超名門貴族の次男、魔法を授かれず追放される~辺境の地でスローライフを送ろうとしたら、可愛い妹達が追いかけて来た件~

おさない

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第28話 ハウラの崩壊3

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 アニ様が追放されてすぐに、案の定オリヴィアも姿を消した。

 今、この屋敷に私の地位を脅かすような存在はいない。

 ようやく私は、再び自由を手にしたのだ。

 ――――そのはずだったのに、今の私は何一つとして満たされていなかった。

 *

「うっ……ゴホッ、ゴホッ!」

 横腹を蹴られて、私は思わず咳き込みながらうずくまる。

 そして、痛みで現実へと引き戻された。

「クソがッ! どうして俺がこんな目に合わなければいけない! 答えろッ! 答えてみろよハウラッ!」

 デルフォス様の怒りが収まる気配はない。

 沢山蹴られて息ができなかった。苦しい。身体じゅうが痛い。

 どうして私がこんな目に遭っているのだろうか?

「も、もうしわけ……」
「俺は質問に答えろって言ってんだよッ!」
「ひぃっ?! うぐッ!」

 鳩尾《みぞおち》を蹴り上げられ、酸っぱいものが込み上げてくる。

「うっ、うえええぇぇッ!」

 気がつくと私は、胃の中のものをその場で吐き出していた。

「――チッ。汚ねえな。少し蹴られたくらいで吐くなよ」

 自分の部屋の床を汚され、不愉快そうに呟くデルフォス様。

 ……ふざけるな。お前のせいだろこのクソ野郎。

「うぐっ、も、もうしわけ……ありません……」

 私は寸前まで出かかった言葉を飲み込んで、そう言った。

 こんな屈辱は生まれて初めてだ。

 いくら長男とはいえ、所詮は世間知らずのクソ餓鬼。

 私の方が遥かに秀でているというのに、何故こんな奴の前で惨めな姿を晒し、その上謝罪までしなければいけない?

「もういい、興が削がれた。……俺はこれから数日、妹を探しに出かける。お前は部屋を片付けておけ。…………クソ」

 デルフォス様は、倒れている私には目もくれず、その場から立ち去った。

 狡猾で、暴力的で、良いのは外面だけ。

 ……そうだ、これがヴァレイユ家の人間の本性だ。

 こんな奴らに気に入られて権力を手にしたところで、明るい未来など待っていない。

 私は、たまたまアニ様の世話係になったせいで、勘違いしていたのだ。

「と、とにかく……今はこれの後始末を……」

 ――絶望的な事実に気付いてしまった私は、気を紛らわすために部屋の掃除に取りかかる。

 とにかく今は、余計な事を考えず考えずデルフォス様のお部屋を……。

 …………デルフォス

 どうして、私があんなクソ餓鬼のことをデルフォス様と呼ばなければいけない?

 そしてなぜ私は、そのことに今まで疑問を持たなかった?

「……ふざけんな」

 身体の痛みが引いてき、ふつふつとデルフォスに対する怒りが湧き上がってくる。

「ふざけんなふざけんなふざけんなッ!」

 私は怒りに任せて、机の上のものを全て払い落とした。

「誰が……誰がお前の部屋なんか……ッ!」

 ……まずい、このままでは部屋を滅茶苦茶にしてしまう。もし、それがデルフォスにばれたら……!

「クソっ! クソクソクソクソッ!」

 この苛立ちを発散しようにも、アニ様はもう居ない。

「あの役立たずが……! 肝心な時に追放されやがって……ッ!」

 ――その時、私はあることに気づいた。

 確か、処分したアニ様の部屋の家具はまだ焼却されていない。

 離れの小屋の中に残っているはずだ。

 あれを使おう。

 私は、誰にも中を見られないようにデルフォスの部屋を施錠してから、屋敷の離れへと向かった。

 *

「殺してやるッ! 殺してやるッ死ねッ死ね死ね死ねッ!」

 周囲に人がいないことを確認した私は、薪割り用の斧を振り回して、アニ様の使っていた家具を破壊していく。

「ふーッ、ふーッ…………はぁ……いけませんねアニ様……これくらい自分で処分して下さい。……一体どこまで私の手を煩わせれば気が済むんですかぁッ?」

 クローゼットも、本棚も、ベッドも椅子も、アニ様がよく演奏していたお気に入りの鍵盤楽器も、全て必要ない。

「はぁ……はぁ…………。アニ様の大切なもの、全部壊れてしまいましたね。残念でした♪」

 アニ様みたいに泣いたり謝ったりしないのが少し味気ないが、多少デルフォスに対する殺意が収まっていくのを感じた。

 ……あと残っているのは机だけだ。

「そういえば、アニ様は私に何か隠し事をしていましたよねぇ? 一体、引き出しの中にどんなふしだらな物を隠していたんですかぁ? 穢らわしいですねぇ♪」

 気の済むまで暴れて上機嫌になった私は、アニ様の机を斧で破壊して、引き出しを漁り始める。

 その中に大事そうにしまってあったのは、この国の歴史について書かれた厚い本と、勉強道具――デルフォスとお揃いだと嬉しそうに自慢していたペンと……私が教えた勉強内容の復習をしてあるノートが数冊と…………私が……テストの際に制限時間を計る為に渡しておいた懐中時計と……それから……。

「何ですか……これ……」

 アニ様が私宛てに書いた手紙だった。
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