ先に見るのはそのページの中で一番大きく書かれている文字になると思う。
さっきラエルさんが使った魔法の名前は『微風』だ。
それが頭にある状態で、あの呪文を唱えたら――少なくとも、さっきのような広範囲にわたって風が渦を巻くようなことにはならないだろう。
たとえ、あの呪文がひどく高飛車な文言ばかりだと思っていたとしても。

「魔法の名前に続く文章による説明と図解が、よりイメージを固定化させるという訳ですか……」
「そう言う事だね」
「って事は、固定概念を元に魔法を使っていたから、本にある効果を大きくはみ出した魔法を使えなかったと……」
「君がどういった魔法の使い方をしようとしてきたのかは知らないけれど、おそらくはそうだろうね」
「なんだか、今までものすごく損をしていた気分です……」
「まあ、呪文がなくても魔法が使えるというあたりでお察しじゃないかな?」

 リエラは、めちゃくちゃその罠に引っかかってました。
落ち込むリエラの様子に、ラエルさんは苦笑しながら続ける。

「アスタール君の希望は、この本よりも緩い罠を仕掛けつつ生活や環境を整えるのに使いやすい魔法の開発だよ」
「ああ、攻撃魔法とかじゃないんですね」
「彼も、先代殿ほどではないけれど、魔法を他社を傷つける為に使われるのはお嫌らしい。なかなか骨が折れるとは思うけれど、頼りにしているよ」

 確かに、アスタールさんってあまり攻撃的なタイプじゃないような気がする。
……リリンさんがかかわると微妙そうだけど。

 それにしても、罠を仕掛けつつって事は、あまり融通が利かないようにしなきゃいけないって事か。
結構、これって難しい仕事のような気がする。
でも――。

「こちらこそ、どこまでお力添えできるかは分かりませんが、よろしくお願いします」

 『頼りにしてる』なんて言われたら、受けて立たないわけにはいかないじゃない。
ラエルさんは、人のたきつけ方をよく知ってる。
リエラはそう思いながら、彼から差し出された手を握り返した。
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