167 / 263
二年目 錬金術師のお仕事
森の氏族 中
しおりを挟む
森の氏族の保有する箱庭は、工房が入っている商業区(工房区じゃないらしい)の一階中央部にあった。
迷宮として使用されていないせいか、アスタールさんの執務室にあるのと同じように水晶玉の形をしている。
「ここでは管理権限の設定はされていないから、水晶に触れれば墓庭に入れるようになってるよ」
ソルさんはそう口にすると、さっさと水晶玉に手を触れ姿を消す。
リエラが一緒に取り残されたジェロランさんに視線を向けると、彼は「お先にどうぞ」と言いながら苦笑を浮かべ、肩を竦める。
彼の反応を見る限り、ソルさんのこういう行動はいつもの事らしい。
水晶に触れると一瞬だけ視界がブレて、リエラは緑豊かな森の傍らに立っている。
箱庭に入る時のお決まりではあるけど、やっぱり何度経験しても慣れない。
リエラの後を追って入ってきたジェロランさんを確認すると、ソルさんは早速箱庭の中を案内し始めた。
「森の氏族に限らず、氏族保有の箱庭の中には魔力を多く必要とする動植物は存在しない」
「――というと……」
「いわゆる赤薬草なんかの魔法薬の素材になるものはないって事」
「なるほど」
赤薬草が魔力をたくさん必要とする植物だなんて知らなかったなと思いつつ、ソルさんの説明に耳を傾ける。
「そういった素材は外町の迷宮に取りに行く事になっているんだけど……」
「できれば自前の箱庭で採取したいところですなぁ」
ソルさんが濁した言葉を引き取ってジェロランさん。
視線を交わし合って肩を竦めるところを見ると、これもよくある会話らしい。
「あったらあったで、更にほしくなるものなんですねぇ……」
獣の氏族では、自分達の箱庭を欲しがっていたけど、箱庭を持っている森の氏族はより自分達が欲しいものを充実させてもらいたい……と。
二人の会話をそう評すると、ジェロランさんは少し気まずそうな表情を浮かべた。
「そういうものじゃない? 獣の氏族に関しては、僕があの氏族の養い親を選べば良かったのかもしれないけど……今更言っても仕方がない話だし」
「?」
「あの人は、自分の後継者を手に入れる為の子を産む女性を差し出した氏族にだけ箱庭を渡してる」
「……先代様ですか?」
「うん、そう。ただ、直接は子を産んではいない水の氏族は管理している迷宮があるから……」
水の氏族が管理している迷宮というのは『海風の迷宮』だ。
ただ、この迷宮はこの地に移り住んですぐに作られた迷宮で、水の氏族が管理はしているものの保有という形ではなかったはず……だよね?
「ウチの氏族のように『保有』しているわけではないけど、他の氏族にとって遊び場以上の利用価値がある訳じゃないからね」
「獣の氏族は、自分達にとって利用価値のある箱庭が欲しいんですなぁ」
「……なるほど」
「現輝影殿の母君が水の氏族出身だというのもあって、先代の血筋を自分達の氏族に引き入れられれば箱庭を手に入れられるんじゃないかと思っている節があるんだよ」
あー……、それが昨日の行動につながる訳か……。
はた迷惑な話だけど、ちょっと納得。
先代の血筋じゃなくても、可愛がっている弟子だったら可能性があると思ったのかな?
もしくは、リエラが箱庭を作れることを知っているのか。
「――話しているうちに見えてきたね」
「リエラ様、ここは養蜂場ですな」
「よーほーじょー……」
最初に連れてこられたのは、木箱の塔がいくつも置かれた森の中の広場。
広場の周りを、ブンブンとうるさいくらいの羽音を響かせて、リエラの握りこぶしほどもある大きな虫が飛び回っている。
未だに『素材回収所』に導入できていないハチだ。
「ハチは、あの木箱の中に巣を作るんですな」
「へぇ~!」
リエラが興味を示すと、ジェロランさんは嬉しそうな様子で木箱のそばにいる人影に手を振る。
「ウチの妻のアメリーヌです」
ジェロランさんに気が付いてやってきたのは、頭には金属製の目の細かい網を垂らした帽子を被り重装備をした人だった。
妻だと教えられなかったら、女の人だとは思わなかったよね……。
服も丈夫そうな厚手の生地で作られたもので、体型も分からないんだもの。
「リエラ様が興味がおありらしい。ちょっと見せてやってくれないか?」
「はいはい、承りましたですよ!」
彼女は嬉しそうにそう答えると、リエラに問いかける。
「リエラ様は、ご自分の周りの気温を下げながら風でハチを遠ざける事は出来ますですか?」
迷宮として使用されていないせいか、アスタールさんの執務室にあるのと同じように水晶玉の形をしている。
「ここでは管理権限の設定はされていないから、水晶に触れれば墓庭に入れるようになってるよ」
ソルさんはそう口にすると、さっさと水晶玉に手を触れ姿を消す。
リエラが一緒に取り残されたジェロランさんに視線を向けると、彼は「お先にどうぞ」と言いながら苦笑を浮かべ、肩を竦める。
彼の反応を見る限り、ソルさんのこういう行動はいつもの事らしい。
水晶に触れると一瞬だけ視界がブレて、リエラは緑豊かな森の傍らに立っている。
箱庭に入る時のお決まりではあるけど、やっぱり何度経験しても慣れない。
リエラの後を追って入ってきたジェロランさんを確認すると、ソルさんは早速箱庭の中を案内し始めた。
「森の氏族に限らず、氏族保有の箱庭の中には魔力を多く必要とする動植物は存在しない」
「――というと……」
「いわゆる赤薬草なんかの魔法薬の素材になるものはないって事」
「なるほど」
赤薬草が魔力をたくさん必要とする植物だなんて知らなかったなと思いつつ、ソルさんの説明に耳を傾ける。
「そういった素材は外町の迷宮に取りに行く事になっているんだけど……」
「できれば自前の箱庭で採取したいところですなぁ」
ソルさんが濁した言葉を引き取ってジェロランさん。
視線を交わし合って肩を竦めるところを見ると、これもよくある会話らしい。
「あったらあったで、更にほしくなるものなんですねぇ……」
獣の氏族では、自分達の箱庭を欲しがっていたけど、箱庭を持っている森の氏族はより自分達が欲しいものを充実させてもらいたい……と。
二人の会話をそう評すると、ジェロランさんは少し気まずそうな表情を浮かべた。
「そういうものじゃない? 獣の氏族に関しては、僕があの氏族の養い親を選べば良かったのかもしれないけど……今更言っても仕方がない話だし」
「?」
「あの人は、自分の後継者を手に入れる為の子を産む女性を差し出した氏族にだけ箱庭を渡してる」
「……先代様ですか?」
「うん、そう。ただ、直接は子を産んではいない水の氏族は管理している迷宮があるから……」
水の氏族が管理している迷宮というのは『海風の迷宮』だ。
ただ、この迷宮はこの地に移り住んですぐに作られた迷宮で、水の氏族が管理はしているものの保有という形ではなかったはず……だよね?
「ウチの氏族のように『保有』しているわけではないけど、他の氏族にとって遊び場以上の利用価値がある訳じゃないからね」
「獣の氏族は、自分達にとって利用価値のある箱庭が欲しいんですなぁ」
「……なるほど」
「現輝影殿の母君が水の氏族出身だというのもあって、先代の血筋を自分達の氏族に引き入れられれば箱庭を手に入れられるんじゃないかと思っている節があるんだよ」
あー……、それが昨日の行動につながる訳か……。
はた迷惑な話だけど、ちょっと納得。
先代の血筋じゃなくても、可愛がっている弟子だったら可能性があると思ったのかな?
もしくは、リエラが箱庭を作れることを知っているのか。
「――話しているうちに見えてきたね」
「リエラ様、ここは養蜂場ですな」
「よーほーじょー……」
最初に連れてこられたのは、木箱の塔がいくつも置かれた森の中の広場。
広場の周りを、ブンブンとうるさいくらいの羽音を響かせて、リエラの握りこぶしほどもある大きな虫が飛び回っている。
未だに『素材回収所』に導入できていないハチだ。
「ハチは、あの木箱の中に巣を作るんですな」
「へぇ~!」
リエラが興味を示すと、ジェロランさんは嬉しそうな様子で木箱のそばにいる人影に手を振る。
「ウチの妻のアメリーヌです」
ジェロランさんに気が付いてやってきたのは、頭には金属製の目の細かい網を垂らした帽子を被り重装備をした人だった。
妻だと教えられなかったら、女の人だとは思わなかったよね……。
服も丈夫そうな厚手の生地で作られたもので、体型も分からないんだもの。
「リエラ様が興味がおありらしい。ちょっと見せてやってくれないか?」
「はいはい、承りましたですよ!」
彼女は嬉しそうにそう答えると、リエラに問いかける。
「リエラ様は、ご自分の周りの気温を下げながら風でハチを遠ざける事は出来ますですか?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。