狼王の贄神子様

だいきち

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 廃村の井戸から出るとは思わない。ウメノはすんなりと出ていたが、ルスフスは井戸を地面ごと吹き飛ばすように蛇の姿で通り抜けた。出口が狭すぎて、人の姿だと難しかったのだろう。大穴が空いた地面を前に、反省の色は見られない。むしろ、達成感すら顔に滲ませていた。
 結局、二人と萎れたアモンは廃村で野営をすることとなった。ルスフスが火を囲むように蜷局を巻く。蛇の体にもたれるウメノを前に、ルスフスは雑に扱われるのも満更ではないと尾の先を揺らしていた。
 砂煙が立って気になると一喝されるまで、ルスフスはご機嫌に夜を楽しんだのであった。


 ミカヅキ平野へと向かう道なかば。ルスフスは槍を片手に地をかけていた。襲いくる魔物の蔦を弾き飛ばしながら、その長躯を捻るようにして攻撃をかわす。一本に編み込んだ長い髪が鞭のようにしなり、器用に敵の鎖状攻撃の隙間を縫う。いくつもの膨らみを連ねた緑色の蔓が勢いよく振り上げられると、ルスフスは体を捻るようにして槍を場げつけた。深い霧を吸い込むようにして、毒々しい花は大きく開花した。ルスフスの投げた槍が、花の中心、ギョロリと動く一つの目玉を貫いた。
 
「刺さった。今だよ」
「雷よ、望むままに向かえ‼︎」
 
 毒々しい紫色の花弁を震わせるように、血走ったジュニクレシアの眼はめちゃくちゃに動く。まるで、目玉の中に入った異物を取ろうとしているかのようだった。
 不思議な反響音を伴ったウメノの声に応えるように、雷撃が素早く空を移動した。眩いまでの閃光が真っ直ぐに槍へと繋がると、鉄製の柄飾りを通してジュニクレシアへと電流を流した。
 光の中で、影を顕現させるように黒く染まったジュニクレシアの体が崩れていく。核と共に焦げた目玉がぽてりと落ちると、討伐部位でもある緑の種子を連ねた触手が土煙をあげて地べたへと横たわった。
 
「なあ、サボテンのステーキみたいに食えるかな」
「ジュニクレシアの果実は栄養価も高いからね。でもうまいかで言ったら健康に効きそうな味って感じ」
「まずいってことじゃんそれ」
 
 魔鉱石で作られた槍は、ルスフスの意思によって長さを変えるロッドの役割もしているらしい。縮めたそれを腰に下げると、ルスフスは蔦の一部をしっかりとインベントリに仕舞い込んだ。
 小さな手のひらで持ち上げた目玉を片手に、ウメノがルスフスへと振り返る。討伐部位が大きすぎて、まるでボールを持っているようにも見えた。

「いる?」
「ん? いらない。俺の取り分はもうもらったからねえ」
「あ、そう。ちょうどいい大きさだと思ったんだけど」
「ウメノちゃん?」
 
 どうやらルスフスは揶揄われたらしい。アモンがネメスの向こう側に大きな目玉を押し込むのを横目に、ウメノが地図を取り出した。
 
「ミカヅキ平野まであともう少しか。まさかここまで魔物が元気になってるとは思わなかったな」
「繁殖の時期なのかい?」
「いや、というよりも……」
「しかしグランドマタンゴのユニーク種というと何だろうなあ。本来なら持たぬ属性がついたとかそういうものだろうか」
「だとしたら縄張り争いでここらへんの土地は荒れてるでしょ。わっかんないんだよなあ、森は普通に綺麗だし」
 
 通常、力の強いユニーク種が現れると、同じ特徴を宿す魔物の個体数が一気に増えるのだ。ウメノたちが踏み入れた森は、ミカヅキ平野も近いことから魔素が濃い。グランドマタンゴのユニーク種が存在するのだとしたら、出くわすのは植物系の魔物よりもマイコニドなどのキノコ系の魔物が増えるはずなのだ。
 しかし、襲いかかってくる魔物の中にマイコニドはいない。目にする木々も、キノコの侵食を受けている様子はなかった。
 
「行って見るしかないけど……乾燥キノコいっぱい取れるといいなあ」
「いいなあって、結構面倒くさい魔物なんですけどねえ」
「大丈夫だよルスフスいるし……それにお前に状態異常効かないじゃん」
「麻痺とか毒系だけだよ……、蛇だって火傷もするし眠くもなるからね」
「え、効かないと思ってた」
「めっちゃ過信してくるじゃん。いいけども」

 湿った土が足取りを悪くする。まとわりつく泥にウメノが痺れを切らしたのは、おおよそ足を取られて転びかけた七回目のことだった。
 
「もしかして、運動神経悪い?」
「知らんのか。ウメノはステータスを知能に全振りした男ぞ」
「鶏鍋にして食べてやろうかっぷぇっ」
 
 アモンとルスフスの目の前で、ついにウメノが顔から転んだ。土に埋まっていた木の根に足を取られたらしい。呆れた目線が注がれる中、ウメノは地べたにうつ伏せになったまま動かなくなった。

「はいはいおきますよウメノちゃん。俺がおんぶしてやっから」
「もおおおむかつく‼︎ 地べたの水気飛ばしてやろうか⁉︎」
「我は構わんが、後からきっと文句を言うのは童だろう」 
 
 渋い顔をしているウメノの目の前に、ルスフスが背を向けるようにしてしゃがみこむ。こちらをてまねく姿を認めると、ウメノは裾を踏んづけながらヨタヨタと立ち上がった。小柄な体が、ルスフスの背中へと抱きつく。落とさないようにしっかりと支えれば、ルスフスはゆっくりと立ちあがった。



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