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3章
34
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「レイ!こいつはいったいなんだ!」
3人の前に現れた魔族は、元天帝を睨みつけ指差しながら突然怒鳴り散らした。
その魔族は黒に青みがかかった長髪を、頭上で丸くまとめおり、全体的に小ざっぱりとしている。
元天帝は魔王様を呼び捨てにした魔族を睨み返し、魔王様は大きくため息を吐いた。
「セナ、ゆっくり後で説明します。それより、この子供と孤児院について先に話があります」
セナと呼ばれた魔族は、眉間に眉を寄せて頭を掻いた。「どうぞ」と一言口に出して、屋敷の中へ3人を案内した。
広間を抜けて客室に通されると、使用人らしき人が子供を連れていった。
3人が残され、魔王様は客室のソファに座ると右隣に元天帝も座った。
「孤児院の事は知っている。彼を含めてすぐに対処しよう」
セナは、この話を早く切り上げて本題に入りたいようだった。
「まだハーフがどうとか言ってる連中もいるのも知っている。子供の虐めまで取り締まりきれない」
それは魔王様も分かってはいた。どこにでも虐げられる者は現れ、虐げる連中は後を立たない。潜在意識を変えたとしても解決になるかは分からない。
それほど根強いものだった。
「また怒りの鉄槌とか言って暴れるつもりか?」
「あれはまだ、若気の至りだと思ってください」
「若い?」とセナは鼻で笑い、魔王様は頭を抱えて左右に降った。
元天帝は自分に分からない話をされては、当然面白くなかった。
「怒りの鉄槌?」
「昔の話です」
昔の話となると、リタの話になると言われて今まで聞いて来なかった。元天帝はそろそろ腰を据えて話を聞くべきだと思った。
「ちなみに、これにもリタが関わってきます」
元天帝は「本当にあれもこれもリタだね」とやさぐれた。
「なんだ、魔王様の武勇伝を知らないのか?」
と、セナは片頬を上げて元天帝を煽った。
これに不機嫌にならない元天帝ではないし、それが分からない魔王様でもなかった。
元天帝の纏う空気が氷点下へと下がり、魔王様はすぐに元天帝の膝に手を乗せて宥めた。
「ランシュエ、彼のことも昔のことも話しますから。ここを氷漬けにするつもりですか?」
セナは面白そうに見ていたが、魔王様の元天帝を見る目は気に入らなかった。
そして、次の言葉でもっと不快な面持ちを見せた。
「今、ここでレイリンがキスしてくれたら氷漬けにするのはやめておくよ」
元天帝は微笑んで見せるが、決して腹の中は笑っていなかった。魔王様はこんな板挟みになるとは思っても見なかった。
「ランシュエ、セナは貴方を揶揄っているだけですよ。本気になる必要はありません」
魔王様はそうは言うが、セナは元天帝のことを忌わしく思っていた。元天帝はセナに興味はないが、邪魔をしてくるのであればその限りではない。
全力で潰す必要がある。
「レイリン、どうするの?」
元天帝の黄金の目が魔王様を見つめ、冗談ではない事が窺える。
魔王様は崖の先に立たされていたが、優先すべき人も事柄も分かってはいた。
魔王様は身を乗り出して元天帝の首に両腕を回して、
その唇に自身の唇を合わせた。
一瞬で離れるが、セナは唖然としており、元天帝は勝ち誇ったように笑顔を浮かべた。
魔王様は左手で顔を覆って、どうしたものかと頭を抱えた。
「とにかく、今後彼のような魔族が虐げられないようにどうするべきかを話しに来たのです」
だがセナは既にそれどころではなかった。
身を乗り出し、机に両手をついて勢いよく叫び始めた。
「レイ!リタから聞いていたが、本当にそいつと結婚したのか⁉︎」
「リタは何を話したんですか!」
通りでセナの様子がおかしいと思った。リタが事実を変な方向に曲げて話していた。
だが、元天帝は何もおかしくないと言った。
「間違っていない」
確かに、リタからの話と先程の行動では否定する方が難しかった。
「いつから付き合っている!」
「いつ……?2ヶ月前ぐらいですか?」
「2ヶ月で結婚⁉︎早すぎる‼︎」
そう言われたら短い気もすると、魔王様は唸る。
だが彼らは付き合う前が長すぎた。
勇者として会っていた時の関係は曖昧すぎたが、お互い口には出さずに暗黙の了解のようなものがあった。
