51 / 117
正史2 二人はいつも一緒
しおりを挟む「や、やめてくれぇッ!」
男の悲鳴の後で、銃声が鳴り響く。
「この船は今から俺たちのモンだ!」
しわがれた声がそう告げると、大勢の人間が歓声を上げた。
タルシスからエリュシオンへと向かう航路であるセイレーン海には、海賊が出没する。
この貨物船は、彼らに奪われてしまったのだ。
「積荷を確認しろ! 金になりそうなモンだけ俺達の船に積み込め!」
誰かが指示を出し、貨物室に海賊達がなだれ込む
――船員たちは、彼らによって皆殺しにされてしまった。
生き残っているのは、木箱の中に隠れていた密航者の二人だけである。
「……ねえねえ。たいへんだよノア」
白いローブを身にまとった、幼い少女が囁いた。
少女は、赤と青の美しい瞳を持っている。
「……うん。たいへんだね、レア」
それに対し、黒いローブを身につけた少年が答えた。
少年の姿は、少女と瓜二つである。
「見つかったら……されちゃうよ、ノア」
「見つかったら……されちゃうね、レア」
二人は、占領された貨物室の小さな木箱の中で、互いに顔を見合わせた。
ノアとレアは、いつも仲良しな双子である。
追っ手から逃れるため、貨物に紛れてこの船へ忍び込んだのだ。
「どうしよう」
二人は同時に呟く。
その時突然、荒波によって船が大きく揺れた。
「わっ!」
ノアとレアは箱の中で転がり、あちこちをぶつけながら最終的に重なり合う。
「れ、レア……おもい……」
「の、ノア……ひどい……」
文句を言い合う二人。
しかし、木箱は二人が体を曲げてぎりぎり入れる程度の大きさしかないので、体勢を変えることは出来なかった。
「ん? あの箱……なんか動いてないか?」
すると、海賊の一人が異変に気付く。
「ん………………っ!」
「む………………っ!」
ノアとレアは慌ててお互いの口を塞ぎ合い、声を出さないようにした。
「……誰か入ってんのか?」
「様子を見てくる」
「女だったら宴だぜ!」
「居るわけねーだろバカ」
一人が、ゆっくりと木箱へ近づいて来る。
その足音を、二人はじっと黙って聴いていた。
「どれどれ――」
男が木箱をこじ開けようとした瞬間。
「うふふふふっ!」
レアはその場から勢い良く飛び出し、懐に所持していた果物ナイフで男の目を切り裂いた。
「がああああああああああああああッ!」
両目を潰され、絶叫しながらその場で転がる男。
「な、何だコイツ?!」
「魔物……いやガキかっ!」
悲鳴を聞いた他の海賊達が、咄嗟に剣を構える。
続いてノアが箱から飛び出し、倒れている男が腰から提げていた鉄砲を取り上げた。
そして、武器を構えている海賊達の列に向かって発砲する。
爆音と共に放たれた弾丸は、列の中央に居た男の頭を貫通し、一撃で絶命させた。
「あははははっ!」
持っていた鉄砲を地面へ投げ捨てるノア。
「クソッタレ! 銃だ! 撃っちまえ!」
海賊達は躊躇を捨てて鉄砲を引き抜き、一斉にノアの方へ向ける。
「――こっちだよ、ノア」
するとその時、両目を潰した海賊を仕留め終えたレアが、ノアの腕を掴んで言った。
二人は手を繋いで銃弾を掻い潜り、積荷の陰へと身を隠す。
そして、付近の積荷を漁り始めた。
「見てノア。素敵なおもちゃが沢山あるよ」
「どれで遊んであげようか? あんまり長いこと苦しいのはかわいそうだよね」
「大きくて強そうなのを使おうよ」
レアはそう言いながら大きめの斧を手に取り、ノアは金棒を両手で持ち上げる。
「行きましょ」
「挟み撃ちにしよう」
それから、ノアは海賊達の正面に飛び出し、レアはその間に積荷を回って背後へと移動する。
「いたぞ! ガキだッ!」
