転生ゲーマーは死亡確定のサブキャラから成り上がる~最序盤で魔物に食い殺されるキャラに転生したので、レベルの暴力で全てを解決します~

おさない

文字の大きさ
28 / 117

第25話 ルーテの敗北

しおりを挟む

 ルーテ、ミネルヴァ、イリアの三人は、アレスノヴァを使用して「マリネリス大峡谷」の中央部に存在する遺跡へやって来た。

「一瞬でどこでもいけるなんて、これには一体どんな魔法が込められているですかね?」
「私もちょっとだけ使ってみたいわ」

 ミネルヴァとイリアはルーテの持つアレスノヴァを興味深そうに眺め、指先で触れる。

「拾ったものなので好きにしていいですよ。……けど、変なところを押すとしばらく帰れなくなってしまうので、使う時は気を付けてくださいね! 僕もそれで一度大変な目に遭いました!」
「……や、やっぱり遠慮しておこうかしら」
「ミネルヴァも……ルーテが居る時だけ触ることにするです……」

 そう言って二人はルーテから離れ、震えながら互いを抱きしめ合うのだった。

「……そこまで怖がらなくてもいいと思いますよ?」

 *

 それから三人は遺跡を後にする。

 外は大峡谷の底で、前方と後方に高い岩壁が聳《そび》え立っていた。

「峡谷の中に町があるのね」
「イリア、『きょうきょく』って何ですか?」
「峡谷《きょうこく》よ。崖の切り立った深い谷のことをそう呼ぶの」
「なるほど……何だかすごそうなのです!」

 両手を広げてはしゃぐミネルヴァ。彼女は、外の世界に興味深々である。

(ミネルヴァもだいぶ孤児院の一員として馴染んで来ましたね。やはり、これが真エンドのルートだったみたいです……!)

 その様子を見て、ルーテは確信するのだった。

 ――マリネリス大峡谷の中央部には、炭鉱の町「メラス」が存在する。

 岸壁沿いに木の足場を組んで作られた鉱夫たちの居住区である「空中街」と、谷底を平らに均して作られた商業区である「水底《すいてい》街」に分かれているのだ。

「ところで……どうして夜になってるですか?」

 ミネルヴァは、空を見ながら問いかける。現在のマリネリス大峡谷は、ちょうど日没の時間だ。

「……時差よ。アルカディアが朝の時、こっちは夜なの。……たぶん」
「ふーん。よく分からないですね」
「私も不思議な感じがするわ……」

 そう言ってイリアも空を見上げる。

 しかし町の方が明るいので、あまり星が見えなかった。

「ここは夜なのに賑やかね。落ち着かないわ」
「炭鉱の町ですからね。坑道の中にいる間は空なんて見れませんし、朝も夜も関係ない……という設定なのでしょう」

 ルーテは、イリアの言葉に対してそう返事をする。

(でもこの町、もし崖が崩れたり大雨が降ったりしたら大惨事になりそうですよね! ゲームを面白くする為に作られたビジュアル重視の町にそんな指摘をするのは野暮というものですが!)

 そして、心の中でそんなことを考えるのだった。

「……ところでミネルヴァ」
「どうしたですか?」
「時差については、あなたを魔導研究所から連れて帰る時、丁寧に説明したはずですが……忘れてしまったんですか?」

 ルーテが聞くと、ミネルヴァはそっぽを向いて答える。

「……ママの説明は難しいから分からないです。もっと、イリアみたいな分かりやすい説明をして欲しいのです」
「…………何度でも言いますが、僕は男の子です。ママとは呼ばないでください。せめてパパに――」
「ママはやっぱりママなのです!」
「…………………………」
「ミネルヴァをあんなに優しく抱きしめておいてママじゃないだなんて……無理があるのですよ!」

 そう言ってミネルヴァはルーテに抱きつき、胸の中に顔を埋めた。

「………………」
「ルーテ。今回ばかりはあなたの負けよ。諦めなさい」
「………………………………」
「この子のママはあなたなの」

 ぽん、とルーテの肩を叩くイリア。



「………………」



「………………」



「………………」



「……分かりました。僕が……ママです!」
「やったです! やっぱりママはママだったのです!」
「…………………………!」

 ルーテはラスボスに敗北したのだった。

「それで、これからどうするのルーテ?」
「……はい! このまま使われていない地下坑道へ直行します! 二人にはそこで、あるモンスターを倒す手伝いをして欲しいのです! 行きましょう!」
「ま、まってるーちゃん?!」

 取り返しのつかない敗北を経験しヤケになったルーテは、ミネルヴァを抱き抱えて歩き始める。

「ママはだいたんなのです……!」

 そしてイリアは、慌ててその後を追いかけるのだった。

 ――炭鉱の町の地下には、魔物の出現によって放棄され、立ち入り禁止区域となったダンジョン『メラス地下坑道跡』が存在する。

 ここには、体が金や銀、宝石で出来たゴーレムが多数出現するのだ。

 それらのドロップアイテムを集め、まとめて砂漠の国エリュシオンで売る。

 そしてあっという間に大金を稼ぐというのがルーテの作戦だ。

 ゴーレム達のレベルは平均25程度で、熟練の冒険者に匹敵する強さである為、危険を冒して坑道に潜り込む者は少ない。

 『メラス地下坑道跡』は絶好の金策スポットなのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

処理中です...