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二年目 山道視察
欲しいもの
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「そういえば、この山道に町を作るなんて話があるのか?」
ダンさんがこんなことを尋ねたのは、ラヴィーナさんのさっきの発言のせいか。
リエラが答えるべきことじゃないだろうなと思いつつアスラーダさんに視線を向けると、少し間を置いて口を開く。
「今のところ、そういう噂はないな」
実際のところ、お見合いの話にかこつけて開発権を寄越せなんて話がなければ、視察なんて必要なかったわけだから噂なんてあるはずがない。
嘘は吐いてないね。
「そういう噂話でもあったのか?」
逆にアスラーダさんが問うと、ダンさんは大きなため息を吐きながら空を仰ぐ。
「いや。前々から、途中に小さな集落でもあればいいなと思ってただけなんだ」
彼はそう言ってガシガシと頭を掻くと、事情を話し始めた。
「里帰りの途中で、若い駆け出しの小僧どもがロクな用意もせずにグラムナードまで歩いて行こうとしているのに出くわしてな――」
「ああ、あたしもその類だと思ったのね」
それを聞いて、ラヴィーナさんは合点がいったとばかりにポンと手を打つ。
一瞬、彼女が小僧に見えたのかと驚いたものの、流石にそんな訳はないか。
小柄ではあるけど、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるという、大変女性らしい体つきだし。
華奢で小柄だから、それで『駆け出し』だと勘違いをしたんだろう。
「長耳族の年齢ほど分からないものはないからな。そりゃあ、勘違いしてもおかしくないだろう?」
「そうね、あたしも鱗人族の年齢は分からないからお相子かしら。でも、あそこで声をかけてくれたおかげでいい引率役が雇えたから、あたしとしては助かったけど」
ウフフと笑うラヴィーナさんに、ダンさんは苦笑らしきものを浮かべて返す。
どうやらダンさんの年齢はラヴィーナさんにも分からないらしい。
長耳族――輝影族の年齢については、確かに見た目からじゃ想像もつかないよね。
ラヴィーナさんとアスラーダさんが並んでいたら、ほとんどの人がアスラーダさんの方が年上だと言うと思うし。
「まあ、そんな訳でな。里帰りのついでに、駆け出しどもの引率みたいなことをやり始めたわけだ。ただ、山道を歩いていると色々不便を感じてな……」
「例えば?」
「さっき、嬢ちゃん達も言っていた『便所』もだが、休憩できるような場所があると助かるな」
「休憩所、ね……」
アスラーダさんはダンさんの言葉を繰り返して、考え込むような表情になる。
実際、休憩所って言ってもただ座って休めるだけのものから、露店で食事が楽しめるものまで色々とあるからなぁ……
「休憩所って、例えばどんな感じのですか?」
自分の想像しているのと違うものをダンさんは考えているかもしれない。
いっそのこと聞いちゃった方が早いかと尋ねてみると、彼が想定しているのは単純なものだった。
「水場があるのが一番ありがたいが、とりあえず日差しを避けられるところがあるだけでも大違いだな」
そういえば、昼間はあまり日陰になるようなところがないから、結構暑かったんだっけ。
と、二年前に初めてグレッグおじさんの荷馬車に乗って、グラムナードへ向かった時のことを思い返してみる。
確かに馬を休ませるときに、日陰を求めて馬車の周りをまわって探したことを思い出す。
まあ、あの時はエルドランの気候に合わせた服を着ていたから余計に暑かったんだけど。
「――馬を休ませるところには水場がありませんでしたっけ?」
アスラーダさんに確認してみると、思わぬ返事が返ってくる。
「山道にある水場は確か、三つだな」
「え、そんなに少ないんですか?」
「嬢ちゃんは馬車でグラムナードに行ったことがあるのか」
「あ、はい。荷馬車に同乗させてもらう形だったんですけど……」
荷馬車で移動している時は、リエラの記憶では一時間に一度は休憩があったはずだ。
ダンさんの感心したような言葉に、うわの空で返事をしながら首をひねる。
「三か所しか水場がないんだったら、あの時のお馬さんが飲むお水ってどうしたんでしょう?」
「あの時は俺が出してやってた」
「なんと……」
いや、でも、考えてみればそうだよね。
あの時は『給水』の魔法が使えるアスラーダさんが護衛として雇われていたんだから、当然のようにそういった雑事も頼まれたんだろう。
……あれ?
ちょっと、護衛の仕事からは離れてるような気がするけど……サービス、みたいなかんじ?
