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二年目 駐屯所
水売りさんの処遇
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「――なるほど」
アスラーダさんの顔を見た途端に山道の開発をすることになった経緯を訊ねてきた領主様は、話が終わると、視線を微かに下の方へ向けつつ奥方の髪を弄ぶ。
なんだか、小さい子みたい。
その様子を眺めながら、なんとなくそう思う。
あまり表情は動かないのにもかかわらず、なんだか困っているように見える。
考えてみると、突発的に山道の視察に出掛けてきたうえに、衝動的にトイレの設置をして歩いた挙句の果てに、水売りさん達を捕縛して、彼等を収容するためだけに駐屯所を作ったって話だ。
それも、この三日間という短期間で。
自分達でやったことではあるけれど、事後報告された領主様が途方に暮れるのも分からないでもないかも。
本来なら、領主様を通してやらなきゃいけないことだものね……
今更ではあるけれど、反省しよう。
……でも、万が一あの時に戻れたとしても、同じことしそうではあるんだよね。
道端で用を足すなんてとてもじゃないけど出来ないし、横暴な真似をしていた水売りさん達を放置するなんて選択肢も思い付きすらしなかった。
そんなことを考えながら、欠伸をかみ殺す。
いつもならとっくの昔に眠っている時間だからだろうけど、今日はお昼近くまで寝ていたのに……
「計画を立てる為の下見に来たはずなのに、前倒しで開発をはじめた経緯は把握した」
しばらくしてやっと頭の整理ができたのか、領主様は視線を上げて口を開く。
その声にハッとして、閉じかけていた目を気合で開ける。
寝てない、寝てないよ!
ちゃんと、お話は聞いてます!!
「明日には物資と人員がここに来る予定になっているならば、アスラーダは駐屯所の引継ぎをした上で――」
領主様は、スラスラと明日からの予定を口に出し始める。
後ろに控えていた護衛のお兄さんが、その言葉に合わせて壁に墨石で要点を書きだしていく。
墨石っていうのは、インクの素材としてよく使われている割とありふれた鉱物だ。
石板にならほとんど加工しないものでも書き込むことができるし消すのも簡単だから、基礎学校の授業でも使われていたっけ。
こうやって、墨石で書きだされていくのを見るとなんだか懐かしいような気分になっちゃう。
そんなに昔のことでもないのに。
でも、駄目だ。
カツカツと一定のリズムを刻む墨石の音が、めちゃくちゃ眠気を誘ってくる。
授業中には寝たことがなかったのに、今になって授業中に寝た子の気持ちを理解する羽目になるなんて……!
「父上、その話は明日では駄目なのですか」
「――ああ。ラヴィーナの迎えが来るまでに間がない。早急に片をつけて出発する必要がある」
「母上はすでに眠っているのに?」
言われてみれば、奥方様は領主様に寄り添うようにして目を閉じている。
輝影族ならではの繊細な造形のおかげもあって、まるで良くできた等身大のお人形さんみたいだ。
ずっと静かだったし、寝ていても全然気が付かなかったよ。
「グラムナードに戻るのは早い方が良いと思ったのだが……。体裁が整える時間がなくてラヴィーナが恥をかくだけか。明日、改めて話し合いの時間をとることにしよう」
領主様は寄り掛かってスースーと寝息を立てる奥方を見つめた後、あっさりとアスラーダさんの意見を受け入れることにした。
「え、ちょっと! 人のことだと思ってひどいこと言わないで頂戴」
「伯母上なら、一人で――」
「迎えの者と行き違いになるのも困るが、まっすぐ帰還するとは限らないから却下だ」
流石に体面は気になるのか、ふくれっ面になったラヴィーナさんにアスラーダさんの言葉は領主様が即座に退ける。
ラヴィーナさんの信用は地を這っているらしい。
リエラとしては、まっすぐ帰らないという選択肢が隠れてたなんてびっくりだ。
即座にそういう答えが飛び出すってことは、割と頻繁にあることなんだろう。
本人も即座に、きまり悪そうな表情で視線を逸らしているし。
結局、この時点で決まったのは水売りさん達への対応だけだ。
・拘束時間は、最初に捕まえた人達を捕まえていた日数の二日間。
・拘留中の食事や飼い葉は、本人達の所持品を使用する。
・解放時には商売許可証を提出させてグラムナードにある商業組合に出頭させる。
基本はこの三つ。
拘束時間に関しては、長期間捕まえていても邪魔だから早めに解放してしまいたいそうだ。
反省を促すという点では効果が薄いし、拘束している間の食事を用意する人員がもったいないんだって。
食事に関しては、現時点で捕まっている人達の食料の捻出先がそのまま適用される形だ。
元々は余分な食料がないからそうなったんだけど、駐屯所の食料を使うのはおかしい気がするから妥当だと思う。
ご飯を作るだって地味に時間が必要だから、長く捕まえておくのは嫌だというのは分からないでもない。
解放時に商売許可証を提出させるのは商業組合に処罰を依頼するため。
売買に関しては商業組合が管理していて、許可のない場所で商売をした場合にはペナルティがあるらしい。
今回の場合、商業許可の下りていない山道での不法な取引を行っていたので、内容に応じた処罰が下るそうだ。
特に今回の場合は、複数回に渡って取引をしていたようだし、罪が重くなるだろうって話だったけど……
本人達も違法行為だと分かってやっていたんだろうから、仕方がないよね。
ちなみに、商売許可証を提出できなかった場合は、国の管理下で『岩窟の迷宮』での強制労働になる。
悪いことはするもんじゃないね。
アスラーダさんの顔を見た途端に山道の開発をすることになった経緯を訊ねてきた領主様は、話が終わると、視線を微かに下の方へ向けつつ奥方の髪を弄ぶ。
なんだか、小さい子みたい。
その様子を眺めながら、なんとなくそう思う。
あまり表情は動かないのにもかかわらず、なんだか困っているように見える。
考えてみると、突発的に山道の視察に出掛けてきたうえに、衝動的にトイレの設置をして歩いた挙句の果てに、水売りさん達を捕縛して、彼等を収容するためだけに駐屯所を作ったって話だ。
それも、この三日間という短期間で。
自分達でやったことではあるけれど、事後報告された領主様が途方に暮れるのも分からないでもないかも。
本来なら、領主様を通してやらなきゃいけないことだものね……
今更ではあるけれど、反省しよう。
……でも、万が一あの時に戻れたとしても、同じことしそうではあるんだよね。
道端で用を足すなんてとてもじゃないけど出来ないし、横暴な真似をしていた水売りさん達を放置するなんて選択肢も思い付きすらしなかった。
そんなことを考えながら、欠伸をかみ殺す。
いつもならとっくの昔に眠っている時間だからだろうけど、今日はお昼近くまで寝ていたのに……
「計画を立てる為の下見に来たはずなのに、前倒しで開発をはじめた経緯は把握した」
しばらくしてやっと頭の整理ができたのか、領主様は視線を上げて口を開く。
その声にハッとして、閉じかけていた目を気合で開ける。
寝てない、寝てないよ!
