狼王の贄神子様

だいきち

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「ティティアに、いっぱい偉いねと褒められたい」
「へ……?」
「私を合法的にヨシヨシできるのは君だけだ。だから、誰も見ていないところで頭を撫でて褒めて欲しいと思っている」

 そんな頭の悪いことを、やけに真剣な声色で宣った。曇りなき眼で見つめてくるカエレスが、冗談を言っているようには聞こえない。ということは、しっかりと本気というやつだろう。
 ティティアはむん、と唇を閉じると、元の姿に戻ったカエレスの両頬を包み込んだ。狼の顔の時とは違う、滑らかな素肌に手のひらが吸い付く。そのままもちもちと頬を撫で回してやれば、カエレスは忙しなく尾っぽを振り回した。

「違う、いや違わないが、あ、ああ~~……ティティア、いけない。それはいけない手のひらだ……」
(うんうん唸りながら喜んでる……)
「やめ、やめなさい……私は大人だから、そんな……あぁ~~……」
(人の姿でも喉から雷の音するもんなんだ……)

 ぐるるる、と治安の悪い音を立てながら、言葉とは裏腹にしっかりと満喫している。しかし、このままではいけないというのは理解していたようだ。カエレスはくわりと目を見開くと、ティティアの細い手首をしっかりと鷲掴んだ。

「ぅわっ」
「やめなさいと言ったね私は。いつから人の話を聞かない悪い子になったんだい?」
「だ、だって喉から雷出して喜んでた……」
「あれは本能だ。って違う、そういうことではなくて」

 気がつけば、カエレスが天井を背負っていた。黒く美しい髪が、ティティアの頬を撫でる。近い距離で見下ろされて、ティティアはこくりと喉を鳴らした。

「この距離、ひ、さしぶりだ」
「……意識してくれているのかい?」
「す、するよ……お、俺だって男だもん」
「グゥう……」

 ヘナヘナとティティアの肩口に顔を埋めたカエレスが、妙な声を上げる。柔らかな耳がもふりと口元をくすぐるのが少しだけ気持ちいい。カエレスはというと、何やらぶつぶつ言っているが小さすぎて声も聞こえない。
 なんとなく広い背中に手を回すと、ティティアは悪戯半分にカエレスの大きなお耳をはむりと唇で挟んだ。

「……遊んでいるのかい?」
「な、なんとなく……え、顔こわ」
「今私は必死で理性と戦っている最中だ」

 ティティアの唇から逃げるように、大きなお耳はへたりとしおれる。とんでもない美丈夫の不機嫌な顔は実に迫力がある。
 形のいい唇からチラリと見える犬歯を目にすると、ご機嫌を伺うように口端に口付けた。

「……ティティア?」
「この距離で、何もないってある?」
「私以上の男気を発揮するね君は」
「カエレスの言ってるヨシヨシ、俺の想像であってる?」

 じんわりと頬を染めて、とんでもないことをぬかす。そんなティティアの言葉を前にパカリと口を開けて間抜け面を晒せば、ティティアの親指がそっと口の中に差し込まれた。
 犬歯の表面を愛でるように、そっと撫でられる。一度危害を加えたことのある牙を、怖くはないと言わんばかりにだ。そういえば以前ティティアが言っていた。カエレスの犬歯を触るのが好きだと。
 これは随分なお誘いではないだろうか。カエレスは大人しく口を開けたまましばらく動きを止めていたが、しかし我慢できなくなってそれもやめた。
 ティティアの指先を口に含むと、じゅ、と音を立てて甘く吸う。

「あっ」
「過度の接触は控えねばならないが……、それでも許されるのなら甘えさせてほしい」
「赤ちゃんびっくりしないかな」
「大丈夫、そこはうまくやる」

 そこはうまくやるってなんだ。カエレスの言葉にポカンとしたが、任せる他はないだろう。頬に口付けられ、小さく身をすくませる。思えば妊娠してからは、軽いふれあい程度で一度も行為をしていない。今は狼の姿ではないので、なんだか新鮮さすら感じてしまう。
 緊張から無意識にこわばった体に気がついたのか、カエレスがティティアの顔の横に肘をつくようにして見下ろしてくる。

「……この姿の方が、傷つけないから。あと、ゆっくりしよう」
「二回目だ……」
「優しくする」
「ン」

 べろりと唇を滑られた。それを合図にするかのように、カエレスは鼻先をすべらせ首筋をたどる。
 大きな手はティティアの心音を確かめるように胸に添えられた。

「横向くほうが楽かい?」
「うん」
「ならこうしよう」

 ぎしりと音を立てて、カエレスが隣に寝転んだ。ティティアの腰を引き寄せるように抱きしめると、服の裾から手を忍ばせる。
 丸みを帯びた腹に、手が吸い付く。労るように数度なでれば、腰に手を這わせ輪郭を辿る。

「下、いいかい」
「カエレスが脱がして」
「ふふ、随分可愛いのを穿いている」

 指先が、下着をつなぐ紐に触れた。心もとない一本を解けば、滑らかに素肌を滑り尻を晒した。

「締め付けないのほしいなって、ハニに相談したら買ってきてくれたんだ。お揃い」
「部下の下着事情つきか。なるほど、ヘルグも随分といい趣味だ」
「犬獣人ってみんな好きらしいですよ、ひも」
「紐パンは種族問わずみんな好きじゃないのかな?」

 もちり、とティティアの尻を包むように揉む。
 唇やらほっぺやら、カエレスがマーキングをするように落とす口付けを受け止めながら、何となく想像してみる。
 紐パンを穿いた己の番いが仁王立ちをしている姿だ。うん、やはり立派すぎて似合わないかもしれないと納得すると、そうかな?と口にした。

「なんだか怖い想像をしていたね」
「あ、っそ、わ、わかるもんなの?」
「なんとなく、だよ。番いだからね」
「そっか、ぁっ、つ、つがいだからか、んっ」

 可愛い声が聞こえたね。そういって、カエレスが嬉しそうに微笑む。噛み癖はまだ治りそうにない、あぐ、と顎を甘く喰まれて、カエレスの指がティティアの尻肉のすき間に入る。

「ここ、ごめんね」
「ん、いいよ」
「指でふれても?」
「……やさしくしてね」

 ぼしょ、と照れ臭そうに呟く。太い指はそのまま、蕾から会陰へと移動した。蕾から伸びた細い筋のようなものは、一度目の行為でカエレスを受け止めた証だ。産後でもないのに、そこには裂けた跡がある。
 歯型と、爪痕と、縫い目だらけの体に触れては、カエレスはあのときの夜を後悔するのだ。

「この傷、全部俺のだから……、いいでしょ」
「ええ?」
「俺の体には、カエレスがずっといるんだよ」

 だから、いいでしょ。
 にこりと笑って、自慢げに言う。そんなティティアを前に、カエレスはやっぱり敵わないなと思うのだ。

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