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見回り
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早朝、早く目が覚めた私は朝の散歩がしたい気分になって、屋敷をうろついていた。そうしたら、身の回りの世話をしてくれるメイドの一人を見つけた。
「あ、ジェシカお嬢様!」
私と同年代くらいに見えるけど、幼い印象の強いメイドさんが笑顔で寄ってくる。
小型犬みたいで愛らしいなと思う。
「おはよう、モニカ」
「はい、おはようございます! ジェシカお嬢様!」
ぺこりと頭を下げられる。
愛らしくて、自然と笑みが零れた。
私の妹もこれくらい素直だったら可愛がれたのだけど。
(……いや、へそ曲がりな姉だったから無理か)
私が先に捻じ曲がったのか、私が妹を捻じ曲げたのか、今となっては不明だけれど。
両親との確執もあって、姉妹間の和解は永遠に無理だと思う。
あれに愛情を注いでも無駄だと分かっているので、私は余った愛情を彼女たちに注ぐことにした。
私は早起きなモニカに会ったら渡そうと思っていた飴の包み紙を三個渡す。
アルトも何だかんだ甘い所があるから、彼女たちに差し入れはしているようだけど。私もそういうことがしたくて、アルトにねだって小分けのお菓子を用意してもらっていたのだ。
「わ、いいんですか!?」
「うん。甘いものをあげたら喜ぶってアルトから聞いてたから」
「しかも三個も! レイナとコレットの分もくれて嬉しいです!」
「何も泣くほどのことじゃ……」
レイナとコレットっていうのは彼女の姉妹のことで、どちらも屋敷でメイドをしている。
モニカは目の端に涙を浮かべて、ちょっと引くくらい感動してる。
お菓子あげただけなんだけどな。
……よしよし。
ペット感覚で頭を撫でてあげよう。
「本当にごめんなさい。正直、お嬢様が最初やってきた時は怖かったんです。粗相をして叩かれたらどうしようって二人とも話してて……」
「いや、そんなことしないから」
ていうか三姉妹相手に勝てる自信ないし。
私がモニカを叩いた瞬間、二人の加勢が来て負ける気がする。
「まあ、そんなことしないから。安心していいよ。別に失敗しても私は気にならないし」
「はい! お嬢様は私たちがミスをしても怒るどころか励ましてくださいます! 私、もっと仕事ができるようになりますので、見守っていてください!」
「うん。いつまでここに居られるか分からないけど」
「行かないでくださいぃぃぃ」
懐きすぎて困ったメイドさんだ。
朝の誰も起きていない時間帯。
早起きが日課のモニカと一緒に、屋敷を散歩して回るのは密かな私の楽しみだ。
私がモニカの手を取ると、モニカは恥じらいつつ拒絶しない。
少し、アルトが私をイジメて楽しむ理由が分かる気がした。
男ってろくでもないな。
それはそうと、手を繋いで、今だけは姉妹気分。
妹からの愛情に飢えてる私は、モニカからそれを補給していた。
と、庭園の方を見ていると見知らぬオジサンがザッザッと歩いてくるのが見えた。
(えっと、誰?)
「レインですよ。レイン・アズラ。王立騎士団の団長で、屋敷の警護も担当してくれてる人です。たまに朝の見回りもしているんです」
王都を護る騎士の団長が、なぜアルトの屋敷なんかを護ってるのか真剣に理解できない。私はコレットの手を放すのも忘れて、放心してしまっていた。
「奥方様、お初にお目にかかります。レイン・アズラと申します。屋敷の警護でご相談がありましたら、私へ申しつけてください」
「あ、はい。お世話になります」
「ふふ、屋敷の者ともうまく打ち解けておられるご様子で安心しました」
「へ? あっ」
しっかりとコレットの手を握ってしまっていた。
コレットが嬉しそうに見上げてくるので、離すに離せない。
「……申し訳ありません。こんな恰好で」
「いえ、安心しました。さすが、お優しいアルト殿が妻にと呼ばれた方です。慈愛に満ちた女神のような方ですな」
(持ち上げすぎ!?)
