69 / 117
68爆発しちゃった
しおりを挟む
★今回はエース視点に戻ります。
私はローリエさんのご厚意で、その屋敷に一泊することになった。ローリエさんにせがまれて、私の知る限りのオレガノ隊長の活躍を語っていると、あっという間に時間が過ぎていく。夜は久しぶりに清潔なベッドで眠った。
その間、ミントさんは王都などに私の発見を連絡すべく、部下の人達に様々な指示を飛ばして忙しくしていたようだ。そして翌朝、私はここ、冒険者ギルド、ニアレーク支部に連れてこられたのである。
「でも、どうやって見つけたんですか?」
まさか、この世界にも人工衛星やアンテナなどがあったのだろうか?
私は、ミントさんから渡されたホットミルクを一口飲んだ。ミントさんは得意げな顔をして、向かいのソファで長い脚を組み直す。
「エース、冒険者ギルドのネットワークを舐めてもらったら困るわ。ま、これ程にギルドマスターで良かったと思えたのは、初めてだけどね」
冒険者ギルドは、王都にある本部のギルドマスター、つまりミントさんを頂点とした巨大組織。彼女がギルマスに就任して以降、徹底的に情報網が整備されてきて、この度そのシステムの底力が発揮された形らしい。
「私はね、もう随分昔からあなたがこの世界にやって来るのを待っていたわ。ギルド職員には暗黙の掟がいくつもあるの。その中の一つに『黒髪黒目の者は問答無用で保護せよ』というものがあってね」
「それって……」
「私がギルドマスターになったのは、あなたと出会い、保護するため。これはエルフ族に課された古からの使命」
ミントさんは、冒険者ギルドのギルドマスターとしての権限をフル活用して、全ギルドから目撃情報を集めてくれていたらしい。この世界にはまともな通信技術は無いけれど、魔術による手紙の送受信はできる。これは、半径数キロメートル以内でないと相手に届けられないらしいのだけれど、人海戦術を使えば飛脚便のようにして遠くの情報も素早く王都へ集めることができるのだ。このやり方を広めて整備したのもミントさんだとか。
「たぶんエルフが長命なのはね、あなた達救世主と呼ばれる異世界人が現れる周期があまりにも長いからだと思うの。いくつもの世代をかけて申し送りをしても、うまく伝わらないかもしれないでしょう? だから、長命の種族が救世主を守ることになっているのよ」
救世主のためにエルフ族の命がそのように定まってるなんて、ちょっと壮大すぎる話に頭がくらくらする。でもそれ程に、この世界における世界樹という存在、そしてその管理人は大切な役目を背負っているのだし、それは救世主にも同じことが言えるのだろう。
「私なんかが救世主でいいんでしょうか」
気づいた時には、私はこう呟いていた。だって、考えてもみて? 日本には私みたいな平凡な人じゃなくて、もっと天才的な閃きがある人、手に職を持っている人、頭が良い人がたくさんいた。なのに、選ばれたのは私。
「私は、エースだからこそ選ばれたんだと思うわ。姫様との相性もあるのだろうけれど、私個人としてはあなたの人となりが世界樹に認められたからだと思うの」
ミントさんが、こちらのソファにやってきた。隣に腰掛けて、私の頭を優しく撫でる。
「エース、もっと自信を持って。あなたが思っている以上に、皆あなたのことが大好きで大切なの。あなたは、決して一人じゃない」
もう言葉にならなかった。ミントさんに抱きしめられて、その立派なおっぱいに顔を押し潰されながら、私は泣いた。涙と一緒に、寂しさや要らないプライド、思い込み、いろんなものがどんどん流れ出て、私の中から消えていく。
「ミントさん、ありがとうございます」
「ううん、お礼なんて要らない。そうね、敢えて言うならばあなたの王子様にはお礼を言った方がいいかも」
え? 私は顔を上げる。
「エース。あなた、彼と連絡する手段を持っているわよね。ちゃんと使ってる?」
私は小さく顔を横に振る。守りの石のネックレスは、城から持ち出してきてしまったのだ。これを置いていけば、行方不明になっている王妃様と同じになってしまう。またクレソンさんが悲しい思いをするだろうから、と思ってしたことだけれど、結局のところ、私が彼との縁が切れてしまうのが怖くて持ってきてしまったのだ。その癖、クレソンさんに相談もせずに騎士を止めてしまったことが気まずくて、連絡はできないという中途半端な状態だ。
ミントさんは、私の顔から全て悟ってくれたようだった。
「仕方のない子ね」
「クレソンさん、きっと怒っているでしょうね」
「そんなこと考えていたの? 心配はしていたけれど、怒るわけないじゃない。別の人には相当お怒りだったけど」
ミントさんは何かを思い出したのか、手を口元に当てて含み笑いしている。
「そうそう、エース、知ってた? クレソン……様は、出世なさったのよ」
「出世ですか?」
第八騎士団第六部隊は、隊長、副隊長、班長の席は全て埋まっている。もしかして、別の騎士団に引き抜かれた?!