「その、私たちは付き合う前が長かったのです」
「どれぐらい?」
食い入るように魔王様を見つめて、セナは詰問する。
魔王様は3000年と答えようとして、一瞬躊躇してしまった。
「俺よりも付き合いが長いなんて事はないだろ?」
鼻で笑いながらセナは言うが、魔王様の口が半開きで止まっている。
元天帝は、魔王様とセナがどれほどの付き合いか知らなかったが、自分達の出会ってからの期間を言う事はそれほど難しくないだろうと思った。
「確かに、セナとの付き合いは長いです。リタからどう聞いたか知りませんが、ランシュエとは3000年前に天界で戦って、それから腐れ縁が続いています」
魔王様は笑顔を浮かべながら口をやっと動かした。だが、これを見逃す2人ではなかった。
「待って、レイ。俺たちの関係は既に5000年は経っている。それなのにその言い方は妙だ」
元天帝も変な言い方だとは思ったが、セナの話を聞いていよいよおかしく思った。
セナより短いのであれば、はっきりとそう言えばいい。
このような状況ならば、魔王様の嘘を付かない性質を利用した質問方法を取るしかない。
「レイリン、私と初めて会ったのは3000年より前なの?」
魔王様は本当に失敗したと思った。顔を顰めてなんと答えようか悩んでいる様子だった。
「それよりも、ここに来た目的について話しましょう」
苦し紛れに魔王様は話題を変えようとするが、セナよりも元天帝の方が顔が険しかった。
「レイリン」
そう呼ばれただけで、身体が震えた。人助けのつもりが藪蛇になるとは、魔王様も思わなかった。
「分かりました。セナ、続きは別日にしましょう」
「ちょ、ちょっと!俺も気になるんだけど!」
セナを無視する魔王様の顔色は悪く、憂鬱な面持ちでソファから立ち上がると、右手を元天帝に差し出した。
元天帝はその手を握ると、立ち上がり、魔王様を引っ張って部屋の外へ出ようとした。
ドアを開けて通った瞬間、そこは魔王様の寝室だった。
魔王様はソファではなく、ベッドの縁に腰をかけ、大きくため息をついて項垂れた。
元天帝も隣に座り、魔王様が話し始めるまでゆっくり待とうと思った。
魔王様は右掌で髪をかき上げて耳にかけると、呼吸を整えるように息を小さく吸った。
そして元天帝に向き直って、口を開いた。
「私は元神官です」
3人の前に現れた魔族は、元天帝を睨みつけ指差しながら突然怒鳴り散らした。
その魔族は黒に青みがかかった長髪を、頭上で丸くまとめおり、全体的に小ざっぱりとしている。
元天帝は魔王様を呼び捨てにした魔族を睨み返し、魔王様は大きくため息を吐いた。
「セナ、ゆっくり後で説明します。それより、この子供と孤児院について先に話があります」
セナと呼ばれた魔族は、眉間に眉を寄せて頭を掻いた。「どうぞ」と一言口に出して、屋敷の中へ3人を案内した。
広間を抜けて客室に通されると、使用人らしき人が子供を連れていった。
3人が残され、魔王様は客室のソファに座ると右隣に元天帝も座った。
「孤児院の事は知っている。彼を含めてすぐに対処しよう」
セナは、この話を早く切り上げて本題に入りたいようだった。
「まだハーフがどうとか言ってる連中もいるのも知っている。子供の虐めまで取り締まりきれない」
それは魔王様も分かってはいた。どこにでも虐げられる者は現れ、虐げる連中は後を立たない。潜在意識を変えたとしても解決になるかは分からない。
それほど根強いものだった。
「また怒りの鉄槌とか言って暴れるつもりか?」
「あれはまだ、若気の至りだと思ってください」
「若い?」とセナは鼻で笑い、魔王様は頭を抱えて左右に降った。
元天帝は自分に分からない話をされては、当然面白くなかった。
「怒りの鉄槌?」
「昔の話です」
昔の話となると、リタの話になると言われて今まで聞いて来なかった。元天帝はそろそろ腰を据えて話を聞くべきだと思った。
「ちなみに、これにもリタが関わってきます」
元天帝は「本当にあれもこれもリタだね」とやさぐれた。
「なんだ、魔王様の武勇伝を知らないのか?」
と、セナは片頬を上げて元天帝を煽った。
これに不機嫌にならない元天帝ではないし、それが分からない魔王様でもなかった。
元天帝の纏う空気が氷点下へと下がり、魔王様はすぐに元天帝の膝に手を乗せて宥めた。
「ランシュエ、彼のことも昔のことも話しますから。ここを氷漬けにするつもりですか?」
