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番外編(二人の初夜)※
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番外編(二人の初夜)
ただただいちゃついて初夜を迎えているだけのお話です。
お互いに気持ちを確かめ合ったあの日から幾日。
あの日はそのままそんな流れにはならず、それからなんとなくタイミングを逃してしまっている。
(みんなはどんなタイミングで初めてを迎えているのかしら)
なんて考えるまでもない。
若い貴族ならばほとんどは初夜で致しているだろう。
それでは再婚だったり、ただお付き合いをしている人達はどうだ。
貴族の中で大っぴらにしている人はいないが、結婚していてもしていなくとも男女の関係になっている人は多いと聞く。
平民も最初にお付き合いをして相性を確かめて結婚する人がほとんどらしい。
そういう人達もどうしているのだろうか。
(こんな事ならあの日……)
気持ちが盛り上がったそのままの勢いで致してしまえば良かった。
変に間が空いてしまったから今更気恥ずかしさに襲われ、エミールがそれとなくそういう雰囲気を醸し出しそうになると身体が勝手に逃げてしまうのだ。
(もう、私のバカ)
本心では彼とそうなる事を望んでいるし、むしろ早くしたいとさえ思っている。
気持ちが通じ合う前の方が積極的に動けていたと思う。
子種だけ貰って、ましてやそれの手伝いを頼むだなんてとんでもない事を良く出来たものだ。
普通に身体を繋げるよりも遥かに恥ずかしいではないかと気付いたのは最近の事だ。
いっそエミールが強引に奪ってくれれば良い。
そう思うが優しい彼は私が緊張しているのに気付いてすぐに手を引っ込めてしまう。
一歩踏み出すには私からの一歩が必要なのだ。
それはわかりきっているのに恥ずかしさが勝ってしまいその一歩が踏み出せない。
誰かの協力が欲しい。
でもこんな事誰かに頼めるはずがない。
何故ならば邸のみんなも、他のみんなも私達がとっくに済ませていると思っているのだから。
結局は自分で踏み出すしかない。
頑張らなければならない。
(よし……!)
今夜こそ。
今夜こそは絶対に逃げない。
そんな覚悟を決め、いざ夜を迎えた。
*
「エミール、お願いがあるの」
「んん?」
いつものように仕事を終え部屋にやってきたエミールに開口一番そう告げる。
あまりの勢いにエミールは戸惑っているようだが気にしない。
「お願い?何?アリーの希望なら何でも叶えるよ」
自然に腰を抱き頬にキスをするエミール。
軽いリップ音を立てて離れたその胸に縋り付くと、ぴくりと彼が緊張するのが伝わってきた。
「あ、アリー?どうしたんだい?」
「……あの、私達、気持ちが通じ合って暫く経つじゃない?」
「うん、そうだな」
「だから、私……私……」
ごくりと意を決し、まっすぐに見上げ……
「今日は私が嫌がっても最後までして欲しいの!」
「んな……!?」
伝えた途端にエミールが固まった。
「あ、いえ、今までも嫌がっていた訳じゃないのよ?ただ緊張してしまって、その、そういう雰囲気になっても逃げてしまっていたでしょう?だからね、今日は私が逃げようとしても離さないで欲しいの。きっとまた逃げてしまうけれど、貴方に強引にでも奪って欲しいの」
「……っ、アリー、それ、きちんと意味をわかって言ってる?」
「もちろん」
「本当に?」
「良いわ」
良いに決まっている。
だからこそエミールに全てを委ねようとしているのだ。
「ごめんなさい、ずるいわよね、私が逃げなければ良いだけだってわかっているんだけれど、でも……」
「……ッ」
「でも、んっ!?」
話の途中で唇を塞がれた。
軽く啄むだけで一瞬離れたが、すぐにまた何度も角度を変えて触れられる。
「エミ……っ、んんッ」
名を呼ぶ隙すらない。
だんだんと深くなっていくキスに身体から力が抜けくったりとエミールにもたれかかる。
「はあ……っ」
「本当に、良いんだな?」
「……ッ」
唇を離し間近で見つめてくるその瞳には明らかな欲が浮かんでいる。
先程まで焦っていたようだが、途端に真剣に、そして余裕がなさそうな表情に一瞬呼吸が止まる。
こんなにも我慢させてしまっていたのだと申し訳なく思う反面、やはり勝手に腰が引けてしまう。
いつもなら腰が引けている事に気付いたエミールが私を解放し、頭と身体を冷やす為に風呂場へと向かう。
しかし今日は予めお願いしていたからか、がっちりと腰を抱き寄せられ密着させられた。
「っ、エミール……っ」
「アリー」
「んう……!」
そのまま再び唇を塞がれ、ずんずんと身体を誘導される。
向かう先は数歩先の広いベッド。
ベッドの端に足が引っ掛かり尻餅をつくようにその上に倒れ込む。
私に覆い被さるようにエミールもついてきて、相変わらずのキスの嵐の最中で彼の手が悪戯に動き始めた。
「っ、まっ、待って……っ」
「嫌だ。強引にでも、奪って良いんだろう?」
「……っ」
獣のような瞳に見つめられ喉が鳴る。
確かにそう言ったのは私だ。
そう望んだのも私だ。
覚悟の足りない私には、これくらい強引な方がちょうど良い。
覚悟はとうに決めている。
緊張でどうにかなりそうな心臓を抑え、こくりと頷いた。
ただただいちゃついて初夜を迎えているだけのお話です。
お互いに気持ちを確かめ合ったあの日から幾日。
あの日はそのままそんな流れにはならず、それからなんとなくタイミングを逃してしまっている。
(みんなはどんなタイミングで初めてを迎えているのかしら)
なんて考えるまでもない。
若い貴族ならばほとんどは初夜で致しているだろう。
それでは再婚だったり、ただお付き合いをしている人達はどうだ。
貴族の中で大っぴらにしている人はいないが、結婚していてもしていなくとも男女の関係になっている人は多いと聞く。
平民も最初にお付き合いをして相性を確かめて結婚する人がほとんどらしい。
そういう人達もどうしているのだろうか。
(こんな事ならあの日……)
気持ちが盛り上がったそのままの勢いで致してしまえば良かった。
変に間が空いてしまったから今更気恥ずかしさに襲われ、エミールがそれとなくそういう雰囲気を醸し出しそうになると身体が勝手に逃げてしまうのだ。
(もう、私のバカ)
本心では彼とそうなる事を望んでいるし、むしろ早くしたいとさえ思っている。
気持ちが通じ合う前の方が積極的に動けていたと思う。
子種だけ貰って、ましてやそれの手伝いを頼むだなんてとんでもない事を良く出来たものだ。
普通に身体を繋げるよりも遥かに恥ずかしいではないかと気付いたのは最近の事だ。
いっそエミールが強引に奪ってくれれば良い。
そう思うが優しい彼は私が緊張しているのに気付いてすぐに手を引っ込めてしまう。
一歩踏み出すには私からの一歩が必要なのだ。
それはわかりきっているのに恥ずかしさが勝ってしまいその一歩が踏み出せない。
誰かの協力が欲しい。
でもこんな事誰かに頼めるはずがない。
何故ならば邸のみんなも、他のみんなも私達がとっくに済ませていると思っているのだから。
結局は自分で踏み出すしかない。
頑張らなければならない。
(よし……!)
今夜こそ。
今夜こそは絶対に逃げない。
そんな覚悟を決め、いざ夜を迎えた。
*
「エミール、お願いがあるの」
「んん?」
いつものように仕事を終え部屋にやってきたエミールに開口一番そう告げる。
あまりの勢いにエミールは戸惑っているようだが気にしない。
「お願い?何?アリーの希望なら何でも叶えるよ」
自然に腰を抱き頬にキスをするエミール。
軽いリップ音を立てて離れたその胸に縋り付くと、ぴくりと彼が緊張するのが伝わってきた。
「あ、アリー?どうしたんだい?」
「……あの、私達、気持ちが通じ合って暫く経つじゃない?」
「うん、そうだな」
「だから、私……私……」
ごくりと意を決し、まっすぐに見上げ……
「今日は私が嫌がっても最後までして欲しいの!」
「んな……!?」
伝えた途端にエミールが固まった。
「あ、いえ、今までも嫌がっていた訳じゃないのよ?ただ緊張してしまって、その、そういう雰囲気になっても逃げてしまっていたでしょう?だからね、今日は私が逃げようとしても離さないで欲しいの。きっとまた逃げてしまうけれど、貴方に強引にでも奪って欲しいの」
「……っ、アリー、それ、きちんと意味をわかって言ってる?」
「もちろん」
「本当に?」
「良いわ」
良いに決まっている。
だからこそエミールに全てを委ねようとしているのだ。
「ごめんなさい、ずるいわよね、私が逃げなければ良いだけだってわかっているんだけれど、でも……」
「……ッ」
「でも、んっ!?」
話の途中で唇を塞がれた。
軽く啄むだけで一瞬離れたが、すぐにまた何度も角度を変えて触れられる。
「エミ……っ、んんッ」
名を呼ぶ隙すらない。
だんだんと深くなっていくキスに身体から力が抜けくったりとエミールにもたれかかる。
「はあ……っ」
「本当に、良いんだな?」
「……ッ」
唇を離し間近で見つめてくるその瞳には明らかな欲が浮かんでいる。
先程まで焦っていたようだが、途端に真剣に、そして余裕がなさそうな表情に一瞬呼吸が止まる。
こんなにも我慢させてしまっていたのだと申し訳なく思う反面、やはり勝手に腰が引けてしまう。
いつもなら腰が引けている事に気付いたエミールが私を解放し、頭と身体を冷やす為に風呂場へと向かう。
しかし今日は予めお願いしていたからか、がっちりと腰を抱き寄せられ密着させられた。
「っ、エミール……っ」
「アリー」
「んう……!」
そのまま再び唇を塞がれ、ずんずんと身体を誘導される。
向かう先は数歩先の広いベッド。
ベッドの端に足が引っ掛かり尻餅をつくようにその上に倒れ込む。
私に覆い被さるようにエミールもついてきて、相変わらずのキスの嵐の最中で彼の手が悪戯に動き始めた。
「っ、まっ、待って……っ」
「嫌だ。強引にでも、奪って良いんだろう?」
「……っ」
獣のような瞳に見つめられ喉が鳴る。
確かにそう言ったのは私だ。
そう望んだのも私だ。
覚悟の足りない私には、これくらい強引な方がちょうど良い。
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緊張でどうにかなりそうな心臓を抑え、こくりと頷いた。
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