運命──捨てられて養子にした子供は俺の運命の番だった

RINFAM

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「ラルカ…これからはとりあえず、コレを持ってろ」
「コレは……」
「教わっただろ。これが抑制剤だ。オメガの発情期の性欲を僅かだが抑えてくれる…」
「あ…………」
 口にしないラルカの、心に秘めた想いがなんなのか。何に対してそんなに傷付いていたのか。気にはなったけれど、俺にそれを聞く勇気はなかった。
 本当は聞かねばならなかったのに、受け止めなければならなかったのに、今はまだどうしても、ラルカの口から聞きたくはなかったのである。
 俺を拒絶するラルカの言葉を。
 俺という存在を否定するラルカの本音を。
 聞かなければ、知らなければいけなかったのに、俺は恐ろしくて耳を塞いでしまった。
「お前が望むなら、これからも学校へ通って良いが…抑制剤だけは絶対に肌身離すな。少しでもおかしいと思ったらすぐに飲め。あと、登下校は必ず俺が迎えに行くから、1人で街を歩くな…例え友人が一緒であろうと、だ。この意味は解るな?」
「…………うん」
 薬の入った瓶を手にするラルカに、俺は今後の生活に対する注意を促す。
 その内容は我ながら大仰で過剰すぎると思えなくもないが、オメガとして性分化してしまったラルカには、これから普段の生活の中に多くの危険が孕むことになるのだ。自身の身辺に注意して、し過ぎるということは決してない。

 というのも先にも話したことだが、オメガ性の人間は今の世では貴重で、例え番の相手が決まっていたとしても完全に安心はできないのだ。
 確かに、すでに番の決まったオメガを、番以外の雄が妊娠させることは出来ない。けれど、発情期に入ったオメガとのセックスは『特別』で、他性の雄にこの上ない最高のエクスタシーをもたらせるのだ。
 ゆえに己が性欲を満足させるため、もしくは闇の娼館の商品として、オメガ性の人間をつけ狙う者は多い。どれだけ警察が目を光らせていても、年に何十人、何百人ものオメガが、そんな輩に攫われて行方不明となっているのが実状だった。
「これも着けておく…嫌だろうが、我慢してくれ」
「うん……解ってる」
 数々の行動制限と護身に対する注意。もちろんそれらは、すべてラルカの身を守るためだ。そうと解っていても俺は、手にした物をラルカに着けるのは嫌だった。本当なら着けさせたくはない。だけれど万一という場合、これがラルカの身を助けることとなるのだ。
 ラルカのため。ラルカを守るため。
 自分に強く言い聞かせつつ俺は、ラルカの細い右手首に青い腕輪を嵌めた。カチンと小さな音を立てて嵌ったそれは、俺自身がこの手で外さない限りどんなことをしても外れないし、特殊金属製ゆえにどのような工具を使っても破壊できない。
 彼の為にと特別に作らせたソレは、一般的に市販されたものとは違って、一見装飾品の様であったが、もちろんその実情は違っている。
 
 これはラルカを縛るための『首輪』だ。

 内蔵された数々のセンサーや特殊な波動によって、ラルカ自身の生体反応、状態、現在地などを診断、特定するための、オメガ専用腕輪型追跡管理装置。
 通称『犬の首輪』
 嫌な名前で呼ばれてこそいるが、コレは本来己の番を犯罪から守り、略取誘拐を予防するための防犯装置のようなモノだった。そして、どれほど無法な犯罪組織でも、高過ぎるリスクを避けるため、この腕輪を着けているオメガは極力狙わない。
 何故ならこんな高価なものを着けているオメガは、たいていが上級社会や富裕層にある人間の番、もしくは政治機関が管理するオメガである可能性が高いからだ。
 そんな有力者の番を犯罪に巻き込んだとなれば、その権力や財力を駆使した追跡と報復は凄まじいことになる。要は自分や組織が検挙され罪に服する可能性が、通常より格段に高くなるがゆえに、彼等は『犬の首輪付』には手を出さないのである。
 また、腕輪の有る無しでそういった人種の番であることが判明すれば、それはそれで金銭目的の犯罪ターゲットとなりそうなものだが、そもそもそれを阻止するために高性能な追跡装置が内蔵されているのだ。
 どちらの場合にせよリスクが高過ぎて、リスクに見合うだけの益がないという訳だ。
「ラルカ……俺はお前を一生かけて護る」
 それが俺の罪の償い。大切なラルカの心を裏切り、哀しませたことへの代償だった。
「クルト………は……」
 そんな俺の誓いを耳にしたラルカは、嵌められた青い腕輪を見詰め、俯いたまま物言いたげに唇を動かしたけれど、
「クルトは……俺の…を……」
「…ラルカ?声がちいせえ。今、なんて言ったんだ?」
「……………ッ」
 そう俺が聞き返した途端、途中からラルカの言葉は、喉の奥に呑み込まれて消えてしまった。あとにはただ、噛み締めるようにきつく閉ざされた唇と、俺を見詰めつつ苦しげな揺らぎを見せる大きな青い瞳だけ。

 ラルカが何を言いたかったのか。
 どんな思いを伝えたかったのか。

 俺が彼の本当の想いと言葉を知るのは、この日からずっと後。
 ──2年も経ってからのことだった。
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