セナは面白そうに見ていたが、魔王様の元天帝を見る目は気に入らなかった。
そして、次の言葉でもっと不快な面持ちを見せた。
「今、ここでレイリンがキスしてくれたら氷漬けにするのはやめておくよ」
元天帝は微笑んで見せるが、決して腹の中は笑っていなかった。魔王様はこんな板挟みになるとは思っても見なかった。
「ランシュエ、セナは貴方を揶揄っているだけですよ。本気になる必要はありません」
魔王様はそうは言うが、セナは元天帝のことを忌わしく思っていた。元天帝はセナに興味はないが、邪魔をしてくるのであればその限りではない。
全力で潰す必要がある。
「レイリン、どうするの?」
元天帝の黄金の目が魔王様を見つめ、冗談ではない事が窺える。
魔王様は崖の先に立たされていたが、優先すべき人も事柄も分かってはいた。
魔王様は身を乗り出して元天帝の首に両腕を回して、
その唇に自身の唇を合わせた。
一瞬で離れるが、セナは唖然としており、元天帝は勝ち誇ったように笑顔を浮かべた。
魔王様は左手で顔を覆って、どうしたものかと頭を抱えた。
「とにかく、今後彼のような魔族が虐げられないようにどうするべきかを話しに来たのです」
だがセナは既にそれどころではなかった。
身を乗り出し、机に両手をついて勢いよく叫び始めた。
「レイ!リタから聞いていたが、本当にそいつと結婚したのか⁉︎」
「リタは何を話したんですか!」
通りでセナの様子がおかしいと思った。リタが事実を変な方向に曲げて話していた。
だが、元天帝は何もおかしくないと言った。
「間違っていない」
確かに、リタからの話と先程の行動では否定する方が難しかった。
「いつから付き合っている!」
「いつ……?2ヶ月前ぐらいですか?」
「2ヶ月で結婚⁉︎早すぎる‼︎」
そう言われたら短い気もすると、魔王様は唸る。
だが彼らは付き合う前が長すぎた。
勇者として会っていた時の関係は曖昧すぎたが、お互い口には出さずに暗黙の了解のようなものがあった。
「その、私たちは付き合う前が長かったのです」
「どれぐらい?」
食い入るように魔王様を見つめて、セナは詰問する。
魔王様は3000年と答えようとして、一瞬躊躇してしまった。
「俺よりも付き合いが長いなんて事はないだろ?」
鼻で笑いながらセナは言うが、魔王様の口が半開きで止まっている。
元天帝は、魔王様とセナがどれほどの付き合いか知らなかったが、自分達の出会ってからの期間を言う事はそれほど難しくないだろうと思った。
「確かに、セナとの付き合いは長いです。リタからどう聞いたか知りませんが、ランシュエとは3000年前に天界で戦って、それから腐れ縁が続いています」
魔王様は笑顔を浮かべながら口をやっと動かした。だが、これを見逃す2人ではなかった。
「待って、レイ。俺たちの関係は既に5000年は経っている。それなのにその言い方は妙だ」
元天帝も変な言い方だとは思ったが、セナの話を聞いていよいよおかしく思った。
セナより短いのであれば、はっきりとそう言えばいい。
このような状況ならば、魔王様の嘘を付かない性質を利用した質問方法を取るしかない。
「レイリン、私と初めて会ったのは3000年より前なの?」
魔王様は本当に失敗したと思った。顔を顰めてなんと答えようか悩んでいる様子だった。
「それよりも、ここに来た目的について話しましょう」
苦し紛れに魔王様は話題を変えようとするが、セナよりも元天帝の方が顔が険しかった。
「レイリン」
そう呼ばれただけで、身体が震えた。人助けのつもりが藪蛇になるとは、魔王様も思わなかった。
「分かりました。セナ、続きは別日にしましょう」
「ちょ、ちょっと!俺も気になるんだけど!」
セナを無視する魔王様の顔色は悪く、憂鬱な面持ちでソファから立ち上がると、右手を元天帝に差し出した。
元天帝はその手を握ると、立ち上がり、魔王様を引っ張って部屋の外へ出ようとした。
ドアを開けて通った瞬間、そこは魔王様の寝室だった。
魔王様はソファではなく、ベッドの縁に腰をかけ、大きくため息をついて項垂れた。
元天帝も隣に座り、魔王様が話し始めるまでゆっくり待とうと思った。
魔王様は右掌で髪をかき上げて耳にかけると、呼吸を整えるように息を小さく吸った。
そして元天帝に向き直って、口を開いた。
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