【完結】おお勇者よ、死んでしまうとは情けない、と神様は言いました

かずえ

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小さな幸せを願った勇者の話

14 治癒魔法の使い方 2

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 セイマ父さんは覚悟を決めたらしい。すぐに司祭と冒険者の少女の手を握り、光の魔力を渡す。

「これを自分の体の中をぐるりと回して反対の手から出してみてください。」

 司祭は慣れた様子で手の平の上に小さな光の玉を出した。冒険者の少女はなかなかできないらしく、だんだんと険しい表情になっていく。よくこの状態で冒険者などと名乗って村や町の外を歩き回っていたものだ、と逆に感心した。
 全く魔力の使い方すら分かっていない。装備も必要最低限で、連れの冒険者も剣士の修行をしたことがあるように思えない。もう一人は死にかけて寝ている。
 防御の盾が出せると言っていたが、それも役に立たなかったから仲間が死にかけているんだろう。
 彼女が苛々しながらようやく出した光の玉は、司祭より大きく、一般的に見て大きめなものだった。
 司祭は先に、寝ているウイグルの体に光の魔力を通して診察する方法をセイマ父さんに教わっている。

「できたわよ。」

 どこか誇らしげに言うのが可笑しくて思わず嗤ってしまいながら、俺が相手をすることにした。連れのトマスも退屈しているようだし、巻き込んでやろう。

「では、その魔力は一旦戻して、少しだけ取り出してトマス君の体の中に通してみてくれますか。」

 戻すのもまた、結構な時間がかかったが、黙って待っているとトマスの手を握って魔力を流し始めた。量の調節が上手くいかないのだろう。かなりな量がものすごい速さでトマスの体の中を巡ろうとするところで、

「痛え!」

 大きな声を上げたトマスが乱暴に少女の手を振り払った。

「きゃ。やめてよ。」

 しりもちをついた少女が悲鳴を上げる。
 怪我人が寝ているのにうるさい奴らだな。

「マグ。お前、俺に怪我をさせる気か。ものすごく痛かったぞ!」
「光の魔力を通しただけじゃない。さっきウイグルは何も言ってなかったわよ。」
「じゃ、ウイグルにしてこい。俺には関係ない。」

 二人が言い合いながらウイグルのベッドに近付くと、騒ぎに目を覚ましたウイグルが怯えた色を目に乗せた。ぎゅう、とまだ手元にあった司祭の手を握る。

「ああ。もう嫌だ。お願いです、司祭さま。俺をこの村に置いてください。どんな仕事もします。外に出たくない!」
「何を言ってるんだ、ウイグル。ここの治療費の支払いがまだできていないんだから、早く魔物を狩りに行くぞ。お前の雷の魔法が無いと足止めできないだろ。」
「嫌だ……。嫌だ。俺が魔法を使っている間は動けないのに守ってもくれず、攻撃を受けたら盾代わりにして。もう絶対に、トマスとは一緒に行かない。」
「お前の治療費だぞ。自分で稼げよ!」
「この村で仕事をもらうよ。自分で払う。だから俺のことは置いて行って。」

 司祭とセイマ父さんに隠れるようにしてウイグルは必死に言い募った。
 なるほど、思ってたよりひどい目に合ってたな。

「ウイグル。今、治してあげるからね。私、治癒魔法を練習してるのよ。」

 マグの言葉にウイグルは更にがたがたと震え出す。

「待ちなさい。まだ……。」

 セイマ父さんの制止も聞かず、マグは魔力を得意気に手の平に集めた。

『その体はあるべき姿へ戻れ』

 コントロールできない大きめの光の魔力。すべて治癒魔法に変換されて、ウイグルの体を包み込む。
 彼の右腕はセイマ父さんが何日もかけるほどの傷で、更に熱も出ていた。痩せ具合を見ると、ストレスで胃に穴も開いていたかもしれない。
 そういったことを調べもせず、全治癒をかければどうなるか。

「ああああ。いやあああ。」

 もちろんマグは、光の魔力を全て出しきって気を失ってもその手から治癒の魔法を発動し続けた。
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