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68.純血 ✧
しおりを挟む『サンヴァル種族』
見た目は人族と変わらず見分けがつかないが、成長が人族より三倍遅い(人族よりも長生きするという)。その為、見た目では年齢が分かりづらくエデやジャニスティも本当の歳は、明かしていない。
――しかしなぜか? 現代の生き残りは少ないとされる、希少な種族である。
◇
「坊ちゃま、私もサンヴァル種族である事をお忘れですか? そして貴方より、もう何十年も長く、深く、生きております。たとえ他種族の内情であったとしても恐らく私の“知らぬ分からぬ事”は、皆無に等しい」
それが何を意味するのか? 勘の良いジャニスティが理解するのにそう、時間はかからなかった。
◇
エデがこれまで生きてきた人生もまた、そう幸せな事ばかりではない。
人族が権力を持ち強いと認識されるこの世界で、人から血を受け身体に入れ続けないと生きられなかったサンヴァル族。エデはその過去と辛い現実を突きつけられ苦しんだ時代を、長きに渡り生き経験してきた者である。
――それもずいぶん昔の……ジャニスティが生まれる前の話だ。
自分たちの生きづらい境遇に気付いたサンヴァル族の者たちは「血を求めずとも生きられるように」と知恵を出し合い、人族に頼らぬ種族としての自立を求め、目指したのである。
そして現代、サンヴァル族は血を求めずとも生きられる身体に変化する事が出来た。
その血統(純血)を減らす実験にエデは関わり、乗り越えた者の一人だ。
◇
「……エデ、悪かった」
「なぁに、坊ちゃまが謝る事はないですよ」
怪訝な表情をされた事などエデは少しも気にせず、何事もなかったかように笑う。ジャニスティは心の片隅で疑いの目を向けてしまった自分を恥ずかしく思い、その気持ちと情けなさに深く自省した。
すると話を変えるエデは、嬉しそうに口を開く。
「あぁ、そうでした。その布袋はマリーからです。助けたレヴの子へ、プレゼントだそうですよ。このままで肩掛け、紐を通し引っ張れば斜め掛けの鞄になるそうで」
「なるほど」
よくよく見ればただの布ではない事が、分かった。
(なんとお礼を……ここまでしてもらって)
ジャニスティはこの時、エデとの出会いに心から感謝しそのきっかけと未来へ導いてくれたオニキスへの敬意を、胸に抱く。
「ありがとう、エデ。そして、マリーにもお礼を」
「承知しました。坊ちゃまからの伝言とあらば、声を上げて喜ぶ事でしょうな」
エデの優しく深い言葉がジャニスティの心を、柔らかくしていった。
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