リエラの素材回収所

二年目 叔母様来襲

こっちが本命？

　キュウリ婦人が機嫌よく切り出したのは、いわゆるお見合い話というやつだ。

「あなた達へのお見合い話なんだけど、エドゥラーン家から二人の孫娘をどちらかどうかと言う話が来ているほかにも十件くらいきているわね」
「何度も必要ないと言っているのだが？」

　彼女はそう言うと、アスタールさんの文句には耳を貸さずに腰に付けたポーチから大きな布包みを取り出す。
こういうのを『猫の耳に説法』って言うんだっけ？
いや、あれは、『神様目上の人に法を説くのは不敬』って方向だったか。
今のやり取りからは程遠かった。

　それはそうと、よく見てみると、キュウリ婦人のポーチはアスラーダさんとお揃いだ。
やっぱり、キュウリ婦人が国王様のお母さんってことなのか……
なんだか、『国母』というイメージからはかけ離れた人だなと、目の前の彼女を見ながら秘かに思う。
口に出したら不敬かもしれないけど、心の中で思うくらいはいいよね？

　キュウリ婦人がポーチから出した布包みの結び目を解くと、そこからは大量の姿絵が現れた。
これ、全部がお見合い相手なんだろうか……？
金髪だったり、茶髪だったりと様々な髪の色だけじゃなく、色々な種族の娘さん達の姿絵の山には圧倒されてしまう。
そして、リエラの場違い感が半端じゃない。
ついでに、アスタールさんの機嫌の下降具合も半端じゃない。
オロオロしながら隣の様子を窺っていると、アスラーダさんと目が合った。
彼もリエラと同じように、いつアスタールさんが怒り出すかとハラハラしている様子だ。
事態改善の役には立ちそうにない。

「とりあえず、ざっとでいいから姿絵に目を通して頂戴」

　そう言ってアスラーダさんの手に姿絵の山を乗せると、彼女はまたキュウリを食べ始めた。
何ともマイペースな女性だ。
どうでもいいけど、リエラもお腹が空いてきたな。
目の前で遠慮なく食べ続ける人がいるから、余計にそう感じるのかもしれないけど。
アスラーダさんは興味なさそうに、それでも一応は姿絵を確認してく。
その間も、部屋の中にはキュウリを齧るポリポリという音が響いている。

　でも、そっかぁ。
改めて考えると、アスタールさんにしろアスラーダさんにしろ、貴族子弟ってやつだもんね。
リエラみたいな庶民とは違って、家のためにお見合いの一つや二つはしない訳にはいかないってことか……
キュウリ婦人は今回、昨日の晩のことを訊ねるというよりも、こっちの方がメインの目的だったのかもしれない。
いわゆる『お見合い叔母さん』的な感じで。
そっちがメインの目的だと考えれば、アスタールさんの塩対応にも少しは納得がいくような気がする。
アスタールさんにとっては、ただただ迷惑な話だろうから。

　アスタールさんの場合はリリンさんのことがあるし、万が一お見合いをしたとしてもその相手と結婚はしないだろう。
でも、アスラーダさんは？
アスラーダさんにアスタールさんのような、心に決めた相手がいるという話は聞いたことがない。
中町の女性と個人的に会っているなんてことも特にはなかったはず。
お休みの日にも割と工房にいるし、出かける時は大概、リエラも一緒だ。
夜は結構遅くまで書類仕事をしているみたいだし、こういっちゃなんだけど、恋人と逢引する暇がない。
となると……
そこまで考えて、思わず唇を噛む。
ああ、いやいや。
アスラーダさんがお見合いして、誰かと結婚するのはリエラには関係がないことだ。
でも――それなら、なんでこんなに喉の奥が詰まったような感じがするんだろう……？
胸のあたりがキュッと痛いような気がして、リエラは首を傾げた。