リエラの素材回収所

霧ちゃん→霧聖羅

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回り道

アスタールの求人旅行 15

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 翌日の夜、宿の食堂で明日の朝の巡回馬車でエルドランに戻るというアラン達三人とテーブルを囲む。
昨日『劣化版高速治療薬』を作ったお礼だとかで、三人の奢りだそうだ。
金に困っている訳でもないので辞退したのだが、せっかくだからと押し切られた。

「ほんじゃま、かんぱーい!」

 クレマンの音頭に合わせて、全員が揃ってジョッキを打ち合わせる。

「か、かんぱい」
「昨日もやったのに、アスタールは慣れないなぁ」

 私が慌てて加わると、彼らの間から笑い声が上がった。
ちょっぴり気まずい。

「こうやって騒ぐのも、初めてなんじゃ仕方ないんじゃね?」
「んだなぁ」
「ほれほれ、ぐぐっといっちまえ!」

 一気、一気と囃し立てる彼らに苦笑しつつ、ジョッキの中身を喉に流し込む。
少しぬるい酒を飲み込むと、カッと喉の奥が熱くなる。
やはり、随分と強い酒だ。
私がこんなものを一気飲みしたら倒れてしまいかねないのだが、三人組は速いペースで飲み干していく。
慣れているのかもしれないが、卒倒されたらどうしようかとハラハラし通しだ。

「そういや、今日の応募はどうだったん?」
「ああ――」

 チビチビ呑んでいる私の前に料理を取り分けてくれながら、ボドワンが訊ねてくる。
応募してきた者達を思い出したら、ついついため息が出た。

「芳しくない」
「……まあ、元気出せ」
「そうそう。いつもそんな辛気臭い顔をしてると、幸せだって逃げてくぞー!」

 ボドワンの励ましの言葉に頷きかけたところで、突然アランが叫びながら抱きついてくる。
アランの顔は、すでに酒に酔ったのか真っ赤だ。
じーっと私の顔を見つめていたアランの目から、突然、涙がこぼれだす。

「お前が、女だったらなぁ……」
「私はノーマルだ。離れたまえ」
「おんな、だったらなぁ」

 どうやら私の顔立ちは、アランの好みに合致していたらしい。
なぜ女じゃないのか、と、昨日もこうやって抱きつかれて泣かれたのだが、泣き上戸な上に絡んでくるのは正直げんなりしてしまう。
素面の時はそんな素振りを全く見せなかったのだから余計だ。
まあ、幸いなことに手っ取り早く静かにさせる方法があるからそれを実行すればいい。
私は男泣きしはじめた彼に、自分のジョッキを渡してやる。

「これでも呑んで落ち着きたまえ」

 彼はジョッキの中身を空にすると、あっという間にテーブルに突っ伏して高鼾だ。
アルコール度数の高い酒をジョッキで二杯も飲めるのだから、酒に弱いわけでもないのだろうが、彼は一人で飲みに行くべきではない。
間違いなく、次の日の朝には身ぐるみまで剥がれてしまっているだろう。

「昨日に引き続き、悪い!」
「酒は好きだけど、すぐに潰れるんだよなぁ」
「まあ、明日からはまた頑張りたまえ」

 アランが潰れるまでの相手を押し付けておきながら、言葉だけは申し訳無さそうに謝罪に肩を竦めて返すと、二人は揃って方を落とす。

「しばらく、うるさいだろうなぁ……」
「クレマンはいざとなれば逃げる先があるからいいじゃんか」
「リア充め……」

 そうして怪我をした、もう一人の仲間の仲間の話を始めかけた二人は、うっかり漏らしたつぶやきに「あ」と声を上げてから気まずそうに頭を下げる。

「わり」
「知らないやつの話しされても困るよな」
「いや、こちらこそすまない。恋人が近くにいるクレマンが羨ましかっただけだ」
「え、アスタールならよりどりみどりだろ?」
「こう……わらわらーっと、な?」
「そんな経験はないな」

 なにせ、十八になるまでは祖父の作った殆どの時間を隔離空間で過ごしていたのだ。
出会いなんて、賢者の石を通じてメル友をしているりりんくらいなもの。
現実的な話、私は彼女に懸想しているがあちらはどの程度心にかけてくれているものか、皆目検討もつかない。
そばにいて、言葉をかわしたり触れ合うことが出来る相手がいるクレマンが羨ましいのは本心だ。

「それよりも、昨日は私がグラムナードの街の話をしたのだ。今日は君達の街の話を聞かせてもらえないかね?」
「まあ、そうだな」
「んじゃ、まずは俺から――」

 少々ネガティブなことを考えかけたのを酒と一緒に飲み下して、彼らに話をねだると、二人は顔を見合わせてから順番に自分達の経験してきたあれこれを話し始める。
私が経験したことも、これから経験することもないであろう話は楽しく、予定よりも酒盛りの時間が長引いた。
結果、二人は寝不足の顔でエルドランに戻って行く。

「護衛の仕事を受けてなくて良かったよ」
「確かに。馬車の上で寝る自信あるしな」
「お前らだけ楽しんでずりぃ……」

 彼らは馬車に乗り込みつつ、口々にそんな言葉を呟いている。

「アスタール。エルドランに来る用事があったら、街を案内してやるよ。また呑もう」

 離れがたい気持ちでここまで着いてきてしまった私に、クレマンが最後にくれた言葉が嬉しい。

「うむ。また機会があったら、是非」
「おう。じゃ、またな!」
「……君達がグラムナードまで来たら、歓迎する」

 笑顔で手を振りながら、あっという間に小さくなっていく彼らを見送り空を仰ぐ。
無性に、彼らと過ごした時間のことを、りりんに報告したかった。
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