闇巫女様は心配性

冴條玲

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闇巫女様は見た

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 それは、皇宮に新人の衛兵たちが配属されて間もない日のこと。
 食堂で昼間からお酒を飲みながら、休憩中の彼らが談笑していたの。

「見たかよ、デゼル様。すっごい美少女。誰とでもヤるんだろ? 俺もヤりてー」
「闇主とかいう奴隷にされるじゃねーか」
「そりゃ、ヤツらが奴隷にされないとデゼル様のために働かなかったからだろ? 俺らはもとよりデゼル様のために働くじゃねぇか。だったら、ヤらせてもらってもいいと思わねー? デゼル様だってヤりてーんじゃねーの?」
「可愛い顔して、毎晩、闇主をとっかえひっかえしてヤってんのかな。一晩に何人もの闇主とヤって、ナカに出されてイかされまくりとか?」
「俺ら全員で襲ってマワしてみねぇ? まさか、全員を処分なんてしないだろ。どーせ、何十人の男とヤってんだし」

 いやらしく笑う彼らのそんな話を聞いてしまって、真っ青になって震える私の肩を、優しく抱いたサイファが囁いたの。

「デゼル、一人で部屋に帰れる?」

 私が泣きながらうなずくと、サイファが優しく笑いかけてくれたの。

「大丈夫だよ、僕もすぐに戻るから。気をつけてね」

 私が食堂を出てすぐ。
 すごい音がして、私、びっくりして、部屋に帰る約束だったのに、中の様子をうかがってしまったの。
 そうしたら、サイファとジャイロが談笑していた新兵達を殴り飛ばして、椅子や机が倒れた音だった。

「何の話をしてた? 僕が誰だかわかる?」

 サイファに詰め寄られたのとは別の、近くにいた男の人が言った。

「おいッ! そいつ、魔女のどれ……いや、サイファ様だ!」
「やべッ! ――て、なんだよ、ガキじゃん。こんなガキ、俺らでかかればたためるんじゃ」

「やってみるといい」

 やってみるといいって、言ったの、サイファよ!?
 すぐに、乱戦になった。
 新人の衛兵達は十人はいて、みんな大人だから、まだ十九歳のサイファに仕えるなんて、いやだったみたいなの。
 後で聞いたんだけど、どういうつもりなのか、サイファをのせたら立場を取り替えてやるって、ネプチューンがけしかけてもいたらしいの。
 だけど、サイファもジャイロも強いもの。50Lvカンストの闇主と死鬼よ。素手で端からのして、蹴り飛ばして、折れた椅子の脚や酒瓶を手に取る卑怯者がいれば、容赦なく闇魔法をかけた。
 新兵たちの怒号と絶叫が響いたのは、ほんの短い間のことで、あっという間に片がついた。

「ジャイロ、ちゃんと手加減して。いくらデゼルでも、死んじゃったら蘇生はできないよ」
「あぁ? マジかよ、サイファ、こいつら殺さねーのかよ」
「デゼルに指一本でも触れたら殺すけど。言ってるだけの人達をいちいち殺してたらキリがないよ」

 食堂はもう死屍累々ししるいるいで、サイファとジャイロにのされた新兵たちの苦しげなうめき声だけがしてた。

「――サイファ様」
「デゼル、帰らなかったの」
 
 少し驚いた顔をしたサイファが、悶絶する新兵たちを冷たく一瞥いちべつして、小さなため息をついた。

「僕がヒールするつもりだったけど、デゼル、オーロラヒールしてあげてくれる?」

 サイファのヒールは一人ずつだけど、私のオーロラヒールなら、まとめて癒せるの。
 ジャイロがあきれた顔で、天然記念物もののお人好しがそろってやがるって悪態を吐いて、肩をすくめた。

「オーロラヒール」

 私のオーロラヒールがかかって、新兵たちのうめき声が聞こえなくなると、腕組みして、斜に新兵たちを見たサイファが言ったの。

「何か言うことは?」

 他人をこんなに突き放したサイファを見たのは、私、初めてよ。
 怯えたように顔を見合わせた新兵たちが、ガタガタっと慌てて立ち上がって、一列に並んでサイファに敬礼したの。

「「すいませんっしたぁ!!」」

 サイファが彼らに向ける視線はまだ冷たかったけど、食堂の隅で青い顔をして息をひそめていたマスターには、ふだん通りの穏やかで優しい笑顔を見せた。

「壊れたものと、駄目になった料理の請求書を送って頂けますか。彼らの給与から弁償させます」

 え、ひどい! って、新兵たちの顔に書いてあったけど、マスターはほっとした顔でにっこり笑った。
 サイファって立場が弱い人達のことまでよく思いやるから、皇宮で仕えてくれてるみんなに慕われているのよ。

「おとなしいやつほど、怒らせるとおっかねぇもんだぜ? 肝に銘じとけよ?」

 がっくりとうなだれる新兵たちにジャイロが言ったら、はいぃって、新兵たちが情けない声で答えた。
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