リエラの素材回収所

霧ちゃん→霧聖羅

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回り道

アスタールの求人旅行 17

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 山羊に車を牽かせていることに関して、ウガリでは特に何も言われなかった。
道中で珍しがられたのは、どうやらグラムナードの民がそちらの方向へ行くことが少ないことが原因らしい。
むしろ、これだけ立派なヤギがエルドランに向かう時に気付かなかったことの方が貸し馬屋の青年には問題だったようでひどく悔しがっていた。

 貸し馬屋にヤギを預けて宿を探す。
兄が使っている宿があるはずだが、その宿は私達が生まれた頃にグラムナードを出た女性がいるはずなのだ。
妙な反応をされると対応が面倒だから、そこは使わずに他の宿を取ることにしよう。
幸いなことに、ここは各地へ向かう中継地だ。
宿はピンからキリまでたくさんある。
虱潰しにあたっていけば、どこかしら気にいるところがあるだろう。



「――と、思っていたのだが……」
「他の宿で受け入れてもらえなかったのですね」

 苦笑しながら女将の言う通り、他の宿には泊まれなかった。
どの宿も、こちらの事情はお構いなしで口を揃えて『長耳族なんだから、同族の女将がいる宿に泊まってやれ』の一点張り。
あんまりだ。
悲しすぎたのでもう一度。
あんまりだ。

「お望みでしたら他の宿を紹介いたしますけれど……。いかがなさいますか? アスタール・・・・・様」

 上品な仕草で首を傾げて問う女将に、私はゆっくりと首を振る。
彼女が、私を一人の客として扱うことを言外に示してくれたお陰で、少し肩の力が抜けた。

「いや、一泊頼みたい」
「お食事はいかが致しましょうか」
「せっかくだからグラムナードでは食べれないものが食べてみたい」
「そうしますと、夕食は外でお召し上がりになった方がよろしいですね。ただ、大分庶民的なお店になりますけれど――」

 女将が言うには、一番の高級料理を出すのがこの宿らしい。
なんとなくだが知っていた。
店構えからして、他の店とは一線を画している上に、共同浴場付きなのだから。
グラムナードでは風呂があるのは当り前のことだったのだが……
今回の旅で、よその街ではそうでないことを学ばせてもらった。
お陰で世間知らずな私でも、風呂が付いている宿がいわゆる高級宿だということが理解できるようになったのだ。
もちろん、そういう宿は食事にも手を抜いたりはしていない。
この宿もその礼から外れることはないだろう。
だが私は、この最後の機会に猥雑な雰囲気の中での食事を楽しみたい。
女将はその希望に目を丸くしながらも、庶民の店でも浮かない服を貸し出して私を送り出してくれた。

 それにしても、道中、注目されるのは他に同族がいないせいだとばかり思っていたのだが……
まさか自分が、服装で浮いていたとは気付かなかった。
女将が貸してくれた、丈夫な生地で作られた服はゴワゴワした手触りで、少しくたびれた感じがする。
耳を隠すために頭に巻かれた布は、不自然ではないだろうか?
慣れぬ装束にドギマギしながら、私は女将に宿から送り出された。



 この旅の中で知ったのだが、雑多な職種の者達が集まる大衆向けの店というのは思いの外、情報の宝庫だ。
大概は信憑性の怪しげな噂話なのだが、真実がその中に紛れている。
どこに本当のことが紛れているのかを想像しながら、周囲の会話に耳を澄ますのがまた楽しい。

「ここも、もうすぐ村から脱出だろ?」
「ああ。あの噂か。俺も聞いたけど、ほんとかね」
「嘘でも、本当になるように嘆願書でも出すか?」

 後ろの席で話しはじめたのは、このウガリ村が町として認定されるかどうかという話だ。
随分と広まってきている話なのか、この店に来る前にも道端で同じ話をしている女性の集団がいたのを思い出す。
村が町として認定されると何が変わるのか、私は知らない。
何を以て呼び方が変わるのかという決まりごとはあるのだと思うのだが、それは満たしているのだろうか?
通り過ぎてきた町や村を思い浮かべ、この村と比較してみる。

 町と呼ばれていた場所では、主要な道は石畳が敷かれていて広く馬車がすれ違ってもまだ余裕があり、歩行者のための歩道があることが多かった。
村の場合は、主要な道は馬車がすれ違える程度の広さはあったものの土がむき出しで、歩道は存在していなかったような気がする。
おそらく、馬車がすれ違うほど多く通らないのだろう。
馬車が通り過ぎると、道の中央を歩く人がいた記憶もある。

 考えてみると、結構な違いがあるものだ。
村にしかないものもあるが、町にしかないものが結構多い。
私がパッと思い浮かべられる範囲だと、貸馬屋はなかったし食事処や宿も少なかった。
猫神の教会も規模が小さかったように思う。
想定よりも違いが多くて驚いた。
生活の利便性を考えるのならば、確かに町のほうが上だろう。
ただ、住心地が良いのがどちらか?
と聞かれると、私としては少し首を傾げるところだ。
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