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第25話 ルーテの敗北
しおりを挟むルーテ、ミネルヴァ、イリアの三人は、アレスノヴァを使用して「マリネリス大峡谷」の中央部に存在する遺跡へやって来た。
「一瞬でどこでもいけるなんて、これには一体どんな魔法が込められているですかね?」
「私もちょっとだけ使ってみたいわ」
ミネルヴァとイリアはルーテの持つアレスノヴァを興味深そうに眺め、指先で触れる。
「拾ったものなので好きにしていいですよ。……けど、変なところを押すとしばらく帰れなくなってしまうので、使う時は気を付けてくださいね! 僕もそれで一度大変な目に遭いました!」
「……や、やっぱり遠慮しておこうかしら」
「ミネルヴァも……ルーテが居る時だけ触ることにするです……」
そう言って二人はルーテから離れ、震えながら互いを抱きしめ合うのだった。
「……そこまで怖がらなくてもいいと思いますよ?」
*
それから三人は遺跡を後にする。
外は大峡谷の底で、前方と後方に高い岩壁が聳《そび》え立っていた。
「峡谷の中に町があるのね」
「イリア、『きょうきょく』って何ですか?」
「峡谷《きょうこく》よ。崖の切り立った深い谷のことをそう呼ぶの」
「なるほど……何だかすごそうなのです!」
両手を広げてはしゃぐミネルヴァ。彼女は、外の世界に興味深々である。
(ミネルヴァもだいぶ孤児院の一員として馴染んで来ましたね。やはり、これが真エンドのルートだったみたいです……!)
その様子を見て、ルーテは確信するのだった。
――マリネリス大峡谷の中央部には、炭鉱の町「メラス」が存在する。
岸壁沿いに木の足場を組んで作られた鉱夫たちの居住区である「空中街」と、谷底を平らに均して作られた商業区である「水底《すいてい》街」に分かれているのだ。
「ところで……どうして夜になってるですか?」
ミネルヴァは、空を見ながら問いかける。現在のマリネリス大峡谷は、ちょうど日没の時間だ。
「……時差よ。アルカディアが朝の時、こっちは夜なの。……たぶん」
「ふーん。よく分からないですね」
「私も不思議な感じがするわ……」
そう言ってイリアも空を見上げる。
しかし町の方が明るいので、あまり星が見えなかった。
「ここは夜なのに賑やかね。落ち着かないわ」
「炭鉱の町ですからね。坑道の中にいる間は空なんて見れませんし、朝も夜も関係ない……という設定なのでしょう」
ルーテは、イリアの言葉に対してそう返事をする。
(でもこの町、もし崖が崩れたり大雨が降ったりしたら大惨事になりそうですよね! ゲームを面白くする為に作られたビジュアル重視の町にそんな指摘をするのは野暮というものですが!)
そして、心の中でそんなことを考えるのだった。
「……ところでミネルヴァ」
「どうしたですか?」
「時差については、あなたを魔導研究所から連れて帰る時、丁寧に説明したはずですが……忘れてしまったんですか?」
ルーテが聞くと、ミネルヴァはそっぽを向いて答える。
「……ママの説明は難しいから分からないです。もっと、イリアみたいな分かりやすい説明をして欲しいのです」
「…………何度でも言いますが、僕は男の子です。ママとは呼ばないでください。せめてパパに――」
「ママはやっぱりママなのです!」
「…………………………」
「ミネルヴァをあんなに優しく抱きしめておいてママじゃないだなんて……無理があるのですよ!」
そう言ってミネルヴァはルーテに抱きつき、胸の中に顔を埋めた。
「………………」
「ルーテ。今回ばかりはあなたの負けよ。諦めなさい」
「………………………………」
「この子のママはあなたなの」
ぽん、とルーテの肩を叩くイリア。
「………………」
「………………」
「………………」
「……分かりました。僕が……ママです!」
「やったです! やっぱりママはママだったのです!」
「…………………………!」
ルーテはラスボスに敗北したのだった。
「それで、これからどうするのルーテ?」
「……はい! このまま使われていない地下坑道へ直行します! 二人にはそこで、あるモンスターを倒す手伝いをして欲しいのです! 行きましょう!」
「ま、まってるーちゃん?!」
取り返しのつかない敗北を経験しヤケになったルーテは、ミネルヴァを抱き抱えて歩き始める。
「ママはだいたんなのです……!」
そしてイリアは、慌ててその後を追いかけるのだった。
――炭鉱の町の地下には、魔物の出現によって放棄され、立ち入り禁止区域となったダンジョン『メラス地下坑道跡』が存在する。
ここには、体が金や銀、宝石で出来たゴーレムが多数出現するのだ。
それらのドロップアイテムを集め、まとめて砂漠の国エリュシオンで売る。
そしてあっという間に大金を稼ぐというのがルーテの作戦だ。
ゴーレム達のレベルは平均25程度で、熟練の冒険者に匹敵する強さである為、危険を冒して坑道に潜り込む者は少ない。
『メラス地下坑道跡』は絶好の金策スポットなのである。
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