「そんな焦った顔をしなくても大丈夫よ。彼は全ての騎士のトップに立ったの」
「まさか……総帥」
「その通り。なぜ、突然こんなに大出世したんだと思う?」
なぜ、というよりも、どうやって? 簡単には信じられない話だ。目を見開く私に、ミントさんはほほ笑みかけた。
「あなたを、取り戻すためよ」
ミントさんによると、クレソンさんは私の知らぬ間に相当無理をしたようだ。
まず、コリアンダー副隊長経由で第一騎士団団長に話を通し、王妃捜索隊結成を取引材料として王様に総帥就任を認めてもらった。次に、カモミール様やマリ姫様の口利きもあって、全ての騎士団団長を味方につけたらしい。さらには、前総帥にも承諾をもらった上で、関係者全員の合意の下、総帥に就任したそうだ。
私、城を出てからほんの数日しか経っていないのに。何この、早業?! 前々からクレソンさんは、たくさんの貴族の方達とも面会したり、王都の孤児を一括で傘下に納め、彼の部下として鍛えたりしていたみたいだから、その成果も認められてのことかもしれない。でも、それでも……ちょっと凄すぎない?
平社員がある日突然社長になるようなものだ。あ、でも元々社長の一人息子的ポジションだから、有り得るのかしら。うん、有り得るということにしておこう。じゃないと、私の頭が追いつかない。
「あなたは、女性だという理由で騎士をクビになってしまったでしょ? でも、それは暗黙の了解でしかなく、元々そんな規則がなかったことが証明されたわ。そして、今後は男女関わらず実力のある者は騎士として公平に登用することが明文化されたの。つまり、これで堂々と城へ戻れるわよ!」
ミントさんは、自分の手柄かのように胸を張っている。
うん、嬉しいよ。
とっても。
でもね、私、本当に城へ戻っていいのかな。てか、戻る意味あるのかな? だって、私より強い人がたくさんいるし、この通りクレソンさんは、王子復活へ王手をかけたも同然。ただの異世界人で庶民である私からすれば、さらに遠い存在になってしまった。私なんていなくてもクレソンさんは……。
「エース、どうしたの? 何で泣くのよ」
ミントさんが慌てた様子で私の肩を掴む。
「ミントさん、私、城に戻れません。私、隊長にも迷惑かけちゃぃしたし、合わせる顔がありません」
「何を言っているの? あなたはオレガノ隊長のために帰るの? 違うでしょ? 何のためにクレソン様や皆はあれだけがんばったのよ?!」
分かってる。私だって、どれだけ苦しかったか。どれだけ城が恋しかったか。実は、日本に帰りたいって思ったことはほとんど無い。だって大切人は、もうあそこに誰一人残っていないんだもの。でもね、城には帰りたいって何度も思った。あそこが私の居場所だった。だけど、本当に帰っていいのかな? また、皆を振り回してしまったらどうしよう。宰相は私を狙ってる。白の魔術しか使えない弱い私を。それならば、もう私なんていなくなった方が……
「エース」
その瞬間、ミントさんから突き刺さるような威圧が発せられた。私の体は一瞬金縛りにあったみたいに動かなくなる。
「何を悩んでるのかは知らないけど、一つだけはっきりしていることはあるはずよ? あなた、どうして今も、王妃の証を持っているの?」
「それは……」
答えは自分でも分かってる。でも、これは私個人的なものであって。
ミントさんは小さくため息をつくと、私の顔を覗き込んだ。
「エース、女の子はもっと我儘でいいのよ。あなたを幸せにするのは、あなた自身。もっと自分を甘やかして、もっと可愛がって、もっと大切にすればいいの。自分の想いに一途になりましょう」
「本当に、そんなのでいいんでしょうか」
「えぇ。エースは頑張りすぎ。我慢しすぎ。自分の望みをちゃんと口にしてみて?」
私は、恐る恐るミントさんを見上げた。
胸が熱い。張り裂けそう。もう、誰にも止められない。爆発する!
「クレソンさんが、好きなんです」
好き。好き。世界一、好き。こんなに人を好きになったことなんて、一度も無い。だからこそ、この想いを成就させたいと願うことが正しいのかどうか、不安でたまらなくなる。私だけの一方通行だったらどうしようって心配になる。だけど、どうしても、どうしても、どうしても、もう一度会いたい。あの胸に飛び込んで、ギュってしてもらいたい。だめ。きっとそれだけじゃ満足できない。やっぱり私は、ずっとクレソンさんと一緒にいたいんだ。
これだけは、譲れない。
「私は、クレソンさんの隣にいたいです」
「よくぞ言った!」
ミントさんは立ち上がると、指をパチリと鳴らした。それを合図に、応接室の扉が勢いよく開く。
「え、アンゼリカさん?!」
扉の向こうに立っていたのは、赤紫の騎士服を纏った美女。空気が一気に冷えた気がした。
「ミントさんから連絡をもらったの。エース、先程からの話、聞かせてもらったわよ。あなた、私とあの日馬車の中で話したことを忘れたの?」
「ごめんなさい」
アンゼリカさんにそれを言われると、辛い。
「いいわ。許してあげる。その代わり、今からは私達の言う通りにしてもらいますからね」
「へ?」
その後、私は少しだけ後悔するのだった。なぜ、この時殊勝に頭を下げてしまったのか、と。
びっくりしたのは、私がいつの間にかアンゼリカさん家の養子になっていたことだけではない。城に戻るならば、再び騎士にならなければならないという話も分かる。侍女とかでも私的にはOKだけれど、宰相の悪の手から逃れ、クレソンさんの庇護化にいるためには騎士になるのが手っ取り早いものね。
だけど、ミントさんとアンゼリカさん。この二人が結託して暴走すると、本当に大変なことが起こるのだ。
私は半泣きになりながら、二人が用意した衣装を身につけ、城を目指すことになった。
あぁ、どうしてこうなった。
ミントさんとアンゼリカさんはとてもよく似合っていると言ってくれるし、もうこうなったら開き直るしかない!
私はローリエさんのご厚意で、その屋敷に一泊することになった。ローリエさんにせがまれて、私の知る限りのオレガノ隊長の活躍を語っていると、あっという間に時間が過ぎていく。夜は久しぶりに清潔なベッドで眠った。
その間、ミントさんは王都などに私の発見を連絡すべく、部下の人達に様々な指示を飛ばして忙しくしていたようだ。そして翌朝、私はここ、冒険者ギルド、ニアレーク支部に連れてこられたのである。
「でも、どうやって見つけたんですか?」
まさか、この世界にも人工衛星やアンテナなどがあったのだろうか?
私は、ミントさんから渡されたホットミルクを一口飲んだ。ミントさんは得意げな顔をして、向かいのソファで長い脚を組み直す。
「エース、冒険者ギルドのネットワークを舐めてもらったら困るわ。ま、これ程にギルドマスターで良かったと思えたのは、初めてだけどね」
冒険者ギルドは、王都にある本部のギルドマスター、つまりミントさんを頂点とした巨大組織。彼女がギルマスに就任して以降、徹底的に情報網が整備されてきて、この度そのシステムの底力が発揮された形らしい。
「私はね、もう随分昔からあなたがこの世界にやって来るのを待っていたわ。ギルド職員には暗黙の掟がいくつもあるの。その中の一つに『黒髪黒目の者は問答無用で保護せよ』というものがあってね」
「それって……」
「私がギルドマスターになったのは、あなたと出会い、保護するため。これはエルフ族に課された古からの使命」
ミントさんは、冒険者ギルドのギルドマスターとしての権限をフル活用して、全ギルドから目撃情報を集めてくれていたらしい。この世界にはまともな通信技術は無いけれど、魔術による手紙の送受信はできる。これは、半径数キロメートル以内でないと相手に届けられないらしいのだけれど、人海戦術を使えば飛脚便のようにして遠くの情報も素早く王都へ集めることができるのだ。このやり方を広めて整備したのもミントさんだとか。
「たぶんエルフが長命なのはね、あなた達救世主と呼ばれる異世界人が現れる周期があまりにも長いからだと思うの。いくつもの世代をかけて申し送りをしても、うまく伝わらないかもしれないでしょう? だから、長命の種族が救世主を守ることになっているのよ」
救世主のためにエルフ族の命がそのように定まってるなんて、ちょっと壮大すぎる話に頭がくらくらする。でもそれ程に、この世界における世界樹という存在、そしてその管理人は大切な役目を背負っているのだし、それは救世主にも同じことが言えるのだろう。
「私なんかが救世主でいいんでしょうか」
気づいた時には、私はこう呟いていた。だって、考えてもみて? 日本には私みたいな平凡な人じゃなくて、もっと天才的な閃きがある人、手に職を持っている人、頭が良い人がたくさんいた。なのに、選ばれたのは私。
「私は、エースだからこそ選ばれたんだと思うわ。姫様との相性もあるのだろうけれど、私個人としてはあなたの人となりが世界樹に認められたからだと思うの」
ミントさんが、こちらのソファにやってきた。隣に腰掛けて、私の頭を優しく撫でる。
「エース、もっと自信を持って。あなたが思っている以上に、皆あなたのことが大好きで大切なの。あなたは、決して一人じゃない」
もう言葉にならなかった。ミントさんに抱きしめられて、その立派なおっぱいに顔を押し潰されながら、私は泣いた。涙と一緒に、寂しさや要らないプライド、思い込み、いろんなものがどんどん流れ出て、私の中から消えていく。
「ミントさん、ありがとうございます」
「ううん、お礼なんて要らない。そうね、敢えて言うならばあなたの王子様にはお礼を言った方がいいかも」
え? 私は顔を上げる。
「エース。あなた、彼と連絡する手段を持っているわよね。ちゃんと使ってる?」
私は小さく顔を横に振る。守りの石のネックレスは、城から持ち出してきてしまったのだ。これを置いていけば、行方不明になっている王妃様と同じになってしまう。またクレソンさんが悲しい思いをするだろうから、と思ってしたことだけれど、結局のところ、私が彼との縁が切れてしまうのが怖くて持ってきてしまったのだ。その癖、クレソンさんに相談もせずに騎士を止めてしまったことが気まずくて、連絡はできないという中途半端な状態だ。
ミントさんは、私の顔から全て悟ってくれたようだった。
「仕方のない子ね」
「クレソンさん、きっと怒っているでしょうね」
「そんなこと考えていたの? 心配はしていたけれど、怒るわけないじゃない。別の人には相当お怒りだったけど」
ミントさんは何かを思い出したのか、手を口元に当てて含み笑いしている。
「そうそう、エース、知ってた? クレソン……様は、出世なさったのよ」
「出世ですか?」
第八騎士団第六部隊は、隊長、副隊長、班長の席は全て埋まっている。もしかして、別の騎士団に引き抜かれた?!
「そんな焦った顔をしなくても大丈夫よ。彼は全ての騎士のトップに立ったの」
「まさか……総帥」
「その通り。なぜ、突然こんなに大出世したんだと思う?」
なぜ、というよりも、どうやって? 簡単には信じられない話だ。目を見開く私に、ミントさんはほほ笑みかけた。
「あなたを、取り戻すためよ」
ミントさんによると、クレソンさんは私の知らぬ間に相当無理をしたようだ。
まず、コリアンダー副隊長経由で第一騎士団団長に話を通し、王妃捜索隊結成を取引材料として王様に総帥就任を認めてもらった。次に、カモミール様やマリ姫様の口利きもあって、全ての騎士団団長を味方につけたらしい。さらには、前総帥にも承諾をもらった上で、関係者全員の合意の下、総帥に就任したそうだ。
私、城を出てからほんの数日しか経っていないのに。何この、早業?! 前々からクレソンさんは、たくさんの貴族の方達とも面会したり、王都の孤児を一括で傘下に納め、彼の部下として鍛えたりしていたみたいだから、その成果も認められてのことかもしれない。でも、それでも……ちょっと凄すぎない?
平社員がある日突然社長になるようなものだ。あ、でも元々社長の一人息子的ポジションだから、有り得るのかしら。うん、有り得るということにしておこう。じゃないと、私の頭が追いつかない。
「あなたは、女性だという理由で騎士をクビになってしまったでしょ? でも、それは暗黙の了解でしかなく、元々そんな規則がなかったことが証明されたわ。そして、今後は男女関わらず実力のある者は騎士として公平に登用することが明文化されたの。つまり、これで堂々と城へ戻れるわよ!」
ミントさんは、自分の手柄かのように胸を張っている。
うん、嬉しいよ。
とっても。
でもね、私、本当に城へ戻っていいのかな。てか、戻る意味あるのかな? だって、私より強い人がたくさんいるし、この通りクレソンさんは、王子復活へ王手をかけたも同然。ただの異世界人で庶民である私からすれば、さらに遠い存在になってしまった。私なんていなくてもクレソンさんは……。
「エース、どうしたの? 何で泣くのよ」
ミントさんが慌てた様子で私の肩を掴む。
「ミントさん、私、城に戻れません。私、隊長にも迷惑かけちゃぃしたし、合わせる顔がありません」
「何を言っているの? あなたはオレガノ隊長のために帰るの? 違うでしょ? 何のためにクレソン様や皆はあれだけがんばったのよ?!」
分かってる。私だって、どれだけ苦しかったか。どれだけ城が恋しかったか。実は、日本に帰りたいって思ったことはほとんど無い。だって大切人は、もうあそこに誰一人残っていないんだもの。でもね、城には帰りたいって何度も思った。あそこが私の居場所だった。だけど、本当に帰っていいのかな? また、皆を振り回してしまったらどうしよう。宰相は私を狙ってる。白の魔術しか使えない弱い私を。それならば、もう私なんていなくなった方が……
「エース」
その瞬間、ミントさんから突き刺さるような威圧が発せられた。私の体は一瞬金縛りにあったみたいに動かなくなる。
「何を悩んでるのかは知らないけど、一つだけはっきりしていることはあるはずよ? あなた、どうして今も、王妃の証を持っているの?」
「それは……」
答えは自分でも分かってる。でも、これは私個人的なものであって。
ミントさんは小さくため息をつくと、私の顔を覗き込んだ。
「エース、女の子はもっと我儘でいいのよ。あなたを幸せにするのは、あなた自身。もっと自分を甘やかして、もっと可愛がって、もっと大切にすればいいの。自分の想いに一途になりましょう」
「本当に、そんなのでいいんでしょうか」
「えぇ。エースは頑張りすぎ。我慢しすぎ。自分の望みをちゃんと口にしてみて?」
私は、恐る恐るミントさんを見上げた。
胸が熱い。張り裂けそう。もう、誰にも止められない。爆発する!
「クレソンさんが、好きなんです」
好き。好き。世界一、好き。こんなに人を好きになったことなんて、一度も無い。だからこそ、この想いを成就させたいと願うことが正しいのかどうか、不安でたまらなくなる。私だけの一方通行だったらどうしようって心配になる。だけど、どうしても、どうしても、どうしても、もう一度会いたい。あの胸に飛び込んで、ギュってしてもらいたい。だめ。きっとそれだけじゃ満足できない。やっぱり私は、ずっとクレソンさんと一緒にいたいんだ。
これだけは、譲れない。
「私は、クレソンさんの隣にいたいです」
「よくぞ言った!」
ミントさんは立ち上がると、指をパチリと鳴らした。それを合図に、応接室の扉が勢いよく開く。
「え、アンゼリカさん?!」
扉の向こうに立っていたのは、赤紫の騎士服を纏った美女。空気が一気に冷えた気がした。
「ミントさんから連絡をもらったの。エース、先程からの話、聞かせてもらったわよ。あなた、私とあの日馬車の中で話したことを忘れたの?」
「ごめんなさい」
アンゼリカさんにそれを言われると、辛い。
「いいわ。許してあげる。その代わり、今からは私達の言う通りにしてもらいますからね」
「へ?」
その後、私は少しだけ後悔するのだった。なぜ、この時殊勝に頭を下げてしまったのか、と。
びっくりしたのは、私がいつの間にかアンゼリカさん家の養子になっていたことだけではない。城に戻るならば、再び騎士にならなければならないという話も分かる。侍女とかでも私的にはOKだけれど、宰相の悪の手から逃れ、クレソンさんの庇護化にいるためには騎士になるのが手っ取り早いものね。
だけど、ミントさんとアンゼリカさん。この二人が結託して暴走すると、本当に大変なことが起こるのだ。
私は半泣きになりながら、二人が用意した衣装を身につけ、城を目指すことになった。
あぁ、どうしてこうなった。
ミントさんとアンゼリカさんはとてもよく似合っていると言ってくれるし、もうこうなったら開き直るしかない!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
529
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる