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第6話 不可思議の王太子
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王宮の奥、客間らしき部屋の前で、シェーンが立ち止まった。軽くノック。
「シェーン・アストライーゼル。エヴァディザード殿に、面会したがっている姫をお連れしました」
わっ、いきなりっ!?
扉が開いて、昨日の試合で見た剣士が姿を見せた。
間近に相対すると、さすが、どこにも隙がない。
艶やかな黒髪や、深みのある黒曜の瞳が、均整の取れた風貌とあいまって、孤高の鷹のような印象を与える。エヴァディザードだ。
「あの、シ、シル……」
人見知りはしない方なのに、ひどく緊張してしまい、シルクは一度、深呼吸した。
「突然、ごめんなさい。シルク・ライゼルファンです。今日、あなたと試合予定だった――」
エヴァディザードの瞳が真っ直ぐに、シルクを見た。知的で深く、測れない。
ただ、静かにうなずいて、用件はと、彼女を促した。
「あの、メイヴェルさんのこと、それと、不戦勝ってこと聞いて……。エヴァディザードさんは、納得行かれてるのかと思って」
険しかったエヴァディザードの表情が、やや、和らいだ。
「シルク、そんなことを聞かれても、試合に出なかった身で、納得行かないなんて言えないだろう? サリにお言い。主催国側の不手際をつついたら、サリがどう釈明してくれるのか、聞いてみたいよ、私は」
そう言ったシェーンの視線の先に、シグルド王国のサリ王子。
サリは二人が来るまで、部屋でエヴァディザードと話していた様子に見えた。
邪魔したのかなと、途惑った。
場が、やんごとなき人々の博覧会状態だ。そうでなくても、気圧される。
言葉を継げないでいるシルクに、サリが何と声をかけるでもなく、猫のまねをして顔を洗う仕種をした。
「サリ王子!? なんでここで猫まねなんですかっ!」
――うう、似合うんだけどっ! サリ王子、前から、変な人なんだけどっ!
美貌の猫まね王子は、なお、猫が手をなめる仕種をまねしてクスリと微笑み、ミステリアスな瞳でシルクを見た。
――あうう、誰にも言ったことないけど、サリが好きだから緊張してたのもあるのに~っ!
従兄のサリに、シルクは心密かに憧れてきた。
サリのどこがいいのかと、若い女性に聞くのは愚問だ。シルクも、サリに魅せられる理由は、その他大勢の女性と変わらない。
神秘的でたおやかで、それでいながら文武両道に秀でるサリは、シグルド国王秘蔵の王太子だ。
絶世の美女と謳われたイシス王妃譲りの銀髪。
ミステリアス・ブルークリスタルの異名を取る、神秘的な蒼の瞳。
幻想的な美貌を欲しいままにするサリは、存在自体が幻想だと言われることさえあった。夢幻境の住人さながら、独特の空気をまとう、不可思議の王子。
「シルク」
シェーンの言葉を上手に聞き流したサリが、静かに尋ねた。
「エヴァと試合をしたい?」
「……え、……と、試合は……」
シルクは少し悩んで、
「ほんとのこと言うと、せめて決勝まで残りたいと思って。……でも、自分が逆の立場だったら、納得行かないと思うし、こんな無理に、勝ちにしてもらわなくて、いいかな……?」
フェアだねと、好ましげに微笑んだサリが、優しい口調で言った。
「シルクと違って、エヴァは試合にはさほどこだわっていないが、シルクがよかったら、私のために試合を組ませてもらいたい。主催国責任者の立場上、何かと、人の口があるものだから」
シルクはこくりと、聞き分けよくうなずいた。
「ん……」
広く豪奢な客室の奥の寝台で、昏睡しているようだった誰かが身を起こした。
ようやく、意識を取り戻したメイヴェルだった。
「シェーン・アストライーゼル。エヴァディザード殿に、面会したがっている姫をお連れしました」
わっ、いきなりっ!?
扉が開いて、昨日の試合で見た剣士が姿を見せた。
間近に相対すると、さすが、どこにも隙がない。
艶やかな黒髪や、深みのある黒曜の瞳が、均整の取れた風貌とあいまって、孤高の鷹のような印象を与える。エヴァディザードだ。
「あの、シ、シル……」
人見知りはしない方なのに、ひどく緊張してしまい、シルクは一度、深呼吸した。
「突然、ごめんなさい。シルク・ライゼルファンです。今日、あなたと試合予定だった――」
エヴァディザードの瞳が真っ直ぐに、シルクを見た。知的で深く、測れない。
ただ、静かにうなずいて、用件はと、彼女を促した。
「あの、メイヴェルさんのこと、それと、不戦勝ってこと聞いて……。エヴァディザードさんは、納得行かれてるのかと思って」
険しかったエヴァディザードの表情が、やや、和らいだ。
「シルク、そんなことを聞かれても、試合に出なかった身で、納得行かないなんて言えないだろう? サリにお言い。主催国側の不手際をつついたら、サリがどう釈明してくれるのか、聞いてみたいよ、私は」
そう言ったシェーンの視線の先に、シグルド王国のサリ王子。
サリは二人が来るまで、部屋でエヴァディザードと話していた様子に見えた。
邪魔したのかなと、途惑った。
場が、やんごとなき人々の博覧会状態だ。そうでなくても、気圧される。
言葉を継げないでいるシルクに、サリが何と声をかけるでもなく、猫のまねをして顔を洗う仕種をした。
「サリ王子!? なんでここで猫まねなんですかっ!」
――うう、似合うんだけどっ! サリ王子、前から、変な人なんだけどっ!
美貌の猫まね王子は、なお、猫が手をなめる仕種をまねしてクスリと微笑み、ミステリアスな瞳でシルクを見た。
――あうう、誰にも言ったことないけど、サリが好きだから緊張してたのもあるのに~っ!
従兄のサリに、シルクは心密かに憧れてきた。
サリのどこがいいのかと、若い女性に聞くのは愚問だ。シルクも、サリに魅せられる理由は、その他大勢の女性と変わらない。
神秘的でたおやかで、それでいながら文武両道に秀でるサリは、シグルド国王秘蔵の王太子だ。
絶世の美女と謳われたイシス王妃譲りの銀髪。
ミステリアス・ブルークリスタルの異名を取る、神秘的な蒼の瞳。
幻想的な美貌を欲しいままにするサリは、存在自体が幻想だと言われることさえあった。夢幻境の住人さながら、独特の空気をまとう、不可思議の王子。
「シルク」
シェーンの言葉を上手に聞き流したサリが、静かに尋ねた。
「エヴァと試合をしたい?」
「……え、……と、試合は……」
シルクは少し悩んで、
「ほんとのこと言うと、せめて決勝まで残りたいと思って。……でも、自分が逆の立場だったら、納得行かないと思うし、こんな無理に、勝ちにしてもらわなくて、いいかな……?」
フェアだねと、好ましげに微笑んだサリが、優しい口調で言った。
「シルクと違って、エヴァは試合にはさほどこだわっていないが、シルクがよかったら、私のために試合を組ませてもらいたい。主催国責任者の立場上、何かと、人の口があるものだから」
シルクはこくりと、聞き分けよくうなずいた。
「ん……」
広く豪奢な客室の奥の寝台で、昏睡しているようだった誰かが身を起こした。
ようやく、意識を取り戻したメイヴェルだった。
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