運命──捨てられて養子にした子供は俺の運命の番だった

RINFAM

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「ラルカ……もう、解っていると思うが……」
 お前はオメガだ。
「…………ッッ」
 優れた遺伝子を次世代へと繋ぎ、産み、育てるための道具。たとえ男として生まれ、育っていたとしても、もはやその身体は、すでに『雄』を受け入れるため変化している。
 そんな変えようもない現実を告げると、ラルカは物言いたげな小さな唇をキュッと噛んだ。

 あの運命の日から数日間、ラルカは部屋から出て来なかった。
「ラルカ……頼むから飯だけは食べてくれ…」
『……………』
 部屋の前に置いた、手つかずの食事。ラルカは俺の運んだ食事もろくに手を付けず、外から呼んでも反応せず、ほとんど顔も合わせてくれようとしなかった。だが、無理もないことだと思う。ショックを受けて当然だし、憎まれて恨まれても仕方がないことだ。
「ラルカ。話がある」
『…………』
 一週間が過ぎて完全に発情期の熱が治まった頃、俺は部屋の前に立ってラルカに呼び掛けた。自分が今さら偉そうに何か言える立場でないことは解っている。でも、だからと言って、ラルカをこのままにしておく訳にもいかなかった。
「話をするだけだ……頼む、出て来てくれ、ラルカ」
 これまではすぐに諦めて立ち去っていたが、今日こそはそういう訳にいかないと部屋の前で粘る。
 もちろんここは俺の屋敷であり、全部屋の合鍵も俺がすべて管理していた。要するに外から開けることは容易だったのだが、俺はラルカに自らの意志で出て来て欲しかったのだ。無理矢理に彼を引き摺り出すことだけは、何があっても決してしたくなかった。
 本当なら急かしたくなかった。けれどラルカは食事も取らず、きちんと眠れているかすら解らない。俺はこれ以上ラルカが弱っていく姿を見過ごせず、彼を守るためにももはや一刻も猶予できないと判断したのだ。

 なにより俺は、ラルカの保護者として、ただ1人の家族として。
彼ときちんと話をしておかなければならなかったから。

「ラルカ……やっと出て来てくれたな……」
「……………」
 2時間ばかり部屋の前で粘ったおかげか、ラルカは久しぶりに部屋から出てきてくれた。彼はわずかに痩せてはいたものの、心配するほど衰弱はしていなかった。そのことに少しだけホッとしつつ、俺は、彼を伴って部屋の前から食堂へ場所を移した。
「腹減ってんだろ…ラルカ?ちっとで良いからよ…食えるようなら食ってくれ」
「………………」
 まったく口を聞こうとしないラルカと、無駄に広い部屋の中、椅子に腰かけて2人きりで向かい合う。湯気の立つ温かなスープを前に置いたまま、ラルカは大きな青い目で俺の顔を見詰めてきた。
 以前と少しも変わらぬ、それゆえに、今の俺に痛みを与えるまっすぐな視線で。
「ラルカ、もう解ってると思うが…お前はオメガ性の人間で……そして、俺の番だ」
「……………ッ」
 この世界の人間として3つの性に関しての教育は施されてきたし、俺も学校では教えないことを──特に、オメガ性の人間の憐れで不公平過ぎる社会的立場について、何かにつけラルカに教えてきたつもりだ。
 だから初めの衝撃と混乱が醒めた後のラルカなら──今のラルカになら、自分の立場がどうなっているのか解ってくれるだろう。そう俺が考えていた通りにラルカは、俺の言葉にビクンと肩を震わせはしたが、すぐに小さく頷いて俺の言葉を受け入れてくれた。
 耐えるように唇を、きつく引き結んだまま。

『アルファになりたい』
 ラルカは小さなころからそう言っていた。ベータとして平凡、かつ平穏に生きることより、持って生まれた自分の力で、道を切り開くような人生を過ごしたい、と。
 そんなラルカの幼い願いを俺は応援していた。そしてある日、どうしてそんなにもアルファになりたいのか、何か将来なりたい職業があるのかと聞いてみると、ラルカはキラキラと空の瞳を輝かせて言ったのだ。
『クルトの仕事を手伝いたい』
『クルトの為に、自分に出来るすべてのことをしたいんだ』
 ──と。

「情けねえ話だが…俺もまだ驚いてる」
「……………」
「まさかお前が……オメガだったなんて、な」
「……………っ!!」
 そう、そのせいで俺は、家族の俺を助けたいと言ってくれた優しいラルカを、本能に抗うことも出来ずに犯してしまった。まだ幼い身体を穢した上、モノにした。彼の望んだ人生の道をこの俺が断ち切り、鳥籠の中へ閉じ込めてしまったのである。
 結果ラルカには、もはや俺の番として生きる道しか残されていない。
 望むだけたくさん開かれていたはずの──ラルカが自身の意志によって選び、決めるべき人生の分帰路を、俺は俺自身の過ちによってすべて断ち切ってしまったから。一生涯、俺の番としてだけ生き、俺の子を産み育てるという道の他は、すべて。
 ラルカがそんなものを望んでないことを、彼の本当の望みを知っていたというのに。それなのに俺は、オメガだったラルカにせめて、保護者たる俺が唯一与えてやれるはずだった、『番の相手を選ぶ権利』ですらも、ラルカから容赦なく奪い取ってしまったのだ。
「こんなつもりじゃなかった…それだけは信じてくれ」
「…………え」
 俺はラルカがオメガだなんて知らなかったし、それを理由に彼を引き取った訳でもなかった。
 オメガの子供を買って自分好みに育てる、などという、上級社会の連中がやる様な悪趣味な道楽を、もとから俺は持っていなかったしそもそもそんな、オメガ性の人間の人格を無視した行為を何より嫌悪していた。
 だからラルカに赦して貰えなくとも、これだけは信じて欲しかったのだ。

 俺はラルカのことを、本当の家族として大切に思っていたことを。今もその想いに、なんら変わりはないことを。そして家族としてラルカのことを、今も愛しているのだ、と。

「………うん」
「ラルカ………?」
 ──なんだ?どうしたんだろう??
 なにか思っていた反応とは違うラルカの様子に、俺は胸に引っ掛かるものを感じた。なんて言うんだろう?喜んでいない訳ではない、信じてくれてない訳でもない。でもラルカの顔に浮かんだ表情には、歓びとも、信頼感とも違う、判別し難い別の感情が隠れ潜んでいた。

 あえて表現するなら──『失望』いや、『失意』だろうか?
 それも少し違う気がするけれど、とても近い何かの感情。
 解らない。けれど、これだけは解った。
 今の俺の言葉でラルカは、とても心が傷付いてる。
 引き裂かれて血を流している。
 そんな──

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