2 / 21
②
可哀想だけれど、面倒ごとはごめんだ。
そう、初めのうち俺は、厄介な問題となることを嫌って、虐待の事実を見ない振りをしていたのだ。
もちろん、預かりものであるラルカに対しては、なるべく優しく接しはしたものの、それ以上、余計なことに首は差し挟まず、あくまで他人事で済まそうとしたのである。
「……ラルカティア…いや、ラルカ。俺の名はクルトだ。しばらくの間だが、よろしくな」
「…………っ」
「屋敷では自由に過ごしてくれて構わねえ。あと、何か欲しいものがあったら遠慮なく言え」
彼に新しい服を着せてやりながら、膝をついて目線を合わせつつそう言ったが、ラルカは大きな目を少し見開いただけで何も答えなかった。そして、その後も彼が俺に対して何か欲求を訴えたり、子供らしい我儘を口にしたりすることはなかったのである。
「子供ってのは…もっと煩くて我儘な生き物なんじゃないのか…」
ラルカは素直で従順。いや、素直で従順すぎる子供だった。
それもこれもおそらく、両親からの過度な『躾』の成果。
けれどそれが一体何だというのか。
「ほら、ラルカ。今日はかぼちゃのスープだ。お前、好きなんだろ?」
「あ………え、なんで…」
「見てりゃ解る。食い付きも違うしな。お代わり欲しかったら言うんだぞ」
「……………ッ」
そもそも預かると約束した期間さえ過ぎてしまえば、あとは他家の問題であって俺の知ったことではなかった。
それに下手なお節介を焼いて家族に要らぬ口をきいても、おそらく逆にこの子がさらなる酷い仕打ちを受けるだけだろう。それなら知らぬふりを続けた方が、結果的に、この子の為でもあるはずだ。と、そう、自分に都合よく考えたのも確かだけれど。
「ありがとうごさいます、クルトさん」
「あ……いや、俺は別に…」
しかし、義務と義理半分で世話を続けている内に俺は、いつしかラルカのことを心から気に掛けるようになっていった。
「すごく、美味しいです」
「……そうか」
何故なら感情が死んだように無感動、無関心だったラルカが、次第に俺へ心を開いてくれたから。怯えて伏せがちだった大きな青い目が、俺をまっすぐに見つめ、小さく微笑んでくれるようになったから。
そしてその笑顔が、思いの外愛らしくて、愛おしいもののように思えてしまったから。
俺が何とかしてやらなければ。
この子を守ってやらなければ。
気が付くと俺は、ラルカの為に何かできないかと、真剣に考えるようになっていた。それも、いざとなれば『アルファ』である俺に与えられた特権と力とで、ラルカを家族の魔の手から守ってやろうとまで──
しかし、結局、そんな必要もなくなってしまった。
預かると約束した期限が過ぎても、一家はラルカを迎えに来なかったからである。
そう、初めのうち俺は、厄介な問題となることを嫌って、虐待の事実を見ない振りをしていたのだ。
もちろん、預かりものであるラルカに対しては、なるべく優しく接しはしたものの、それ以上、余計なことに首は差し挟まず、あくまで他人事で済まそうとしたのである。
「……ラルカティア…いや、ラルカ。俺の名はクルトだ。しばらくの間だが、よろしくな」
「…………っ」
「屋敷では自由に過ごしてくれて構わねえ。あと、何か欲しいものがあったら遠慮なく言え」
彼に新しい服を着せてやりながら、膝をついて目線を合わせつつそう言ったが、ラルカは大きな目を少し見開いただけで何も答えなかった。そして、その後も彼が俺に対して何か欲求を訴えたり、子供らしい我儘を口にしたりすることはなかったのである。
「子供ってのは…もっと煩くて我儘な生き物なんじゃないのか…」
ラルカは素直で従順。いや、素直で従順すぎる子供だった。
それもこれもおそらく、両親からの過度な『躾』の成果。
けれどそれが一体何だというのか。
「ほら、ラルカ。今日はかぼちゃのスープだ。お前、好きなんだろ?」
「あ………え、なんで…」
「見てりゃ解る。食い付きも違うしな。お代わり欲しかったら言うんだぞ」
「……………ッ」
そもそも預かると約束した期間さえ過ぎてしまえば、あとは他家の問題であって俺の知ったことではなかった。
それに下手なお節介を焼いて家族に要らぬ口をきいても、おそらく逆にこの子がさらなる酷い仕打ちを受けるだけだろう。それなら知らぬふりを続けた方が、結果的に、この子の為でもあるはずだ。と、そう、自分に都合よく考えたのも確かだけれど。
「ありがとうごさいます、クルトさん」
「あ……いや、俺は別に…」
しかし、義務と義理半分で世話を続けている内に俺は、いつしかラルカのことを心から気に掛けるようになっていった。
「すごく、美味しいです」
「……そうか」
何故なら感情が死んだように無感動、無関心だったラルカが、次第に俺へ心を開いてくれたから。怯えて伏せがちだった大きな青い目が、俺をまっすぐに見つめ、小さく微笑んでくれるようになったから。
そしてその笑顔が、思いの外愛らしくて、愛おしいもののように思えてしまったから。
俺が何とかしてやらなければ。
この子を守ってやらなければ。
気が付くと俺は、ラルカの為に何かできないかと、真剣に考えるようになっていた。それも、いざとなれば『アルファ』である俺に与えられた特権と力とで、ラルカを家族の魔の手から守ってやろうとまで──
しかし、結局、そんな必要もなくなってしまった。
預かると約束した期限が過ぎても、一家はラルカを迎えに来なかったからである。
あなたにおすすめの小説
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話
ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生
Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158
ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/
fujossy https://fujossy.jp/books/31185
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
番ではないと言われた王妃の行く末
にのまえ
恋愛
獣人の国エスラエルの王妃スノーは、人間でありながら“番”として選ばれ、オオカミ族の王ローレンスと結婚した。しかし三年間、彼に番と認められることも愛されることもなく、白い結婚のまま冷遇され続ける。
それでも王妃として国に尽くしてきたスノーだったが、ある日、ローレンスが別の令嬢レイアーを懐妊させ、側妃として迎えると知る。ついに心が折れたスノーは離縁を決意し、国を去ろうとする。
しかしその道中、レイアー嬢の実家の襲撃に遭い、スノーは命を落とす寸前、自身の命と引き換えに広域回復魔法で多くの命を救う。
これでスノーの、人生は終わりのはずだった。
だが次に目を覚ますと、スノーは三年前の結婚式当日に戻っていた。何度死んでも、何度拒絶しても、結婚式の誓いの瞬間へと戻される。
番から逃れようと、スノーは何度も死を選ぶが――。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。