いったい何だと言うのだ。
褒めても何も出ないぞ、私は……。
期待値が高すぎて無駄に心臓バクバクした。
「では、警護がありますので」
「またね、レイン」
「ああ、また仕事の後でな」
愛しげにレインがモニカの頭を撫でる。
まるで親子のようなやり取りで、実際、そういう可能性も無きにしも非ずだと思う。孤児を引き取って育てている貴族は多い。
謎は深まったけど、この屋敷にいるのは優しそうな人ばかりで安心する。
……別に私は優しくないし、一人だけ場違いな気もするけど。
アルトの屋敷は正直居心地がいいなって思った。
「あ、ジェシカお嬢様!」
私と同年代くらいに見えるけど、幼い印象の強いメイドさんが笑顔で寄ってくる。
小型犬みたいで愛らしいなと思う。
「おはよう、モニカ」
「はい、おはようございます! ジェシカお嬢様!」
ぺこりと頭を下げられる。
愛らしくて、自然と笑みが零れた。
私の妹もこれくらい素直だったら可愛がれたのだけど。
(……いや、へそ曲がりな姉だったから無理か)
私が先に捻じ曲がったのか、私が妹を捻じ曲げたのか、今となっては不明だけれど。
両親との確執もあって、姉妹間の和解は永遠に無理だと思う。
あれに愛情を注いでも無駄だと分かっているので、私は余った愛情を彼女たちに注ぐことにした。
私は早起きなモニカに会ったら渡そうと思っていた飴の包み紙を三個渡す。
アルトも何だかんだ甘い所があるから、彼女たちに差し入れはしているようだけど。私もそういうことがしたくて、アルトにねだって小分けのお菓子を用意してもらっていたのだ。
「わ、いいんですか!?」
「うん。甘いものをあげたら喜ぶってアルトから聞いてたから」
「しかも三個も! レイナとコレットの分もくれて嬉しいです!」
「何も泣くほどのことじゃ……」
レイナとコレットっていうのは彼女の姉妹のことで、どちらも屋敷でメイドをしている。
モニカは目の端に涙を浮かべて、ちょっと引くくらい感動してる。
お菓子あげただけなんだけどな。
……よしよし。
ペット感覚で頭を撫でてあげよう。
「本当にごめんなさい。正直、お嬢様が最初やってきた時は怖かったんです。粗相をして叩かれたらどうしようって二人とも話してて……」
「いや、そんなことしないから」
ていうか三姉妹相手に勝てる自信ないし。
私がモニカを叩いた瞬間、二人の加勢が来て負ける気がする。
「まあ、そんなことしないから。安心していいよ。別に失敗しても私は気にならないし」
「はい! お嬢様は私たちがミスをしても怒るどころか励ましてくださいます! 私、もっと仕事ができるようになりますので、見守っていてください!」
「うん。いつまでここに居られるか分からないけど」
「行かないでくださいぃぃぃ」
懐きすぎて困ったメイドさんだ。
朝の誰も起きていない時間帯。
早起きが日課のモニカと一緒に、屋敷を散歩して回るのは密かな私の楽しみだ。
私がモニカの手を取ると、モニカは恥じらいつつ拒絶しない。
少し、アルトが私をイジメて楽しむ理由が分かる気がした。
男ってろくでもないな。
それはそうと、手を繋いで、今だけは姉妹気分。
妹からの愛情に飢えてる私は、モニカからそれを補給していた。
と、庭園の方を見ていると見知らぬオジサンがザッザッと歩いてくるのが見えた。
(えっと、誰?)
「レインですよ。レイン・アズラ。王立騎士団の団長で、屋敷の警護も担当してくれてる人です。たまに朝の見回りもしているんです」
王都を護る騎士の団長が、なぜアルトの屋敷なんかを護ってるのか真剣に理解できない。私はコレットの手を放すのも忘れて、放心してしまっていた。
「奥方様、お初にお目にかかります。レイン・アズラと申します。屋敷の警護でご相談がありましたら、私へ申しつけてください」
「あ、はい。お世話になります」
「ふふ、屋敷の者ともうまく打ち解けておられるご様子で安心しました」
「へ? あっ」
しっかりとコレットの手を握ってしまっていた。
コレットが嬉しそうに見上げてくるので、離すに離せない。
「……申し訳ありません。こんな恰好で」
「いえ、安心しました。さすが、お優しいアルト殿が妻にと呼ばれた方です。慈愛に満ちた女神のような方ですな」
(持ち上げすぎ!?)
いったい何だと言うのだ。
褒めても何も出ないぞ、私は……。
期待値が高すぎて無駄に心臓バクバクした。
「では、警護がありますので」
「またね、レイン」
「ああ、また仕事の後でな」
愛しげにレインがモニカの頭を撫でる。
まるで親子のようなやり取りで、実際、そういう可能性も無きにしも非ずだと思う。孤児を引き取って育てている貴族は多い。
謎は深まったけど、この屋敷にいるのは優しそうな人ばかりで安心する。
……別に私は優しくないし、一人だけ場違いな気もするけど。
アルトの屋敷は正直居心地がいいなって思った。
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