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5.すれ違う思い(misaki視点)

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「話があります。ダイナミクスのことです。」

 そう言うと、社長は手を止めてすぐに仕事を切り上げるとマネージャーと共に俺の実家というか、二人に育てられた家に帰った。

「とうとう、知ってしまったのね。」
「ということは、二人は俺がドラッグであることを知っていたんですね。」

「ええ。」
「二人はなぜ俺と長時間いても平気なんですか?」

「それは、私たち二人がドラッグとクランケの番だからよ。私がドラッグ。」
「そうだったんですね。そうか、だから二人は平気なのか。でも何で俺に黙っていたんですか?」

「私はドラッグだったために好きなことをさせてもらえず子供の頃から医者になることを強要されて逃げたの。今でも周りには隠している。あなたには好きな道を選んでほしかった。」
「そう、ですか。俺には番になりたい人がいます。」

「番になってしまったら相手と一生離れられないわよ?その覚悟はあるの?相手にもその覚悟はあるの?」
「俺にはある。相手にはまだ聞いてみないと分からないけど、説得するつもりです。」

「そこは二人の意思を尊重するわ。」

 そうか。確かにドラッグだと自分も周りも知っていたら、医者になることを勧めるよな。難病なども治療できるのであれば患者も病院も欲しがるに決まってる。
 やはり俺も知られてしまったら、病院から働いてくれと連絡が来たりするんだろうか?
 しかし番がいないドラッグは扱い難い。ノーマルを治療すれば副作用が出るし、長時間一緒にいるだけでノーマルは体調不良を起こす。その辺りは病院も慎重になるんだろう。そして、俺に番がいなければ番がいないクランケが寄ってくるということもあるんだろうか?

 もし病院がコンタクトを取ってくるとしたら、番ができた後か?
 まあいいそんなことは。ユキを病気の苦しみから救えるのであれば、俺はそれ以上のことは望まない。それほどユキのことが大切なんだ。
 ユキは喜んでくれるだろうか?


「ユキ、話したいことがあるんだ。」
「うん。もしかして新曲が出るとか?」
「違う。もっといいことだ。」
「うーん?なんだろう?」

 ユキが元気になって退院したら、ライブに招待しよう。元気になったら、飯も一緒に食えるし、デートにも行ける。
 カラオケでユキだけのために歌うのもいいな。
 俺にとってもユキにとっても楽しみしかないじゃないか。

「俺はユキが好きだ。」
「え?」
「ユキは?俺のこと好き?」
「うん。もちろんだよ。」

 よかった。それならもう迷うことはない。

「ユキ、俺さドラッグなんだ。俺の番になってほしい。」
「………ごめん。無理。僕、今日はもう病室に戻るね。」

 喜んでくれると思った。そんな困ったような悲しそうな顔をされるなんて想像してなかった。なんで?
 俺はその場から動けなかった。
 なんで断られたのかも分からないし、そんな顔をした理由も分からない。

 雨がポツリと俺の頬を濡らし、肩を濡らし、それでやっと我に返って、一人暮らしの部屋に帰った。
 理由は分からない。でも諦めることはできない。もしもユキに番になりたい奴が他にいるのならそれはもう仕方ない。それを聞くまでは諦めないと決めた。

 そのままツアーの準備が忙しくなって、それにレコーディングも重なって、数週間会いに行けなかった。

『明日、休みだから会いに行く。』

 やっと休みが取れて、そう夜にメッセージを送ったら、送信エラーになった。おかしいと思って電話したら、現在使われておりませんのアナウンス。
 え?なんで?スマホ変えたのか?
 とにかく行ってみれば分かることだ。

 翌日病院に行くと、病室にユキの姿は無かった。姿どころか、部屋のベッドは空なんだが、その名前のプレートからユキの名前が消えている。
 ナースステーションに行って部屋を変わったのかと聞いてみると、病院を移ったと言われた。

 転院するなんて聞いてない。
 転院先を聞いたけど、それは家族でない方には教えられないと言われた。
 なんで何も言わずに転院なんて。どこいったんだよ。
 俺が嫌だったのか?番になるのがそんなに嫌だったのか?

 唖然として立ち尽くしていると、前に俺にダイナミクス検査を勧めてくれた医者が歩いてきた。
 この人なら教えてくれるかと思って俺はその人に縋った。

「ユキの転院先を教えてください。」
「それはできない。守秘義務があるからね。」
「そうですか。なぜユキは転院したんですか?この病院では治療できないからですか?」
「たぶん君のためなんじゃないかな?番になると言ったんだろ?」

 俺のため?なんで?

「それが何ですか?ユキにとっても番ができれば病気が治るんだし、俺も周りを不調にしなくなるんだから良いことしかないでしょ?」
「そんな簡単なことじゃないと思うよ。ユキくんは君が検査を受ける前から君がドラッグだと知っていたはずだ。でも君に番になってくれとは言わなかった。」
「それが?」
「番になったらあまり離れていられないからね。それが理由かもしれないし、違うかもしれない。ユキくんじゃないから真相は分からないけど、迷惑かけたくないって思いはあったと思うよ。
 だって彼、本当に君の凄いファンだったから。」

 社長とマネージャーが言っていた、一生離れられないがその覚悟はあるのかという言葉。
 俺は急ぎすぎたのか……
 ユキに一方的に押し付けようとしたのか。
 どれだけユキのことが大切で、一生を共にしたいと伝えてなかった。ユキは俺がその場の思いつきで軽くそんな提案をしたんだと思ったのかもしれない。

 簡単に付き合った別れた、結婚した離婚したみたいに関係を解除することはできない。俺も浅はかだった。そのまま勢いで番になったとしても、俺が後悔することはない。でも、ユキはそんな俺の気持ちを知らない。

 俺はバカだ。俺と連絡先を交換するだけで畏れ多いと何度も断られたのに、番なんて人生がかかっていることを軽く伝えてしまった。
 断りきれずに俺の押しに負けて番になってしまうことを恐れて逃げたのか?

 それから俺もダメになった。歌えないんだ。声は出るけど、涙が溢れて歌えなくなる。
 詞もユキのことしか書けないし、苦しい気持ちを無理に引き出してくるような曲しかかけず、やっぱり歌えないんだ。
 今までの曲も歌えなくなった。

 どの曲も、ここがいいとかこの歌詞が好きだとかいつ聞いたとか、そんなユキとの会話を思い出して歌えなくなった。

 
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