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004 都落ちで島流し

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 味やら大きさなど、いろいろ試しながら自分で出したカリカリ梅を味わうこと、十三個を数えた頃。
 枝垂の身柄は女性の二人組に引き渡された。

 片やたおやかな白ネコ嬢、片やキリリと凛々しい黒ヒョウお姉さん。
 可憐な白ネコ嬢は、コウケイ国の第四王女であらせられるエレン姫。
 帯剣している黒ヒョウお姉さんは、その護衛で近衛士のジャニス。
 ケモミミさんたちが登場、ファンタジー要素キターッ!
 と喜んだのも束の間、挨拶もそこそこに。

「すみませんが、あまり猶予がありません。面倒も避けたいですし、余計な茶々が入る前に急ぎましょう」

 とエレン姫。
 追い立てられるようにして出立する。
 向かったのはドーム施設の地下深く。下層には光る魔法陣みたいなので降りた。
 降りた先は地下鉄の駅のような場所になっており、そこからリニアモーターカーみたいなのに乗車してギューンとね。

「異世界文明、すげえ!」

 枝垂が感心しているうちに、さっさと途中下車にて乗り換え。足早やに構内を移動する。
 お次は枝垂もよく知る列車っぽいの。これにてガタンゴトン、ガタンゴトンと揺られるうちに、地上へと出た。
 とたんにあらわとなったのは、魔法とスチームパンクが融合した近代的なメトロポリスの姿である。この世界の文明レベルは地球と遜色ないか、それ以上であることはまず間違いあるまい。
 でものんびり眺めている暇はなかった。またもや乗り継ぎである。
 あれ? 乗り継ぎ、ちょっと多くない。

 うん、訂正しよう。
 ちょっとどころではなかった。
 乗り継ぎにつぐ乗り継ぎの連続にて、その数はじつに十八回にも及んだ。
 回を重ねるほどに乗り物は古ぼけ、シートは固くなり、車両も減っていき、景色も寂しくなり、ついには二両編成にて乗客もまばらとなった。
 大都会から都会へ。都会から準都会へ。準都会から地方へ。地方からさらに田舎へ。田舎からもっとド田舎へ。
 マトリョーシカ方式にて、じょじょにショボくなっていく。
 枝垂の脳裏にふと「都落ち」という言葉が浮かんだ。

  ☆

 慌ただしい出立、強行軍は五日にも渡って続く。
 しまいには馬車と船と徒歩にて、はるばるやってきましたコウケイ国。
 なお旅の途中、山賊に二度遭遇し、列車強盗にも遭い、禍獣にも襲われた。
 ああ、禍獣は、いわゆるモンスターのことね。動物が魔素とかの影響で変異した狂暴な個体のこと。

 都市部を離れるほどに治安がみるみる悪くなる。
 異世界おっかない、ガクブル。
 でも一番おっかなかったのは、次々と襲いかかってくる連中をサクっと返り討ちにしていたケモミミさんたちである。
 護衛のジャニスが強いのはわかるけれども、姫さまも超強かった。楚々としてためらうことなく、賊の首を風の魔法でチョンパしていた。
 えーと、これって本当に勇者が必要なのかな?
 そんな疑問を枝垂は抱かずにはいられない。

 姫たちが出立をやたらと急いでいた理由は、たんに乗り継ぎのタイミングのため。
 コウケイ国は僻地のきわきわにある。列車の直通便なんぞはない。飛空艇の航路からもはずれている。だから幾多の路線をまたぎ、奇蹟的に重なる乗り継ぎのタイミングを逃すと、とたんに足止めを喰らうことになる。それも一日単位で。
 ぽつんと吹きっさらしの無人駅で、賊や野生の脅威に晒されながらの半野宿とか辛すぎる。

 地球の五大陸にムーやらアトランティスなどの幻の大陸を合わせたものよりも、ずっともっと広大なギガラニカ大陸。
 そこの北北東の端っこにある離島、大きさはちょうど淡路島ぐらいなのがコウケイ国である。
 この世界にある三十九ヶ国中で、もっとも小さい国だ。
 えっ、国力はどうかだって。ふっ、みなまで言わせるなよ。推して知るべし。
 では、どうしてそんな国に枝垂が島流……ゲフンゲフン。もといホームステイすることになったのかといえば、国際会合の取り決めによる強制振り分けである。

 これまでの勇者召喚の儀では、召喚される者の数は平均で三人、最小では一人、多くても五人ぐらいであったのに、今回は三十九人と大盤振る舞い。
 しかし、そのせいで首脳陣が揉めた。
 いつもは主要五ヶ国で保護し、勇者の育成を行うのだが今回はあまりにも数が多い。
 中央だけで囲い込むには戦力過多にて、第二十一次・星骸討伐戦にて生じた被害とも相まって、「いつもズルいぞ! たまにはこっちにも回せ」と各国から不満の声があがったのだ。
 神々の恩恵を受けて遣わされた勇者は、魔法こそは使えないものの、優れた星のチカラを宿している。
 それは国防に役立ち、専門的な知識や技術を持つ者ならば、多大な国益をもたらす。
 喧々諤々の話し合いの末に、今回は勇者の数と国の数がちょうど合致しているということもあり、みんなで仲良く分けることになった。

 ただしそこはそれ、国力差がものを云う国際外交の場ゆえに、発言力の強い大国から「これもーらい!」「だったらうちはこっちをゲットだぜ!」みたいな感じで、受け持つ勇者を選んでいくことになった。
 その結果、最後まで残ったみそっかすを、最弱国が押しつけられることになったのである。
 かくして各国一名ずつ、勇者を確保したのだけれども、そこはそれ、やっぱり他の勇者のことも気になるわけで……
 振り分けが終わった直後から始まったのが、熾烈な諜報戦である。
 これに巻き込まれるのを嫌っての、慌ただしい出立でもあった。


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