「それって、いつもはどうしてるんでしょう?」
「普段は魔法具で賄っているというようなことを言ってたな」
「なるほど」
魔法具なら水樽をたくさん積んでいくよりもずっと軽いし、場所も取らない。
そう考えれば、その選択は当然か。
でも、魔法具で対応することができるのはある程度お金がある人じゃないと難しい。
だからこそ、ダンさんが『あったらいいな』と思っている休憩所に水場が欲しいと思う訳だ。
「その水場って、確かどれもウガリ寄りの場所だったわよねぇ」
「ああ。三日目まではなんとか水を補給することができるんだが、その先が……な」
なるほど、納得。
開発するんだったら、徒歩で移動する人のための日陰とお水が必要……と。
ダンさんがこんなことを尋ねたのは、ラヴィーナさんのさっきの発言のせいか。
リエラが答えるべきことじゃないだろうなと思いつつアスラーダさんに視線を向けると、少し間を置いて口を開く。
「今のところ、そういう噂はないな」
実際のところ、お見合いの話にかこつけて開発権を寄越せなんて話がなければ、視察なんて必要なかったわけだから噂なんてあるはずがない。
嘘は吐いてないね。
「そういう噂話でもあったのか?」
逆にアスラーダさんが問うと、ダンさんは大きなため息を吐きながら空を仰ぐ。
「いや。前々から、途中に小さな集落でもあればいいなと思ってただけなんだ」
彼はそう言ってガシガシと頭を掻くと、事情を話し始めた。
「里帰りの途中で、若い駆け出しの小僧どもがロクな用意もせずにグラムナードまで歩いて行こうとしているのに出くわしてな――」
「ああ、あたしもその類だと思ったのね」
それを聞いて、ラヴィーナさんは合点がいったとばかりにポンと手を打つ。
一瞬、彼女が小僧に見えたのかと驚いたものの、流石にそんな訳はないか。
小柄ではあるけど、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるという、大変女性らしい体つきだし。
華奢で小柄だから、それで『駆け出し』だと勘違いをしたんだろう。
「長耳族の年齢ほど分からないものはないからな。そりゃあ、勘違いしてもおかしくないだろう?」
「そうね、あたしも鱗人族の年齢は分からないからお相子かしら。でも、あそこで声をかけてくれたおかげでいい引率役が雇えたから、あたしとしては助かったけど」
ウフフと笑うラヴィーナさんに、ダンさんは苦笑らしきものを浮かべて返す。
どうやらダンさんの年齢はラヴィーナさんにも分からないらしい。
長耳族――輝影族の年齢については、確かに見た目からじゃ想像もつかないよね。
ラヴィーナさんとアスラーダさんが並んでいたら、ほとんどの人がアスラーダさんの方が年上だと言うと思うし。
「まあ、そんな訳でな。里帰りのついでに、駆け出しどもの引率みたいなことをやり始めたわけだ。ただ、山道を歩いていると色々不便を感じてな……」
「例えば?」
「さっき、嬢ちゃん達も言っていた『便所』もだが、休憩できるような場所があると助かるな」
「休憩所、ね……」
アスラーダさんはダンさんの言葉を繰り返して、考え込むような表情になる。
実際、休憩所って言ってもただ座って休めるだけのものから、露店で食事が楽しめるものまで色々とあるからなぁ……
「休憩所って、例えばどんな感じのですか?」
自分の想像しているのと違うものをダンさんは考えているかもしれない。
いっそのこと聞いちゃった方が早いかと尋ねてみると、彼が想定しているのは単純なものだった。
「水場があるのが一番ありがたいが、とりあえず日差しを避けられるところがあるだけでも大違いだな」
そういえば、昼間はあまり日陰になるようなところがないから、結構暑かったんだっけ。
と、二年前に初めてグレッグおじさんの荷馬車に乗って、グラムナードへ向かった時のことを思い返してみる。
確かに馬を休ませるときに、日陰を求めて馬車の周りをまわって探したことを思い出す。
まあ、あの時はエルドランの気候に合わせた服を着ていたから余計に暑かったんだけど。
「――馬を休ませるところには水場がありませんでしたっけ?」
アスラーダさんに確認してみると、思わぬ返事が返ってくる。
「山道にある水場は確か、三つだな」
「え、そんなに少ないんですか?」
「嬢ちゃんは馬車でグラムナードに行ったことがあるのか」
「あ、はい。荷馬車に同乗させてもらう形だったんですけど……」
荷馬車で移動している時は、リエラの記憶では一時間に一度は休憩があったはずだ。
ダンさんの感心したような言葉に、うわの空で返事をしながら首をひねる。
「三か所しか水場がないんだったら、あの時のお馬さんが飲むお水ってどうしたんでしょう?」
「あの時は俺が出してやってた」
「なんと……」
いや、でも、考えてみればそうだよね。
あの時は『給水』の魔法が使えるアスラーダさんが護衛として雇われていたんだから、当然のようにそういった雑事も頼まれたんだろう。
……あれ?
ちょっと、護衛の仕事からは離れてるような気がするけど……サービス、みたいなかんじ?
「それって、いつもはどうしてるんでしょう?」
「普段は魔法具で賄っているというようなことを言ってたな」
「なるほど」
魔法具なら水樽をたくさん積んでいくよりもずっと軽いし、場所も取らない。
そう考えれば、その選択は当然か。
でも、魔法具で対応することができるのはある程度お金がある人じゃないと難しい。
だからこそ、ダンさんが『あったらいいな』と思っている休憩所に水場が欲しいと思う訳だ。
「その水場って、確かどれもウガリ寄りの場所だったわよねぇ」
「ああ。三日目まではなんとか水を補給することができるんだが、その先が……な」
なるほど、納得。
開発するんだったら、徒歩で移動する人のための日陰とお水が必要……と。
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