顔だけ美醜逆転の世界で聖女と呼ばれる私

猫崎ルナ

文字の大きさ
12 / 33
疫病の旅編

残酷な出来事もあれば、新たな出会いもある

しおりを挟む

私はそれから怒涛の日々を過ごしていた。


王様や神官長から『疫病や災害があった場合にそこにいってくれないか』というお願いに対して『暇だし人助けできるのならばまぁいっか』と楽観的に考えて返事をした事が、私の怒涛の日々の始まりだった。


私に前のめりになってまで人を助けたいという崇高な考えはないが、助けることができる命があるなら出来る範囲内で皆を助けようと思ったのだ。


そんなこんなで色々な町や村に何度か行き人を助けつつ二人の夫と仲良く過ごしている私は、減る事が無い無限にくる救助要請に少し疲れていた。


酷い時は5時間かけて馬車で村へと行き、力を使い、また違う村へと6時間かけてゆき、力を使い…と、睡眠は移動中の馬車の中で済ませる事が大半だった。


最初の私の意思と反し何故こんなに多忙を極めているのかというと…発生源不明の疫病がとある村で流行り、それが商人や冒険者伝で各地へと運ばれ、治療法もわからないままに、人がどんどん亡くなっていると報告を受けたからだった。


私は神殿長から『補佐をつけるのでどうかお願いします』と何度も頭を下げられ続けたことにより、長い長い旅へゆく事を夫達と共に決めたのだが、この時の私はまさかこれ程まで大変な事になるとは思ってもいなかったのだ。


睡眠もままならない、食事もままならない、お風呂にも入ることが難しいという三重苦に悩まされ続けながらも必死に各地へと赴き続ける私達こ心は少しずつ疲弊していった。



(…そんな思いをしながら必死こいて私が行っても、住民から感謝だけをされるわけじゃなかったけれどね。)



『なんでもっと早くに来てくれなかったんだ』

『聖女様ならこんなことが起こる前に対処しろよ』

『もっと早くに来てくれてたらあの人は…』



そういった無理難題を言われることもしばしばあった。


実際沢山の人が亡くなっているのだ、そういった事を言いたくなる気持ちもわかる…頭ではわかっているけれど、やっぱりなんだかとても…心が疲弊してゆく。


現状を深く考え『人を助けたい!』といった心持ちで始めた事だったならば違ったとは思うのだが、楽観的に始めた事だったので後悔すらしてしまっていた。



もうこんな事を続けたく無い気持ちでいっぱいだった私だったが、ある日の事。

私がいつものように困っている村へと到着すると、その村は今まで見た中で一番と言っていい程に酷いものだった。



私はその光景を見て息を呑んだ。



その村では疫病が流行り、小さな村だった為に住人全てに感染してしまった様で、どの家からもうめき声や嘔吐している音などが聞こえてきたのだ。

そして、元気な人が居ないからなのだろう、亡くなった人達が一纏めにされ頭から胸までを布で覆われて放置されていた。


あの掛けてある布は顔が見えないようにだろう。



埋葬したくても、皆病に苦しんでいるから一纏めに置いておくしかない現実に私は酷く動揺した。

神官達がその人達を埋葬するために行動をし始めたのを見てやっと、私はハッと気を取り戻した程だ。


気を取り直した私は、急いで近くの家から一つ一つ周り『再生』の力で病を消し、私の夫たちは汚れた衣服やシーツを洗ったりと上手く連携を取りながら対処していった。


私達と一緒に来ていた神官達も必死に出来る事をし、なんとかその日のうちにその村の人達を救うことができた。



「聖女様、本当にありがとうございます…本当に、本当に…」



そう言って泣く人達を見てきた私は、旅に出た初めの頃の自分を思い出し凄く恥ずかしく思った。


そして、誰になんと言われようが出来ることは頑張ろうとこの日を境に考えを変える事ができた。…遅いと思うだろうが、実感があるのとないのとでは雲泥の差だろう。



それから私は疫病に侵されている人たちのいる場所や、時には災害が起こった場所へと精力的に赴き人を助けていった。


夫二人からのサポートもあり、私は何とか頑張れていた状態だった。



きっとどんなに私が心で頑張ろうと思っていても、夫達がいなければ心が折れていた事だろう。







まぁ、そんな苦しくも忙しい毎日を過ごしている中、私は新しい夫候補をちゃっかり見つけていた。実にちゃっかりしている。



あれだ『英雄色を好む』と言うからね!…私は聖女だけど。



「おい!何で俺に構ってくんだよ!ばかかてめー!」


はい、私に会う度に悪態を吐きまくるこの白髪で赤目のショタが夫候補です。

サラサラとしたストレートの髪を顎のラインで切り揃え、クリクリとした赤い瞳はその性格が表れているのか少しつり目気味である。

実に可愛い。実に素晴らしい。至宝である。


「だってー、可愛いからさぁー」

「うるせえな!誰がチビだよ!可愛いとか頭おかしいんじゃねーのかよ!」

「誰もチビって言ってないけどなー?可愛いの言葉の意味を チビ だと思ってるの?」

「うるせえ!デカ女!デカパイ!デカパイ!」



ビックリする程お口の悪いこの男の子は驚く事に結婚適齢期の男性なのだ…だがしかし、完全にその身目も態度も全てがショタなのだ。

もう、誰が何と言おうと、口が悪すぎる美少年なのだ。



この男…ティルは私が助けにきた村の住人の一人だった。


私がティルに会ったのは二ヶ月前の事、いつもの様に長い時間をかけ馬車にて疫病に侵されている村へとやってきた時だ。

その村は人口がとても少なく、どこか閉鎖的な雰囲気を醸し出していて私達をあまり歓迎してない様子だった。

感謝はされているのだが…住人の目が、何と言えばいいのかわからないが…少し怖かったので、力を使ったらすぐに次の場所へと移動しようと思っていた。

患っていない人も居たのだが念の為、全ての村人に対して力を使った。


それが終わり、私がさっさと馬車に乗ろうとすると、少し先に湖があることを神官が伝えてきた。

その言葉で私は久しぶりに水浴びができると大喜びし、その湖へと脇目も振らずに走った。


村から少し離れた場所にある湖はとてもきれいで、私の心は狂喜乱舞していた。

周りが森に覆われているその場所で私が気分良く水浴びをしていると、どこからかうめき声が聞こえたので吃驚して駆け寄ると、そこには顔を苦しそうに歪ませ縮こまっている子供がいた。



そう、その時に森の中でうめき声を上げていたのが夫候補のティルだ。



疫病に侵されている様子のその子に私が急いで駆け寄り力を使うと、苦しそうだったその顔や身体から力が抜け、ゆっくりと閉じていた目を開けて私を見たのだ。


そう、そうなんです。その綺麗な赤い目に私は胸を撃ち抜かれてしまったのです。



初めは幼い子だと思っていたのだが、話を聞くと成人している事がわかり夫として連れて行こうと決心したのだ。

だが、ティルは私がどんなにアプローチをしても子供じみた暴言を吐いて首を縦に振ってくれない。

さてどうしようかと思っていたのだが…『このまま村にいたくないから』と言うティルは、私と一緒に旅についてくる事になった。

その言葉を聞いた私はティルを何としても旅の間に口説き落とそうと深く決意した。



ティルはこの村で母親と二人で住んでいたらしいのだが、その容姿で村人には嫌われていたらしく…疫病で母親が亡くなってからは一人寂しく自給自足で生きていたらしい。


私はその話を聞いてより一層ティルを夫にしたい守りたいと思ったのだ。


(ティルは栄養不足で体が小さいのかな。)


私と同じくらいの身長のティルは男の人にしては小柄だったし、体はとても細かった。

そんなティルが毒づく様はまるでハリネズミのようでやっぱり可愛いとしか思えなかった。





ただ、ティルを連れて行くことに難色を示した人がいたんだよね。

それは、初めて教会に行った時に案内してくれたあの女性。

あの女性は私と一緒に旅をしているのだけれど、あまり会話はしないし近くにも寄って来ない。

一応名前がリュカってことだけは教えてくれたけど…この半年の間ずっと一緒にいるのに全く接点がないのだ。


けれど、リュカが難色を示したところで私が聖女なので『夫にしたいと思っている』と言うと皆は同行を許してしまう。

私の自分勝手な発言のせいで嫌な気持ちにさせてしまったことに少し後悔をしてしまったが、可愛いものは可愛いし、夫にしたい気持ちは本当なのだ。


(もう既に手遅れな程リュカに嫌われてるのに、今回のことで更に嫌われたんだろうな)


私はそんな事を思い、深いため息をついたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

ブラック企業に勤めていた私、深夜帰宅途中にトラックにはねられ異世界転生、転生先がホワイト貴族すぎて困惑しております

さくら
恋愛
ブラック企業で心身をすり減らしていた私。 深夜残業の帰り道、トラックにはねられて目覚めた先は――まさかの異世界。 しかも転生先は「ホワイト貴族の領地」!? 毎日が定時退社、三食昼寝つき、村人たちは優しく、領主様はとんでもなくイケメンで……。 「働きすぎて倒れる世界」しか知らなかった私には、甘すぎる環境にただただ困惑するばかり。 けれど、領主レオンハルトはまっすぐに告げる。 「あなたを守りたい。隣に立ってほしい」 血筋も財産もない庶民の私が、彼に選ばれるなんてあり得ない――そう思っていたのに。 やがて王都の舞踏会、王や王妃との対面、数々の試練を経て、私たちは互いの覚悟を誓う。 社畜人生から一転、異世界で見つけたのは「愛されて生きる喜び」。 ――これは、ブラックからホワイトへ、過労死寸前OLが掴む異世界恋愛譚。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

天使は女神を恋願う

紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか! 女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。 R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m 20話完結済み 毎日00:00に更新予定

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

処理中です...