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二年目 岩窟の迷宮
回収用トング
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リエラちゃんを除く女子三人で気合を入れなおして、横道探索の再開。
ゲジゲジの洗礼を受けた私達に、もう怖いものなんてない!
……って言うのは嘘だけど、アレを体験した後だったのもあってか、その後に出てきた五〇センチのムカデやクモなんかはそれほど怖く感じなかった。
いや、ゲジゲジの場合、怖いよりも気色悪いんだけど。
「アーちゃん、右!」
「了解なのです♪ ムカデさん、こんにちは、そしてさようならなのです~♪」
今もルナちゃんの指示でアッシェが、右手の岩の割れ目から体をニョッと出してきたムカデを、継ぎ目っぽい部分に刃を滑り込ませて頭と体をさようならさせている。
アッシェってば、器用すぎ。
武器を扱う巧みさは、さすがに基礎学校で習った範囲を超えているよね。
やっぱり記憶を失う前のアッシェが、どんな生活をしていたのかは気になるなぁ……。
なにせ、師兄とまともに打ち合えるレベルなんだもの。
記憶を失って、私達の孤児院にやって来たのが一〇歳くらいの時の話だから、その頃にはこれだけの技量を備えていた――もしくは、その基礎があったってことだよね。
スルト君としては、それが面白くないみたいでアッシェにすごく対抗意識を燃やしてるみたい。
今日もアッシェが剣に属性付与をしたものを選んだものだから、自分も剣を選んだんじゃないかな。
「スルとん、斜め前!」
「ほいよ!」
「ポッシェ、上!」
とはいえ、男の子組も負けてない。
スルト君もポッシェも、ルナちゃんの声が上がるのより少し早いかほぼ同時に武器をふるう。
うん。
ポッシェ、カッコいい!
スルト君は、属性付与をした武器を使いつつも苦戦気味。
やっぱり、剣だとこの迷宮の魔獣は相性が悪いみたい。
二度三度と切り付けて、やっとのことでムカデ型の金虫をやっつけた。
さすがに、アッシェみたいにはいかないか。
「くそ、うまくいかねーな……」
「ふふふ~んなのです♪」
チラッと自分の方に視線を走らせつつ、悔しそうにぼやくスルト君に、アッシェは得意げに胸をそらして見せる。
スルト君は、褒めると調子に乗るタイプ。
だから、アッシェは師兄から時々こうやって挑発するようにって指示されてる。
アッシェに煽られた後のスルト君は、悔しさをバネにいつも以上に頑張るから、師兄の作戦はうまく行ってるんだろう。
「コレ、回収するのが一番イヤかも……」
「あ~、言えてる。グロテスクではないけれど、造形的に嫌な感じ」
「それそれ!」
アッシェとスルト君のやり取りを眺めていると、リエラちゃんとルナちゃんが金虫の死骸を持ってきた袋に詰め込みながらぼやいてる。
確かにそうだと、足元の死骸を拾い上げつつ思う。
手袋をつけているとはいえ、やっぱり虫を手に取るのは憂鬱。
「――こう、挟んで摘まむ道具がほしい」
「そうそう。直に持つんじゃなくって摘まみ上げる道具が欲しい!」
思わず呟いたその言葉に、ルナちゃんがほぼ無意識に相槌を打ってから、クリンとこちらを振り向く。
「……挟んで摘まみ上げる道具?」
「!?」
「ソレだ! リエらん、作れない? そういうの!」
「えええ? ルナちゃん、唐突だね……」
そう言いながらも、リエラちゃんは首を傾げる。
考え込むその表情は真剣そのもの。
どうやらこの場で作る気みたい。
「えっと、挟んで摘まむってことは、バーベキューで使ってたトング?」
「うんうん。そんな感じでいいんじゃない?」
バーベキューで使ってたトングって言うとアレだよね。
鉄の板をU字型に曲げた感じのヤツ。
「……アレだと、厚みのあるのは挟めない」
「おおう……」
あんまりにも端と端が離れてると、滑っちゃうし。
金虫はそこそこ重いし、少し頑丈な感じで――。
「じゃあ、台所で使ってるようなやつを大きくした感じかな」
そうそう、ソレ! って感じ。
リエラちゃんの考えてるモノと、私の思ってるモノが一致した。
「ん」
「作るなら、先の方は滑らないようにギザギザにして欲しいです~!」
確かに、表面がツルツルしてるから滑り止めも欲しい。
いつの間にやらアッシェも参加。
みんなで頭を寄せ合って、あーでもないこーでもないと意見を交わす。
私達が話し合っている間に男子三人組(師兄は男性?)は静かに、近寄ってきていた金虫を退治することにしたらしい。
ごめん、コレが終わったらすぐに参加します!
