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第10話 エヴァディザード戦 【前編】
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第五試合は、日が落ちてからの試合となった。
夜闇に抱かれた会場に足を踏み入れ、シルクは陶然とした。
観客席のいたるところに、あえかな光を放つ巨大な水晶柱が配されていて、とても、美しい。水晶洞窟さながらの神秘。凛とした夜気が心身に心地好かった。
――サリ。
こんな真似ができるのも、こんな真似をするのも、サリしかいない。
希代の魔術師との呼び声高いサリでも、これほど大掛かりな魔術を使えば、明日に差し障る。そうまでする舞台の立役者に、彼女を選んでくれたのだ。
任された舞台の重さと壮麗さに、心身が引き締まる思いがした。
この場に見合う試合にできるかどうか、彼女の肩に、かかっているのだ。
ワっと、観衆が沸いた。
エヴァディザードが姿を見せていた。
折しもの突風がエヴァディザードの長い黒髪を闇に舞わせ、散らした。
カイム・サンドの風習に習い、脇だけを留める形で結った黒髪だ。
同じ突風が、片脇に結い上げたシルクのプラチナ・ブロンドをも散らし、その様が息を呑むほど美しかったことを、シルクは知らない。
「はじめ!」
開始の直後、エヴァディザードが動いた。
「!!?」
――ちょっ……!!
ガガッ ガキン!
激しい金属音の中、その初太刀を自分がどう受けたのか、シルクにはわからなかった。
――速い! 重い!!
シルクの細身の剣よりはるかに重量ある長刀の、両手持ちだ。エヴァディザードは初太刀から、凄まじい速さで薙いだ。
「固いな。――死に物狂いで来い。私が勝ったら、あなたをさらう」
シルクは目を見開いて、エヴァディザードを見た。その笑みと、瞳の本気。
ガカッ
――だめ! まともに受けてたら、剣、折られる、まずい!!
距離を取ったら負ける。
初速だけは、シルクの方が速かった。剣が軽いからだ。けれど、それは加速した長刀の破壊力には、剣が持ちこたえないことも意味していた。
シュッ
シルクが斬りかかるのを待っていたように、エヴァディザードが難なくさばいた。
彼女の全霊を込めた斬撃を、待っているのか。
彼はまさに初太刀で、固くなっていたシルクから、固くなる余裕を失わせたのだ。
そして今、シルクが剣の迷いを振り切るのを待つかのように、その長刀を構えたまま、シルクの迷いゆえの隙をついて来ようとはしない。
距離を取ったら負ける。
ぎりぎりまでエヴァディザードの懐に踏み込んで、初速と技術がものをいう勝負に懸けるべきではないのか。
シルクの剣はもとより、平均より軽い。このため、シルクはこれまで幾度か、そういった勝負を仕掛けたことがある。そして、そのほとんどに勝ってきたのだ。
けれど、本能が恐れた。剣士としての直感が、エヴァディザードの懐に踏み込むこと、無謀だと、警告していた。
距離を取って闘えば、十中八九、剣を折られて負ける。剣の重さが違うのだ、こればかりは仕方がないと、誰も、彼女に文句をつけはしない。それどころか、剣を折られるまで闘えば、彼女の度量と技術に賛辞さえ、贈られるだろう。
けれど、エヴァディザードの懐に踏み込む真似は、逃げずに本気で、勝つ気で勝負をすることだ。
そうして負けた時には、愚かなことを、自分の力量も心得ないのかと、口さがなく言い立てられる――
夜闇に抱かれた会場に足を踏み入れ、シルクは陶然とした。
観客席のいたるところに、あえかな光を放つ巨大な水晶柱が配されていて、とても、美しい。水晶洞窟さながらの神秘。凛とした夜気が心身に心地好かった。
――サリ。
こんな真似ができるのも、こんな真似をするのも、サリしかいない。
希代の魔術師との呼び声高いサリでも、これほど大掛かりな魔術を使えば、明日に差し障る。そうまでする舞台の立役者に、彼女を選んでくれたのだ。
任された舞台の重さと壮麗さに、心身が引き締まる思いがした。
この場に見合う試合にできるかどうか、彼女の肩に、かかっているのだ。
ワっと、観衆が沸いた。
エヴァディザードが姿を見せていた。
折しもの突風がエヴァディザードの長い黒髪を闇に舞わせ、散らした。
カイム・サンドの風習に習い、脇だけを留める形で結った黒髪だ。
同じ突風が、片脇に結い上げたシルクのプラチナ・ブロンドをも散らし、その様が息を呑むほど美しかったことを、シルクは知らない。
「はじめ!」
開始の直後、エヴァディザードが動いた。
「!!?」
――ちょっ……!!
ガガッ ガキン!
激しい金属音の中、その初太刀を自分がどう受けたのか、シルクにはわからなかった。
――速い! 重い!!
シルクの細身の剣よりはるかに重量ある長刀の、両手持ちだ。エヴァディザードは初太刀から、凄まじい速さで薙いだ。
「固いな。――死に物狂いで来い。私が勝ったら、あなたをさらう」
シルクは目を見開いて、エヴァディザードを見た。その笑みと、瞳の本気。
ガカッ
――だめ! まともに受けてたら、剣、折られる、まずい!!
距離を取ったら負ける。
初速だけは、シルクの方が速かった。剣が軽いからだ。けれど、それは加速した長刀の破壊力には、剣が持ちこたえないことも意味していた。
シュッ
シルクが斬りかかるのを待っていたように、エヴァディザードが難なくさばいた。
彼女の全霊を込めた斬撃を、待っているのか。
彼はまさに初太刀で、固くなっていたシルクから、固くなる余裕を失わせたのだ。
そして今、シルクが剣の迷いを振り切るのを待つかのように、その長刀を構えたまま、シルクの迷いゆえの隙をついて来ようとはしない。
距離を取ったら負ける。
ぎりぎりまでエヴァディザードの懐に踏み込んで、初速と技術がものをいう勝負に懸けるべきではないのか。
シルクの剣はもとより、平均より軽い。このため、シルクはこれまで幾度か、そういった勝負を仕掛けたことがある。そして、そのほとんどに勝ってきたのだ。
けれど、本能が恐れた。剣士としての直感が、エヴァディザードの懐に踏み込むこと、無謀だと、警告していた。
距離を取って闘えば、十中八九、剣を折られて負ける。剣の重さが違うのだ、こればかりは仕方がないと、誰も、彼女に文句をつけはしない。それどころか、剣を折られるまで闘えば、彼女の度量と技術に賛辞さえ、贈られるだろう。
けれど、エヴァディザードの懐に踏み込む真似は、逃げずに本気で、勝つ気で勝負をすることだ。
そうして負けた時には、愚かなことを、自分の力量も心得ないのかと、口さがなく言い立てられる――
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