ちゃんと、お話は聞いてます!!
「明日には物資と人員がここに来る予定になっているならば、アスラーダは駐屯所の引継ぎをした上で――」
領主様は、スラスラと明日からの予定を口に出し始める。
後ろに控えていた護衛のお兄さんが、その言葉に合わせて壁に墨石で要点を書きだしていく。
墨石っていうのは、インクの素材としてよく使われている割とありふれた鉱物だ。
石板にならほとんど加工しないものでも書き込むことができるし消すのも簡単だから、基礎学校の授業でも使われていたっけ。
こうやって、墨石で書きだされていくのを見るとなんだか懐かしいような気分になっちゃう。
そんなに昔のことでもないのに。
でも、駄目だ。
カツカツと一定のリズムを刻む墨石の音が、めちゃくちゃ眠気を誘ってくる。
授業中には寝たことがなかったのに、今になって授業中に寝た子の気持ちを理解する羽目になるなんて……!
「父上、その話は明日では駄目なのですか」
「――ああ。ラヴィーナの迎えが来るまでに間がない。早急に片をつけて出発する必要がある」
「母上はすでに眠っているのに?」
言われてみれば、奥方様は領主様に寄り添うようにして目を閉じている。
輝影族ならではの繊細な造形のおかげもあって、まるで良くできた等身大のお人形さんみたいだ。
ずっと静かだったし、寝ていても全然気が付かなかったよ。
「グラムナードに戻るのは早い方が良いと思ったのだが……。体裁が整える時間がなくてラヴィーナが恥をかくだけか。明日、改めて話し合いの時間をとることにしよう」
領主様は寄り掛かってスースーと寝息を立てる奥方を見つめた後、あっさりとアスラーダさんの意見を受け入れることにした。
「え、ちょっと! 人のことだと思ってひどいこと言わないで頂戴」
「伯母上なら、一人で――」
「迎えの者と行き違いになるのも困るが、まっすぐ帰還するとは限らないから却下だ」
流石に体面は気になるのか、ふくれっ面になったラヴィーナさんにアスラーダさんの言葉は領主様が即座に退ける。
ラヴィーナさんの信用は地を這っているらしい。
リエラとしては、まっすぐ帰らないという選択肢が隠れてたなんてびっくりだ。
即座にそういう答えが飛び出すってことは、割と頻繁にあることなんだろう。
本人も即座に、きまり悪そうな表情で視線を逸らしているし。
結局、この時点で決まったのは水売りさん達への対応だけだ。
・拘束時間は、最初に捕まえた人達を捕まえていた日数の二日間。
・拘留中の食事や飼い葉は、本人達の所持品を使用する。
・解放時には商売許可証を提出させてグラムナードにある商業組合に出頭させる。
基本はこの三つ。
拘束時間に関しては、長期間捕まえていても邪魔だから早めに解放してしまいたいそうだ。
反省を促すという点では効果が薄いし、拘束している間の食事を用意する人員がもったいないんだって。
食事に関しては、現時点で捕まっている人達の食料の捻出先がそのまま適用される形だ。
元々は余分な食料がないからそうなったんだけど、駐屯所の食料を使うのはおかしい気がするから妥当だと思う。
ご飯を作るだって地味に時間が必要だから、長く捕まえておくのは嫌だというのは分からないでもない。
解放時に商売許可証を提出させるのは商業組合に処罰を依頼するため。
売買に関しては商業組合が管理していて、許可のない場所で商売をした場合にはペナルティがあるらしい。
今回の場合、商業許可の下りていない山道での不法な取引を行っていたので、内容に応じた処罰が下るそうだ。
特に今回の場合は、複数回に渡って取引をしていたようだし、罪が重くなるだろうって話だったけど……
本人達も違法行為だと分かってやっていたんだろうから、仕方がないよね。
ちなみに、商売許可証を提出できなかった場合は、国の管理下で『岩窟の迷宮』での強制労働になる。
悪いことはするもんじゃないね。
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