「じゃあ、暫定案でやってみるね」
リエラちゃんが手をかざすと、茶色がかった光が金虫の死体を照らす。
そして、息を呑んで見守るうちにその表面に金属の粒が浮き上がってくる。
ムカデ型の金虫って、体長が50センチ前後で幅が大体5センチくらいと細長い。
そのせいか、とれた金属は私の小指程度。
一体分じゃ、トングを作るのに全然足りない。
「――ふぅ。思ったよりも難しいなぁ……」
彼女はそう呟きつつ次にとりかかる。
「難しい?」
「うん。本当は今度教えてもらうことになってるんだけど……。きちんと教わってからにすればよかったかな?」
ちょっと待て。
今度教わるって事は、まだやったことがなかったんだよね?
なんでそれで、多少なりとも成果が出るの?
色々と釈然としないものはあるけど、その後もリエラちゃんは作業を続けてみんなの分の金虫回収用トングを完成させた。
出来上がったのは、可動部分だけに金属を使って摘まむ部分は石を変形させたモノ。
リエラちゃんが頑張った甲斐があったみたい。
最後のトングを作る時には、はじめよりも沢山の金属を抽出することができるようになっていた。
それでも必要量にはとどかなかったんだけど、結果的にはこれで正解かも。
使い心地も悪くないし。
みんなの評判も上々で、その後の金虫拾いがはかどったよ。
ゲジゲジの洗礼を受けた私達に、もう怖いものなんてない!
……って言うのは嘘だけど、アレを体験した後だったのもあってか、その後に出てきた五〇センチのムカデやクモなんかはそれほど怖く感じなかった。
いや、ゲジゲジの場合、怖いよりも気色悪いんだけど。
「アーちゃん、右!」
「了解なのです♪ ムカデさん、こんにちは、そしてさようならなのです~♪」
今もルナちゃんの指示でアッシェが、右手の岩の割れ目から体をニョッと出してきたムカデを、継ぎ目っぽい部分に刃を滑り込ませて頭と体をさようならさせている。
アッシェってば、器用すぎ。
武器を扱う巧みさは、さすがに基礎学校で習った範囲を超えているよね。
やっぱり記憶を失う前のアッシェが、どんな生活をしていたのかは気になるなぁ……。
なにせ、師兄とまともに打ち合えるレベルなんだもの。
記憶を失って、私達の孤児院にやって来たのが一〇歳くらいの時の話だから、その頃にはこれだけの技量を備えていた――もしくは、その基礎があったってことだよね。
スルト君としては、それが面白くないみたいでアッシェにすごく対抗意識を燃やしてるみたい。
今日もアッシェが剣に属性付与をしたものを選んだものだから、自分も剣を選んだんじゃないかな。
「スルとん、斜め前!」
「ほいよ!」
「ポッシェ、上!」
とはいえ、男の子組も負けてない。
スルト君もポッシェも、ルナちゃんの声が上がるのより少し早いかほぼ同時に武器をふるう。
うん。
ポッシェ、カッコいい!
