剣聖~約束の花嫁~

冴條玲

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第9話 なら、あなたを賭けて 【後編】

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「あー、いいだろ! そうかよ、ぼくを賭…………て、えぇえっ!? ぼくってなにっ!?」

 エヴァディザードときたら、動揺するシルクの様子に、見る者の目に心地好い笑顔を見せて、言い換えた。

「負けた方が相手を認める。それでどうだ?」
「……よ、よし、乗った!」

 び、びっくりした、びっくりした、ああびっくりした。

「し、心臓に悪い冗談やめて!」
「そうか? 本気でもいいが」

 ――えぇっ!?

 聞いていたメイヴェルが、口を挟んだ。

「エヴァ、随分、シルク皇女が気に入ったな」

 ――それ、違うと思う!

「ええ」

 ――だからそれ、違うと……なにィっ!?

『まあ、シルクちゃんてばお無謀さん♪ 最年少優勝候補のエヴァちゃんに挑むなんて!』
『あら、親戚のお兄ちゃんに遊んでもらっているだけよ』
『え~っ。ララ、シルクちゃん本気だと思うの~☆』
『そうかなあ。じゃあ、リリは、エヴァちゃんが勝つ方に、シルクちゃん人形を賭けるわ☆』
『やん。ララもエヴァちゃんが勝つ方に賭けるよぅ~』

 波打つ金髪のララ人形。
 冴え凍る銀髪のリリ人形。
 精巧な造りのララ人形とリリ人形を取り出して、唐突に人形劇して見せたのは。

「ちょっと、サリ王子っ!」
「何かな?」
「いや、何かな、じゃなくて……! 最年少優勝候補はぼくだし、ぼくが負けるって決めつけて、へんな茶化し方するのやめて下さい!」

『たいへん、シルクちゃん知らないのかしら!?』

 ララ人形があわてる。

 ――て、何を!? 人形仕舞え!?

『ああ、不憫なシルクちゃん……! 同じ第二シードでも、かたやエヴァちゃんは、枠の都合で第二シードになっただけ、その実力たるや、第一シードのサリちゃんにさえ匹敵するのに! 過去の公式試合でサリちゃんを負かした既成事実さえ、あるのに~!』
『ああ、それは言わないで、ララ。事故みたいなものだったのよ。だって、サリちゃんは魔法使い。本職の剣士さんと、なぜか剣の試合をしなくちゃならなかったんだもの! どうして、剣術試合って剣の試合なのかしら!? 魔法使ったっていいのに、反則だと言われるのよ~!』
『かなしい、かなしいよね、リリ! でもララ、剣術試合だから、剣の試合なんだと思うのよ。そしてそんなエヴァちゃんは、今をときめく十七歳。シルクちゃんの方が年少だけど、シルクちゃんは優勝候補じゃないから、エヴァちゃんが繰り上がりで最年少優勝候補なのね』

 どこから突っ込もうかと、震えるこぶしを握り締めて抗議の意を表明していたシルクは、はたと、目を点にした。

「え……? 十七歳……?」

 まじまじと、エヴァディザードを見た。

「う、うそぉっ!?」
「……?」

 その落ち着きでその長身でその風格で!?
 そういえば、今まさに、割とあっさり挑発に乗ったっけ……!?
 がーんがーんがーん。

 メイヴェルがクスクス笑った。
 エヴァディザードがいくつに見えるんだ? と、首を傾げた。

「ぼ、ぼく十六歳なんだから! 十七歳ならほとんど同い年だよ! 絶対、違うんだから!」
「……」

 よよよと、ララ人形が泣き崩れた。

『無邪気って残酷、若々しいエヴァちゃんつかまえて、あんまりな言い種だと思うの。エヴァちゃんだって、十四歳か十五歳みたいなシルクちゃんに言われたくないよね~? リリ?』
『うん、うん、言われたくないよぉ。エヴァちゃんは、身ごなしと風格と思慮深さと長身以外は年相応よ。どこもかしこも未発達なシルクちゃんとは、一味違うと思うの!』

「サ・リ・王・子・!」

 シグルドの秘宝、神秘のミステリアス蒼の瞳ブルークリスタルのサリが、涼しげな様子でシルクを見た。

「何かな? シルク」

 ――くっ! サリ、いつもいつも、そうやってはぐらかすっ!

「誰が未発達ですか!」

 ララ人形とリリ人形で、同時にシルクを指して見せて、楽しそうにサリが笑った。

「試合は二時間後に。エヴァは強いよ、全力で挑んで、楽しませてもらっておいで。もしもシルクが勝ったら、欲しがっていた勇者の指人形をあげようかな」

 ――ええっ!?

「それ、ほんとに……?」

 覗き込むようにうかがうと、微笑んでサリがうなずいた。

 ――わあ、サリ王子お手製の指人形……! 欲しい、うわ、勝たないとっ!

 闇にキランと瞳を光らせて、魔物めいた笑みを見せたシルクを、エヴァディザードが少し、引き気味に見た。
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