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【39話】

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「すまない、すまないマーチ。君の事を愛している。でも私に君は抱けないんだ」

 フェブ様の綺麗な瞳から涙が流れます。
 涙まで綺麗なんて。
 泣き顔まで綺麗なんて。
 何と残酷なことでしょうか………。

 私は明日の出陣の前にフェブ様に寵愛を受けに参りました。
 フェブ様も私がどういう気で自室を尋ねたのか分かっていたのでしょう。
 耳まで顔をか隠して私を招き入れて下さいました。

 お茶を勧められましたが断りました。
 それ以上に私は熱に浮かされていましたので。
 男を求める、と言うみだらな熱に。

 そして明かりを消して、私はガウンを脱ぎました。

 寝着1枚になると少し肌寒く感じました。
 でもすぐにフェブ様が抱きしめてくれたので、その温もりに体を預けました。

 ひょい、と軽々抱きかかえあげられて、私はベッドに寝かされます。

 私を組み敷いたフェブ様がガウンを脱ぎます。
 簡素なシャツの上からでも分かる、しなやかに鍛えれれた体。
 コレが私のものになる。
 胸がドキドキと心臓から出るかと思うくらい激しく伸縮します。

 月明かりだけに照らされたフェブ様はとても美しかったです。

 フェブ様には私はどう見えたでしょうか?

 唇が頬に落ちました。
 柔らかい温もり。
 もっと欲しいと瞳をつむりました。
 しかし私の頬に落ちてきたのは柔らかい温もりではなく、温かい液体でした。

 目を開きます。
 
 そしてそこで見たのはフェブ様の泣き顔でした。

「マーチ…私に君は抱けない………」

「私はそんなに女として魅力がありませんでしたか?」

 胸がツキリと痛みます。

「君は魅力的だよマーチ。綺麗で清純で優しい乙女だ。だがその君の美しいところが、綺麗なところが私は穢すことが出来ない……」

 ぽたぽたと涙が零れ落ちます。
 涙って案外温かいのですね。

「君の中の聖なる力が私を拒んでいる。君を穢してはいけないと、神鳥の力が私に君を奪わせてくれないんだ…こんなに、君を好きなのに………」

 聖女は清らかな者。
 穢されてはならない存在。
 私の中の神鳥は、私の魂と同化した歪な形であるにも関わらずその神聖さだけは奪われていませんでした。

「フェブ様、ではお心だけ頂けきます。そして覚えていてください、貴方を愛した愚かな女が居たことを……」

 私の目からも涙が溢れました。

 そしてそのまま、私たちは寝入るまで涙を流しながら抱き締めあったのでした。
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