スルト君は、属性付与をした武器を使いつつも苦戦気味。
やっぱり、剣だとこの迷宮の魔獣は相性が悪いみたい。
二度三度と切り付けて、やっとのことでムカデ型の金虫をやっつけた。
さすがに、アッシェみたいにはいかないか。
「くそ、うまくいかねーな……」
「ふふふ~んなのです♪」
チラッと自分の方に視線を走らせつつ、悔しそうにぼやくスルト君に、アッシェは得意げに胸をそらして見せる。
スルト君は、褒めると調子に乗るタイプ。
だから、アッシェは師兄から時々こうやって挑発するようにって指示されてる。
アッシェに煽られた後のスルト君は、悔しさをバネにいつも以上に頑張るから、師兄の作戦はうまく行ってるんだろう。
「コレ、回収するのが一番イヤかも……」
「あ~、言えてる。グロテスクではないけれど、造形的に嫌な感じ」
「それそれ!」
アッシェとスルト君のやり取りを眺めていると、リエラちゃんとルナちゃんが金虫の死骸を持ってきた袋に詰め込みながらぼやいてる。
確かにそうだと、足元の死骸を拾い上げつつ思う。
手袋をつけているとはいえ、やっぱり虫を手に取るのは憂鬱。
「――こう、挟んで摘まむ道具がほしい」
「そうそう。直に持つんじゃなくって摘まみ上げる道具が欲しい!」
思わず呟いたその言葉に、ルナちゃんがほぼ無意識に相槌を打ってから、クリンとこちらを振り向く。
「……挟んで摘まみ上げる道具?」
「!?」
「ソレだ! リエらん、作れない? そういうの!」
「えええ? ルナちゃん、唐突だね……」
そう言いながらも、リエラちゃんは首を傾げる。
考え込むその表情は真剣そのもの。
どうやらこの場で作る気みたい。
「えっと、挟んで摘まむってことは、バーベキューで使ってたトング?」
「うんうん。そんな感じでいいんじゃない?」
バーベキューで使ってたトングって言うとアレだよね。
鉄の板をU字型に曲げた感じのヤツ。
「……アレだと、厚みのあるのは挟めない」
「おおう……」
あんまりにも端と端が離れてると、滑っちゃうし。
金虫はそこそこ重いし、少し頑丈な感じで――。
「じゃあ、台所で使ってるようなやつを大きくした感じかな」
そうそう、ソレ! って感じ。
リエラちゃんの考えてるモノと、私の思ってるモノが一致した。
「ん」
「作るなら、先の方は滑らないようにギザギザにして欲しいです~!」
確かに、表面がツルツルしてるから滑り止めも欲しい。
いつの間にやらアッシェも参加。
みんなで頭を寄せ合って、あーでもないこーでもないと意見を交わす。
私達が話し合っている間に男子三人組(師兄は男性?)は静かに、近寄ってきていた金虫を退治することにしたらしい。
ごめん、コレが終わったらすぐに参加します!
「じゃあ、暫定案でやってみるね」
リエラちゃんが手をかざすと、茶色がかった光が金虫の死体を照らす。
そして、息を呑んで見守るうちにその表面に金属の粒が浮き上がってくる。
ムカデ型の金虫って、体長が50センチ前後で幅が大体5センチくらいと細長い。
そのせいか、とれた金属は私の小指程度。
一体分じゃ、トングを作るのに全然足りない。
「――ふぅ。思ったよりも難しいなぁ……」
彼女はそう呟きつつ次にとりかかる。
「難しい?」
「うん。本当は今度教えてもらうことになってるんだけど……。きちんと教わってからにすればよかったかな?」
ちょっと待て。
今度教わるって事は、まだやったことがなかったんだよね?
なんでそれで、多少なりとも成果が出るの?
色々と釈然としないものはあるけど、その後もリエラちゃんは作業を続けてみんなの分の金虫回収用トングを完成させた。
出来上がったのは、可動部分だけに金属を使って摘まむ部分は石を変形させたモノ。
リエラちゃんが頑張った甲斐があったみたい。
最後のトングを作る時には、はじめよりも沢山の金属を抽出することができるようになっていた。
それでも必要量にはとどかなかったんだけど、結果的にはこれで正解かも。
使い心地も悪くないし。
みんなの評判も上々で、その後の金虫拾いがはかどったよ。
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