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037 アルティメットレア

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 あー、星クズの勇者である枝垂がまたやらかしたっぽい。
 新たに出した物が、なんかヤバいかも……

 ということで、急遽集められた定例会のメンバーたち。
 本日はそこに当事者である枝垂と飛梅さんも参加しており、総勢九名となっている。

「ふむ、しかしコレが本当にそのカードから? にわかには信じがたい話だが」

 持ち込まれた梅の刻印入りの鉄のインゴット――推定めちゃくちゃ重そうな品――を片手で軽々と扱っては、胡乱げに眺めていたのはロバイス王である。
 王様のかたわらにて、手にしたカードをひらひら振っていたのはディラ王妃にて「どうやら出るのは一度きりみたいですね。まぁ、それもそうですか」とちょっと残念そう。

 円卓を囲む一同、その卓上にはカード付のポテトチップスの小袋が三つ置かれてある。
 みんなに説明するのと検証用にと新たに召喚した分だ。

「梅おかか味か? 酒のつまみに良さそうだな」

 ペロリと舌なめずりしたのは、常駐医でいちおうは宮廷医の肩書きを持つアラバンだ。呑んべえのトカゲの獣人は、だいたいのことを酒を基準に考える。

「いや、実際に食べてみましたけど、ふつうにお菓子としてもアリですよ。子どもばかりではなく大人も好む味かと。それから驚くべきは、一枚一枚の薄さですね。向こう側が透けて見えそうなほどに薄いのに、それでいてしっかりと歯ごたえが残っており、パリッとした食感が癖になるんです。何気に凄い調理技術が用いられているかと。
 それから王よ、インゴットは確かにそちらのカードから出現しました。自分はその場に居合わせましたので間違いありません」

 ポテチを賞賛しつつ近衛士のジャニスが証言する。

「にしても、またいきなりですね。枝垂くん……、何か気になることでもありましたか?」

 小首を傾げたのは第一初等部の担任教諭であるマヌカだ。
 生徒が十人ぽっちの学級の先生ゆえに、先生と生徒との心の距離、結びつきはつねのものとは比べものにならない。まだ付き合いは浅いながらも、過ごす時間の密度ならばある意味、この場にいるメンバーらの誰よりも深いと言えなくもない。
 ゆえに先生は丸っとすべてお見通しなのである。
 マヌカからじーっと見つめられて、枝垂はもじもじ照れながらいきさつをかいつまんで説明した。
 子どもたちがカリカリ梅に飽きており、飛梅さんの加入にて転入生というアドバンテージも失い、運動も勉強もまるでダメ、このままでは立つ瀬がなくなっちゃうかも。
 と焦ったがゆえの行動と結果。
 教え子の告白を受けて、マヌカは「バカね。なにを気にしているのかと思えば……。そんなことあるわけないじゃない。失礼しちゃうわね。枝垂くんは私の生徒たちをちょっとみくびり過ぎよ」とぷくりと頬を膨らませる。

 微笑ましい教師と生徒とのやりとり。
 王宮医師兼鑑定士兼教育係兼王の相談役のナシノ女史が「よきかな、よきかな」とうなづく。飛梅さんも「うんうん」うなづいていた。
 おかげでなんとな~く場がほんわかいい雰囲気となった。
 だというのに、ひとり空気を読まなかったのがエレン姫だ。
 風と光の二属性持ち、魔道具を分解してはいじったりするのを趣味としている才媛は好奇心旺盛にて、「そんなことはどうでもいいから、はやく袋を開けてみましょうよ」と急かす。
 これには一同苦笑いしつつ、さっそく一袋目を開けてみることにする。

  ☆

 ポテトチップス梅おかか味。トレーディングカード付にはいくつか守るべきルールがある。
 現時点で判明しているのは以下の通り。

 ルールその一
 カードはあくまでオマケである。本体を完食するまでは開封断固拒否。
 ルールその二
 カードは二枚組。ハズレもあるよ。
 ルールその三
 カードには☆印にて等級が設けられており、描かれている品が実体化する。
 ルールその四
 ただし実体化するのは一度きりである。なおいったん実体化したらカードには戻らない。
 ルールその五
 本体を完食するのは複数人でもかまわない。美味しい物を分かち合う。仲良きことは美しきかな。

 これらの説明を枝垂から受けつつ、みなで実食。
 パリッと小気味い音がして、ポテトチップスを口へと運んだ一同はみな大きく目を見開く。

「ほう、これはたしかに旨いな」
「ええ、ちょっとはしたないですけど、つい指先までペロリと舐めたくなりますね」
「うん、やっぱりイケる。量も訓練の後の小腹が空いたときに丁度よさげだ」
「おいしい~」
「味付けが絶妙だな。くーっ、無性に酒が恋しくなるぜ」
「なるほど。この薄さはたしかに凄いですね。なのにこの食べ応え。よくも袋の中で粉々にならないものです」
「どうやら袋の中にいっしょに空気……ではありませんね。それだと品物が傷んでしまいますから。何らかのガスを注入することで美味しさを維持するのとともに、中身が割れないように守っているのでしょうか。ふむふむ、これはじつによく考えられています」

 ロバイス王、ディラ王妃、ジャニス、マヌカ、アラバン医師、ナシノ女史、エレン姫ら七名は思いおもいの感想を口にする。おおむね好評であった。
 というわけで一袋をあっという間に完食し、お次はいよいよカードのお披露目である。
 では誰がカードの封を切る?
 となったところで、「はいっ!」と勢いよく手をあげたのはエレン姫であった。
 だから枝垂はカードのパッケージを姫に渡したのだけれども、ちらりと横目に見えたのがロバイス王の羨まし気な顔である。ひょっとしたら開けてみたかったのかもしれない。

 みんなが緊張した面持ちにて注視するなかで、ビリビリビリ。
 あらわれたカードの一枚目は☆印がふたつにて、描かれていたのは金のインゴットであった。なおこちらの世界でも金銀やら宝石などは、ふつうに高額取引されている。
 梅印の刻印入りの金塊がゴトリ、卓上にあらわれ一同顔をひきつらせる。
 前言撤回! なんかヤバいかもどころではない。
 めちゃくちゃヤバい。金塊の登場により、いろんな意味でヤバさのレベルがいっきに爆上がりした。
 そしてドキドキの二枚目は☆印が四つにて、まさかのアルティメットレアの綺羅カードが早くも登場! 
 カードに描かれていたのは籠手にて、イラストの下にはこう書かれてあった。

『飛梅専用装備通常版フルアーマー・籠手(右)』


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