99 / 242
099 聖梅樹
しおりを挟む花畑に囲まれた丘、その上にある巨大な梅の木。
見上げるなりナシノ女史は「……聖樹」とつぶやく。
聖樹とはギガラニカ世界に伝わる神話とかお伽噺に登場する木にて、地球でいうところの世界樹みたいなモノ。
でも、これはあくまで梅の木だから「聖梅樹」といったところであろうか――
ただいまコウケイ国一行は、聖梅樹の下にてハチノヘたちから歓待を受けている真っ最中である。
枝垂が合流したときにはすでに共闘して、ナムクラーゲンを退治することが決まっていた。この宴会は懇親会と決起集会を兼ねている。
ハチノヘ側からはハチミツ尽くし御膳のもてなしを受け、一行は舌鼓を打つ。
お礼に枝垂はカリカリ梅やら極上梅干しに、ポテトチップスなどを大量に出しては謝辞を述べる。なお、オマケのカードの開封はあとで城に戻ってからのお楽しみ。いや、だってこんなところで重たい金塊やら魔鋼とか出しても荷物になるだけだし。
☆
にしても、この樹はじつに興味深い。
聖梅樹は樹齢千年越えの大楠ほどもある立派な体躯と、雄々しい枝振りをしているが、咲く花は通常サイズである。
けれども大きい分だけあって、咲かせる数が非常に多い。
まるで満開の桜のごとく無数の花弁をつけている。
この樹の面白いところは、いろんな品種が混ざっていること。
紅、白、桃、青白、色みの濃いのから淡いのまで多彩にて色とりどりだが、シンプルな五枚花弁の「竜狭小梅」「三吉野」「曙」などに混じって、中輪八重咲の「東錦」や「浮牡丹」、大輪の「黄金鶴」や「鴬宿梅」に「月宮殿」などが咲き誇っている。
原種に近い小ぶりな野梅系、ほとんどの花が紅色で枝の切口の色が赤い緋梅系、アンズとの関わりが深く大輪が多い品種の豊後系……
花梅に実梅、それらが混然一体となり、一本の木で仲良く共存している。
まるで梅のコミュニティのようだ。
花たちは争うのではなくて、互いに手を携えて生きている。
自然と頬が綻んで心が和む。
とても平和な光景だと枝垂は思った。
これを眺めていると、樹人たちの世界に対する想いがヒシヒシと伝わってくる。
彼らはつねに共存共栄を願っていた。その想いはきっといまもなお脈々と受け継がれているはず。
だがしかし……
「そうなると気になるのは鉱人の方なんだよねえ」
枝垂の独り言をナシノ女史が小耳に挟む。
「どうした枝垂、何か気になることでも?」
肩書多く何かと忙しいナシノ女史とゆっくり話せる機会はそうそうない。
いい機会なので、枝垂はずっと気になっていたことを相談してみることにした。
「いえ、じつは鉱人たちのことなんですけど、樹人らがこうして生き残っているのならば、より不滅に近い彼らも生き残っているんじゃないかと」
「……その可能性は極めて高いね」
「それで鉱人ってのは核となる部分さえ無事なら、カラダがいくら壊れても再生できるって」
「ああ、そうみたいだね」
「その核なんですけど、どのようなモノだったんでしょうか? 宝石みたいにキラキラしていたのか、それとも固い鉱物で出来ていたのか」
「鉱人の核か……私も古い文献でちらりと読んだだけで、あまり詳しいことは知らないけど、いろいろだったって話だよ」
その辺に落ちてる石ころのようなモノもあれば、まるで王族の宝飾品のようにカットされたモノもあるし、色とりどりの宝石のようなモノもあり、丸い玉もあればゴツゴツした岩の塊もあり、なかには棒状やら角柱に円錐や円柱、正多面体などなど。
すべて似て非なるモノにて、同じ形状のモノはただのひとつもないとも云われている。
この話をナシノ女史から聞いた瞬間、枝垂は不意にぞくりとして寒気を覚えた。
どうしてそのようなことを考えたのかは、自分でもよくわからないのだけれども、枝垂の中でいろんな符合が急に合致する。
もしも、もしもだ。
例えばある日のこと、畑仕事に出かけてせっせと土を掘り返していたら、地中からいきなり大きな宝石が出てきたら、どうする?
とたんに億万長者だ。人生大逆転、勝組でハッピー?
いいや、そうはならない。身の丈にあわない大金を手に入れたら、十中八九、ろくなことにならない。
めでたし、めでたしで終わるのは昔話の中だけだ。
現実では醜い争いが起きるだろう。
ホープダイヤモンドというものがある。
世界で最も有名なブルーのダイヤモンドにて、数多の王族や大富豪の手を渡ってきたが、持ち主たちは不幸な最期を遂げている。
持ち主に祟る、不幸を呼び寄せるとされる宝石の話は存外多い。
とはいえ枝垂とて、これを本気で信じてはいなかった。小学校の図書室に置いてあった都市伝説の本に書かれていたことを、友達らとキャアキャア面白がっていただけのこと。
でも、それがもしも偶然なんぞではなかったら?
その宝石が地球産のものではなくて、異世界ギガラニカ由来のもので、じつは鉱人の核であったとしたら話が大きく変わってくる。
宝石が持つ美しさや醸し出す神秘の輝き。
人々の欲望を刺激し、ときに狂わせ、争わせ、命をも奪う。
根底に胎動するのは、まぎれもない悪意。
現在、ホープダイヤモンドは米国スミソニアン博物館にあったはず。そしてあの国は世界で最初に核実験を……
「まさか……いや、さすがにそれは……」
繰り返される星骸の降臨。
原因は地球側の環境破壊にある。
だが、仮にそれを意図的に引き起こしている者がいるとしたら、目的はひとつしかない。
復讐――
急に固まった枝垂を案じて、ナシノ女史が顔を覗き込んでくるも、枝垂は目を合わせることができなかった。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる