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名探偵が語るには

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 ラウンジは表情を少しも変えずにいった。

「一つあなたに忠告しておきますよ。確かにオーストラリアはかつて大英帝国の流刑地でした。大勢の犯罪者が送られました。食べるためのスリや、売春といった程度の罪でね。それはともかく、オーストラリアに渡った人のなかには軍人や聖職者、その家族も大勢いますよ。むしろ僕が一番ふざけていると感じるのは、彼らの先住民族に対する扱いです。ほんの少し前まで彼らは、先住民族たちを、まるで鹿でも撃つかのように撃ち殺していたんですよ。今だって彼らの文化や土地を奪い、家族を無理矢理離れ離れにさせ、自分たちが持ち込んだ酒やら病気やらで間接的に虐殺している。そんな人間たちが同じ口で、平等だの、平和だのといってるのを聞くと、それこそあまりの馬鹿馬鹿しさに笑い出したくなるんですよ」

 アンナは口をポカンとあけた。

「それからもう一つ。いや二つか。付け加えておきますとね。日本の病室には〇〇4号室というものは存在しないんですよ。日本語だと、数学の4の発音がの発音に通じるからだそうです。おそらくタケル・タカギは、ナンバープレートを見ずに部屋の数を順に数えていったのでしょう。彼が端から4番目の病室を105号室と思ったのは、そういう理由です」

 アンナはまだ口をあけたままだった。

「それからインド人は大抵ヒンズー教であり、ヒンズー教では牛を食べることはタブーとなっています。牛肉はもちろん、牛の脂を使った料理も禁止です。カファル・べネックが料理の中身を気にするのは、そういう理由からです。つまり何がいいたいかというと、あなたも先進国の淑女なら、慣習や文化が違うからといって、外国人を見下すのはお止めなさいということです」

 ラウンジは一息にいうと、大きく息を吐いてから髪をかきあげた。
 それは、かつてある事件の捜査の際、居合わせた女性関係者を軒並み失神寸前にまで追い込んだ程の、優雅かつ完璧な所作だった。
 だがアンナは一片たりとも、動揺や感動の表情をみせることはなかった。
 かわりに少し首を傾げて、ラウンジを見た。それから、まるで初めて外国語を耳にした時のように、目を数回瞬かせた。
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