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6.ユキの幸せ(misaki視点)

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「今回は前より重症ね。まるで番を失ったクランケみたいに錯乱してる。」
「misakiが番になりたい相手って、あの時の子ですよね?」
「そうだと思うわ。」
「このままではmisakiは潰れます。」

 ここには社長とマネージャーがおり、そんな会話がされていた。

「そうは言ってもね……相手の気持ちもあることよ。」
「そうですが。」
「私は裏方だからひっそりと暮らせているけれど、misakiのように露出が多い子にクランケの番がいると分かればマスコミは騒ぎ立てるし医療業界も寄ってくると思うの。それはmisakiのためになるかしら?」
「それはmisakiも分かっているはずです。それでもmisakiは、彼と番になりたかった。同じドラッグとしてあなたにも分かるでしょう?
 それに、そこをどうにかするのが私たちの役目ですよ。」

「あなたには負けるわ。仕方ないわね。転院先だけは調べてあげましょうか。あとは二人に任せる。手出しはしないわ。」
「ふふふ、やっぱりあなたは優しいのね。」


 ---

「misaki、これ。」
「なんですか?」
「私たちができるのはここまで。この先は何もできないわ。行ってきなさい。」

 社長から渡された半分に折りたたんだメモ用紙には、病院の名前と住所と部屋番号が書かれていた。
 まさかこれはユキの?

 驚いて社長を見ると、笑顔で頷いた。
 俺は居ても立っても居られなくて、事務所を飛び出すとタクシーをすぐに捕まえて、病院へ向かった。

 なんで来たんだ!と怒られたりするのかな?
 それとも喜んでくれるのかな?
 少し会うのが怖いが、ユキを失うことに比べたら大したことじゃない。

 早く早くと急く気持ちと、不安とが入り混じって、深呼吸を繰り返した。

 病院は海に近い長閑な場所に建っていた。
 タクシーの中で調べると、ここは終末期患者やクランケを多く受け入れている病院だった。
 終末期?まさかそんなわけないよな?血の気が引いていく……

「お客さん、着きましたよ。」

 嫌な想像をしてしまい呆然としていたが、運転手に到着したと声を掛けられてやっと現実に戻ってきた。
 緊張しながら部屋に向かうとユキの名前が書かれたベッドは空だった。
 近くの看護師に聞くと、主治医と中庭に散歩に行ったと教えてくれた。

 中庭への行き方を聞いて向かうと、車椅子にグッタリともたれて虚ろな顔のユキがいた。
 その車椅子を押しているのは30過ぎたくらいのたぶんドラッグの男だ。
 結婚指輪はしていない。
 ユキに触れる様子はないが、ユキに話しかけながら車椅子を押していた。

 誰かがいる時に愛の告白をするのは恥ずかしいと思って、二人の様子を伺っていると、男は虚ろなユキに顔を近づけた。は?キスでもする気か?と思ったが違った。

「どう?私の番になる気になった?私なら君をこの苦しみから解放してあげられるよ。」
「………」

 ユキはもう話す気力もないように見えるが、微かに首を振った。

「大丈夫、心配しなくても私がずっと君のそばにいるから。一生大切にするよ。」
「………」

 ユキは何も答えずに目を閉じた。
 俺のユキに言い寄るな!とは言えなかった。俺はユキに無理だと断られている。
 医者の方がユキのことを分かっているし、それならあいつの方がユキのことを幸せにできるのか?と思ってしまったんだ。
 今の俺は歌さえ歌えない。何もできない何も持ってないただの男だ。
 控えめなユキが、俺のような露出が多い奴と一緒になったらユキまで叩かれるのではないかと不安になった。それに比べてあの優しそうな医者なら番になったとしてもこの長閑な場所で落ち着いた生活をユキに与えることができるのではないだろうか?
 俺はユキの幸せのために引くべきか?
 引くべき、なんだろうな……

 ジッとユキを眺めて、ユキの姿を脳裏に焼き付けた。今だけ。あと少しだけ、ユキと同じ空気を吸っていたい。

 しかしだんだん虚しくなってくると、俺はその場を去ることにした。

 
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