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二年目 山道視察

痛いところをつつかれた

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 話し合いの結果、エドゥラーン家の二の姫を弟子として受け入れと、山道の開発に取り掛かることの二つが決まった。
弟子入りについては、アスタールさんがずっとでごねていたんだけれど……
『誰に』弟子入りするかについて明言されていないことを逆手にとると説明されて、あっさりと許可を出した。
あちらとしては二の姫に『魔法薬の調薬』を、三の姫には『魔法』を学びたいと希望している。
これはどちらか片方と言われた時に、アスラーダさんかアスタールさんのどちらかになるだろうと当て込んでのことじゃないかと言うのがラエルさんの見立てだ。
どうやら、グラムナードの外では魔法薬を作れるのはグラム家の次男――アスタールさんだけだと思われているらしい。
なんでかって?
外部に魔法薬を販売しているのが、『グラムナード錬金術工房』だけだから。
それだけでなく、グラムナードの民が中町からあまり出たがらないというのも、その勘違いを修正する機会がない原因かもしれない。
一応はグラムナードの民の義務として外町の迷宮に週に何度か入らなくちゃいけない。
でも、実際には高齢になるほど通っていないそうだ。
うちの工房は外町との境の近くにあるから割と気軽に迷宮に通うことができる。
だけど、氏族の居住区から外町の迷宮に入るには、どうしても泊まり仕事になってしまう。
そうなってしまうのは分からないでもないかな。

 なにはともあれ、魔法薬の作り方を教える人物は誰でもいいと解釈できるわけだ。
ついでに言うなら、教える期間や場所の指定もない。
そこで、二の姫様のために外町の工房内に居住施設を増設したうえでお越しいただくことになった。
ちなみに指導役は、リエラ。
選ばれた理由は、外町で魔力の扱いについて教えることができるのがアスタールさんかリエラしかいなかったから。
彼女のことを中町にいれる気がない時点で、リエラがやるしかなかったわけだ。
二の姫様、あんまり高飛車な人じゃないと良いなぁ……
エルドランの町にいた貴族――というかその親族って、やたらと高圧的な人が多かった。
ちょっと不安だ。
決まったこととはいえ、憂鬱だと思っていたらため息が出てしまう。

「どうした?」

 それを聞きとがめて声をかけてきたのはアスラーダさん。
長距離を移動するために、彼の駆る馬に相乗りさせてもらっているから小さなため息でもすぐバレてしまう。
心配そうな顔で覗き込んでくる彼に、誤魔化し笑いを浮かべてリエラは言い訳を口にする。

「あーちょっと、疲れがたまってて……」
「……まあ、確かに続けざまに色々ありすぎだからなぁ」

 咄嗟に出た言葉だったけれど、思い当ることが多すぎたんだろう。
彼も空を仰いでため息を吐く。
リエラのため息が、アスラーダさんにまでうつってしまったみたいだ。
実際、立て続けにあれこれあったもんなぁ……
……と、いけないいけない。
今は昨日の晩の話し合いの結果、急遽行うことになった山道を開発するための視察中だ。
そっちに意識を集中しないと。
今日は山道を抜けた先のウガリまで、馬で走り抜ける予定になっている。
アスタールさんは中町が通常通りになるまでは出歩くわけにはいかないとお留守番することになったから、リエラはその代理として、ちゃんと確認しないと。
ただ、この視察。
暇だからと、余分な人がくっついてきちゃったのが少し、不満だ。
この人がいなければ、アスラーダさんと二人きりだったのに。

「ラディはその子と、随分仲がいいのねぇ」

 リエラ達の横に馬を寄せながら、おやつのキュウリを齧りつつラヴィーナさんが呟く。
っていうか、なんで馬上でまでキュウリを食べているのかさっぱり分からない。
いくらキュウリが好きでも、ちょっと可笑しいんじゃないだろうか?
そんなことを考えていたら、不意に彼女から心に痛い質問が飛んでくる。

「いつも、二人で乗っているの?」
「リエラは一人じゃ馬に乗れないから……」
「それじゃあ、不便でしょう? いつでもラディが付き合ってあげる訳にもいかないし。乗馬の練習をすればいいじゃない」

 ……いちいちごもっともです。
本当は工房がお休みの日にでも練習すればいいんだけど……
出かける時にはいつもアスラーダさんが付き合ってくれるものだから、ついつい甘えちゃってるんだよね……

「普段は修行で忙しくて、リエラにはそんな時間の余裕はないから……」
「あら、そんなの言い訳よ。時間は捻出すればいいんだもの」

 アスラーダさんがラヴィーナさんの追求から擁護してくれるのを聞きながら、心ひそかに工房に戻ったら乗馬(ヤギ?)の練習をしようと決める。
中町で教えてくれる人を探さないとか……
でも、一人で乗れるようになったら、アスラーダさんと一緒に乗ることは無くなっちゃうんだよね?
それは、ちょっと寂しいな……
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