騙されて神鳥の卵を食べさせられた令嬢、国を追放されるーしかし神鳥と同化した令嬢は人々を救う聖女となったー

【２６話】

　皇后さまが倒れて１週間。
　ジャニアーリ君は毎日お見舞いに行きます。
　お見舞いの品は花束。
　王都の外の森の中に行き、自然の花を摘んでくるのです。
　庭園の花は皇后さまが見飽きているだろうから、と。
　何て健気なんでしょう。
　そして何で母子でこんなに性格が違うのでしょう…。

　お花を摘みに行く時は私とフェブ様が一緒に行きます。
　
　フェブ様は剣術と魔術の達人ですし、私は神鳥の加護があるので森は寧ろ自分のフィールドです。
　自然が多いところほど私の力は活かされます。

　なので毎日こっそり、ジャニアーリ君が摘む花を咲かせてあげていたりします。
　種類が違う方が喜ぶので。
　花も摘まれることを厭いません。
　花はその姿を愛でられる事に幸せを感じる存在ですから。

「ねぇマーチ。毎日都合よく花が咲くのは君のおかげかな？」

「気付いてました？」

「３日目くらいからね」

　ちょっぴり恥ずかしいです。
　誰にも気づかれていないつもりだったので。
　お節介なんて思われないでしょうか？

「ジャニーの為だね、ありがとうマーチ」

　ニコリとフェブ様が微笑まれます。
　だから私その笑顔に弱いんですよ。
　美形の笑顔、威力が半端ないです。
　顔に熱が上がるのが分かります。

　と、言うかフェブ様ってやたらと名前を呼ぶんですよね。

　皇后さまも良く名前を呼びますけど。

　でも皇后さまの時はねっとりと絡みつく生温い空気が気分悪いですが、フェブ様の呼び方はやたらと甘いです。
　優しい声で、大切なものを口にするように私の名前を呼んでくれます。
　何と言うか…照れます………。
　元婚約者のジュライ王子にもこんな気持ちを感じたことがありません。

　胸がドキドキして、キュンとして、締め付けられるようで苦しいです。
　でもその苦しさは嫌では無いのです。
　切ないけど愛おしい。
　それは、恋と呼ばれる感情に近い気がします。
　私は恋をしたことがありません。
　だから予測でしか恋しているかどうか分かりません。

　子供の頃から好きな恋愛小説。
　ヒロインが胸をときめかせている描写。
　今の私はその描写と良く似ている気がします。

　まだフェブ様に出会ってそんなに経っていないのに、恋に落ちるなんてあるんでしょうか？

「兄様もマーチお姉さんも速く～！」

　ジャニアーリ君が私たちを呼びます。
　少し思案している間に距離が離れてしましました。
　まぁ森の中の生き物は私を害さないのでジャニアーリ君が何処に行っても安全ですし、居場所もすぐに分かるんですけどね。

「行こうか、マーチ」

「へぁっ！？」

　フェブ様が私の手を握りました。
　指を絡ませる握り方で。
　これ、カップル繋ぎと言うやつですよね？
　読んだ小説に書いてありました。

　グイ、とフェブ様に手を引かれ小走りでジャニアーリ君の元に向かいます。

　走っているせいで息があがるのか、相手がフェブ様だから息が苦しくなるのか？
　それすらも分からないですが、嫌な気分はしません。
　心臓が胸を突き破りそうなんで苦しいですけどね。

「今日は中々新しい花がないんだ…」

　あ、まだ花を咲かせていませんでした。

（幼子が望む花を咲かせて下さい）

　心の中で祈ります。
　ここから歩いてすぐの所に花の咲いた気配が感じられました。

「あちらはどうですか？」

　花の咲いている方へ指差します。

「うん、行ってみよう！！」

　こうして今日も綺麗な花のブーケが作れました。
　皇后さまは喜んでくれるのでしょうか？
　実の息子にはちゃんと愛情があるのでしょうか？
　実の姉すら殺害した皇后さまに、子供への愛情があるのでしょうか？

　合って欲しいと願います。
　母親からの愛情は子供に無償で与えられて欲しいです。
　
　でも私も親の愛情を貰えなかった身。
　だから余計にジャニアーリ君が愛されている事を願っているのかも知れません。

「マーチ、君に私は好意を抱いているよ」

　そんなに辛そうな顔をしていたのでしょうか？
　フェブ様が突然そんな事を仰いました。

「好意……」

「好きってことさ」

　それって…恋愛の意味では無いですよね………？

　聞きたいけど今の私に聞く勇気はないのでした。