「ま、待てっ! 後ろにもいやがるっ!」
「も、もう銃は使えないぞっ!」
「テメェらあんなガキどもにびびってるんじゃねェッ!」
――それから程なくして、辺り一帯には夥しい量の血が流れ、死体の山が積み上がるのだった。
*
「だいじょうぶ? レア」
「だいじょうぶだよ、ノア」
一通り海賊を始末し終えた二人は、血溜まりの中心へお互いに駆け寄って、無事を確認する。
「うぅ……あぁ……ッ!」
二人の足元でうめいていた男は、ノアに頭を潰され、レアに胴体を割られて絶命する。
血しぶきが飛び散り、二人の体は更に血で汚れた。
「……………………」
「……………………」
それから、二人は何も言わずに互いの顔を見つめ、頬に付いた血を舐めとり合う。
「……んっ、ん……」
「んん……んっ……」
それから、血塗れの舌同士を絡めて口づけした。
「ありがとう、ノア」
「どういたしまして、レア」
二人はそれがさも当然のことであるかのように微笑み、扉の方へ向き直る。
「……まだ来てるよ」
「……また来てるね」
それから二人は、貨物室へ向かって走って来る複数人の足音に耳を傾けた。
「右から十六人」
「左から二十人」
「……思ったよりいっぱいだよ」
「……思ったよりたくさんだね」
レアとノアは互いに手を取り合い、同時にこう続けた。
「――それじゃあ、本気で遊んであげようか」
すると、突如として二人の身体が溶けて混ざり合い、灰色に変色していく。
そうして再び人の形をとり始め、最終的に顔の部分に穴が開いた巨大な四つ腕の怪物へと変化した。
「魂魄抱合《ソニ・ゴルドナ》」
怪物は形容し難い声で嗤うと、昆虫のような羽を広げて部屋の扉を突き破り、海賊たちの前へ姿を表す。
「な、なんだコイツ!」
「うわああああッ! 化け――がああああああああああッ!」
そして、四本の腕で次々と海賊達を捕まえて、骨を砕きながら締め殺していくのだった。
第八・紅蝠血、“親愛”のピリエラウアは、周囲の人間を皆殺しにするまで止まらない。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
空手馬鹿の俺が転生したら規格外の治癒士になっていた 〜筋力Eのひ弱少年治癒士が高みを目指す!?〜
くまみ
ファンタジー
前世は空手部主将の「ゴリラ」男。転生先は……筋力Eのひ弱な少年治癒士!?
「資質がなんだ!俺の拳は魔法を超える!……と、思うけど……汗」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺は五里羅門(ごり・らもん) 35歳独身男だ。硬派すぎて女が寄り付かず。強すぎる空手愛と鍛え抜かれた肉体のせいで不本意ながら通称「ゴリラ」と呼ばれていた。
仕事帰りにダンプに跳ねられた俺が目覚めると、そこは異世界だった。だが転生した姿は前世とは真逆。
病弱で華奢。戦闘力最低と言われる職業の「治癒士」(ヒーラー)適正の10歳の少年・ノエル。
「俺は戦闘狂だぞ!このひ弱な体じゃ、戦えねぇ!
「華奢でひ弱な体では、空手技を繰り出すのは夢のまた夢……」
魔力と資質が全てのこの世界。努力では超えられない「資質の壁」が立ちふさがる。
だが、空手馬鹿の俺の魂は諦めることを知らなかった。
「魔法が使えなきゃ、技で制す!治癒士が最強になっちゃいけないなんて誰が決めた?」
これは魔法の常識を「空手の技」で叩き壊す、一人の少年の異世界武勇伝。
伝説の騎士、美少女魔術師、そして謎の切り株(?)を巻き込み、ノエルの規格外の挑戦が今始まる!
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる