リエラの素材回収所

霧ちゃん→霧聖羅

文字の大きさ
171 / 263
二年目 錬金術師のお仕事

箱庭デート

しおりを挟む
 炎の氏族の翌日に行った岩の氏族の箱庭は、前日とは打って変わって冷涼な――というか雪と氷の世界。
さすがに前日の、溶岩で満たされた箱庭で懲りたリエラがきちんと予習をしてなかったら、シモヤケじゃすまなかったんじゃないかな?
その日はきちんと対策をとっていたから、それなりに快適に案内を受けることができた。
対策に使えるような服を作っていてくれたセリスさんには、感謝しかない。
着ていると気温より一〇度も周囲の気温を上げてくれる外套がなかったらなんて、考えたくもないよね。

 先週の最後に訪問した水の氏族の居住区で案内されたのは、『海風の迷宮』。
個人的に夏に何度も遊びに行っている場所だけど、魚を獲ったり塩を作ったりなんて見たことはなかったから結構面白かった。
塩は石でできた大きな滑り台に海水を流して作るんだけど、そうやって作ると、魔法で作るよりも美味しい塩が作れるんだって。
こういう時に、魔法も万能じゃないんだなーと思う。
色んな作業の時間を短縮するっていう点では、ものすごく優秀だけど。


 リエラから、この一週間のとりとめのない感想を聞いてくれているのは、みんなの鬼教官・アスラーダさん。
今居るのは、リエラの箱庭素材回収所の中にある風通しのよい丘の上の東屋。
素材回収所の中の季節は外と同じにしてあるから、日向だと暑すぎるんだもの。
その点、川から涼しい風が上がってくる東屋はとても居心地が良い。
毎週、蒼月の日に素材回収所でアスラーダさんと二人きりのお茶会をするのはリエラの密かなお楽しみだ。
普段はアスラーダさんも忙しくしていた、ゆっくりお話を聞いてもらう時間なんてそうないからね。
最も、たまに突発的に押しかけちゃう時もあるんだけど……。
それに二人きりでいる時、アスラーダさんはいつもリエラにとても優しい。
鍛錬場での厳しさは、一体どこへ行っちゃうんだろう?
個人的には、鍛錬場で見せる凛々しい姿も二人でいる時に見せる優しい笑みを浮かべる姿も、両方とも好きだけど。

「急に仕事の内容が変わったから心配だったが、楽しめているみたいで良かった」
「はい、楽しいです。明日からは、色々作るお手伝いをしてみる事になってるんですよ」
「へぇ……。明日は獣の氏族だったか?」
「はい。獣の氏族ではバターやチーズを作るお手伝い。それから森の氏族では――」

 明日からの予定を数え上げていくのを見ながら、まぶしそうに目を細める彼の表情に、リエラの心臓がドキンと跳ねる。
特上の微笑みを不意打ちで食らわせるのは反則だと思います、アスラーダさん!
ドギマギするのを誤魔化そうと視線を逸らす。

「なるほど、楽しそうだな」
「本当に楽しみです。楽しみなんですけど――」

 それまでは、ただただ楽しみだった明日からの予定なんだけど、アスラーダさんの笑みに気を取られたことによって、ちょっぴり後ろめたく思っている事を思い出して言いよどむ。

「うん?」
「仕事をするふりをして遊んでいるだけのような気がして、ちょっと後ろめたかったり……」

 それぞれの氏族の特徴を覚えて彼らに馴染むためだと言われてはいる。
でもやっぱり、ここしばらくの間どうしても午前中に遊び惚けているような感覚が抜けないんだよね。
各氏族の案内人が、リエラの事を楽しませてくれようとすればするほど、後ろめたい気持ちが強くなる。
それに、なんか慣れないんだよね。
ああいう風に、特別扱いされるのは。

「そういう真面目なところはお前の良いところではあるが、今月中は甘えといた方がいい」
「……そういうもんですか?」
「ああ」

 納得いかずに大きなため息を吐くと、彼の手が伸びてきてリエラの頭を撫でまわす。
相変わらず、リエラは『妹』扱いだ。
ちょっと……いや、甚だ不満。
でも、これ以上は望んじゃダメだ。
リエラは心の中で広がってしまいそうなその感情を押し込めて、なんとか笑みを浮かべる。
アスラーダさんの手が、もう一度だけ、頭を撫でてから離れていく。
無理をしているのは見え見えでも、ちゃんと笑ってみせられたみたいだ。
アスラーダさんは憮然とした表情で、胸の前で腕を組むと大きく息を吐く。

「大体、アスタールの奴は、今まで一人でやっていた婚姻審査をお前に引き継ぐ予定なんだろう?」
「……あー。そんなこと言ってましたねぇ」

 彼はお仕事が原因で様子がおかしいのだろうと勘違いしてくれたらしい。
その事に、心の中で感謝しながら相槌を打つ。
まぁ、実際にかなりの無茶を言われてはいるんだけど。
おとといの夕飯の後に渡された、各氏族ごとの住民票とともに血統図を渡されたことを思い出してげんなりする。
獣の氏族が二三三〇人。
森の氏族は二〇六二人。
炎の氏族で一七一四人。
岩の氏族が二〇七五人。
水の氏族も二〇三五人。
五氏族で、一〇〇〇〇人超えの名前と顔。
それから血筋までを覚えるように言われたんだよね……。
期日はとりあえず、秋になるまでってことで約三か月。
でも、これが長いのか短いのかは微妙なところだけど、頑張れば何とかなるだろう。
割と記憶力には自信があるんだよね、リエラは。

「まあ、頑張りますよ!」
「きつかったら言っていいんだぞ?」
「それじゃ、その時はお言葉に甘えます」
「放っておくと無理をしそうだからな。早めに言ってくれ」

 確かにリエラの場合、ぎりぎりどうにもならなくなったところでやっと助けを求めるんだろうなぁ……。
アスラーダさん、よくご存じで!
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。